がらんどうの瞳

はじめアキラ

第三十四話『奥田冴子Ⅰ』(脚本)

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〇病室のベッド
  からん!と叩き落とされた鏡が床に落ちた。途端、鏡に映っていた映像がかき消される。
  どうやら、村井芽宇との接続が切れたらしい。
  あの鏡は自分が手に持っていないと発動しない、とここで冴子は初めて知ったのだった。
  こんな夜遅い時間に、人の病室にどうやって侵入したんだろう。雨宮を睨みつけて、冴子は思う。
  いずれにせよ、彼は見たはずだ――自分が鏡を使って、芽宇を殺そうとしていたところも、発言も。
奥田冴子「・・・・・・私を止めるつもりなの?あいつらに、生きている価値があるとでも?」
  何が何でも、この復讐だけはやめるわけにはいかない。自分にはもう、他に何もないのだから。
奥田冴子「邪魔をしないで!私にはもう、これ以外に道なんかないのよ!」
奥田冴子「息子もいない、夫も晴翔君も死んでしまった!もう私には何も残ってなんか・・・・・・!」
雨宮縁「奥田冴子さん」
  喚く冴子に、雨宮は静かな声で言う。
雨宮縁「恐らく次、村井芽宇を殺したら。・・・・・・次は、長谷川珠理奈さんが酷い目に遭いますよ」
雨宮縁「貴女はそれでもいいんですか?珠理奈さんの人生を巻き込んで復讐を果たして、そのあと自分も死ぬつもりでいるんでしょう?」
奥田冴子「!」
  こいつ、と冴子は言葉に詰まる。一体どこまで、自分のことを調べているのかと。
雨宮縁「貴方が復讐をしようと思ったのは、息子さんがいなくなった世界が耐えられなかったから。理不尽な世界を変えたかったから」
雨宮縁「そして・・・・・・欠けた幸せを、補いたかったからではないのですか?」
  まるで、何もかもわかっていると言うような口調で雨宮は言う。
雨宮縁「その欠落は。復讐することで補えましたか?」
雨宮縁「あなたはいつの間にか、幸せになるという目的のための手段ではなく・・・・・・」
雨宮縁「復讐そのものが目的にすり替わっていたのではないのですか?」
奥田冴子「そ、それが何かまずいわけ!?」
雨宮縁「本末転倒でしょう。復讐して、貴女が不幸せになったら」
雨宮縁「奏音君は復讐を望んでいなかったかもしれませんがそれ以上に・・・・・・」
雨宮縁「貴女が不幸になることを、誰より望んでいなかったはずです」
奥田冴子「――っ!」
  そんなこと。
  そんなこと、冴子にだってわかっている。でも。
奥田冴子「だったら・・・・・・私にどうしろって言うの!」
奥田冴子「あの子がいない世界で、のうのうと生きてる連中に復讐することもできず、」
奥田冴子「あいつらが裁かれることもない理不尽を見つめて・・・・・・独りぼっちで生きていけば良かったとでもいうの!?」
  それが出来る人も、世の中にはいるのかもしれない。
  でも少なくとも冴子は、そんな強い人間などではなくて。
雨宮縁「独りぼっちでは、なかった。貴女は失ってそれに気がついたはずです」
  雨宮は、静かな声で告げたのだった。
雨宮縁「晴翔君と珠理奈ちゃんに、少なからず貴方は救われていた」
雨宮縁「そして何より・・・・・・貴方には命より大切な人がまだ残っていた。旦那さんです」
雨宮縁「・・・・・・確かに、いじめは絶対に許せないことだったでしょう」
雨宮縁「でも、復讐するにしてもやり方は一つではなかったはずです」
雨宮縁「彼等を告発し、正々堂々戦うこともできたはずです」
奥田冴子「そんなことっ・・・・・・!」
雨宮縁「よく考えてください。・・・・・・息子さんが一番望むことはなんですか?貴女の幸せを置いて他に何もないはず」
雨宮縁「貴女が幸せになるための復讐でないなら、一体どんな意味があるというのでしょう」
奥田冴子「そっ・・・・・・」
  声に詰まった。そんなこと言われたって、もう遅い。
  だってもう、大切な人達はみんないなくなってしまったのに。
雨宮縁「悪魔は、契約を解除する方法を最初に提示したはず」
雨宮縁「・・・・・・そのやり方なら、取り戻せるかもしれませんよ。貴女の大切な人達を、もう一度」
奥田冴子「え・・・・・・」

〇モヤモヤ
  第三十四話
  『奥田冴子Ⅰ』

〇病室のベッド
  雨宮が去った病室で。冴子は拾った手鏡をじっと見つめていた。
奥田冴子(契約を、解除する方法?そんなもの・・・・・・)
  その時。
  思い出したのは、あの商人が言っていた言葉である。

〇シックな玄関
商人「一応、“返品”の方法もございますが・・・・・・まあ、それは。返品したくなった時に、お教えしましょう」
商人「必要な時、いつでも私をお呼びください。私はいつでも、お客様のことを見ていますから・・・・・・」

〇病室のベッド
  あの時は、適当に聞き流していた。
  返品することなんてあるはずがない。

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コメント

  • 冴子さんが最終的に選ぶ道が気になります!
    ただ、雨宮刑事の言う告発といった手段では、加害児童は法的に裁くことはできなく、教師は形式だけの処分のみで変わらぬ生活、とうてい彼女が納得できるものではないでしょうね。
    ただ、夫さんや晴翔くんの命と引き換えとなれば……。読み手側も苦悩してしまいますね!

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