それは希望という名の。

けにゃ

読切(脚本)

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〇田舎の総合病院
看護師「いつまでいるの、あなた!何度言ったらわかるの!?」
  病院の前。
  看護師の声が響いた。
  通りすがりの人々の視線が集まる。
  そして、その注目の視線は、見てはいけない物を見たかのように、すぐに逸らされた。
男「傷痍軍人にそんな口の利き方をするとはな」
  怒声を浴びせられた男は、皮肉っぽく、口を歪めた。
看護師「フン、ちゃんと敬意は払ったわ」
看護師「でも、その顔はそれ以上戻らない。何度来ても、どうすることもできないのよ」
  男は顔に巻かれた包帯を取り去った。
男「オレはこの醜い顔で生きていくのか?」
  看護師は男のケロイド状にタダれた顔から逃れるように目を伏せた。
警備員「お前、まだいたのか!? 出て行け!」
  警備員が駆けつけてきた。
  男は抵抗する間もなく、病院を追い出された。

〇公園の砂場
  病院の横の公園。
  男は少しウトウトしてしまったようだ。

〇公園の砂場
  頬に冷たいものを感じて、男は目を覚ました。
男(雨か・・・)
  そう思うだけで、避けようという気持ちも湧いてこない。
  戦場でもこれほどの絶望は味わわなかった。

〇戦場
  むしろ、戦場では、「絶対に生きて帰るんだ」という希望があった。
  そのためには、どんな苦しい生活も耐えられた。
  6年は長かったが、間違いなく希望があった。
  が、しかし、今は・・・。

〇公園の砂場
女の子「傘持っていないのですか?」
  気がつくと、男の隣に少女がいた。
  少女は傘を男に差し掛けてきた。
  男は驚いて、思わず声を上げそうになった。
  戦場から帰ってきて、これほど屈託なく人から接しられたのは初めてのことだった。
  男は少女を見た。
  そこで初めて、理由がわかった。
  少女の目は焦点があっていない。
  どうやら、目が不自由なようだった。
  それを知ると、男は少し気持ちを落ち着かせることができた。
男「君が濡れてしまうよ」
  男は、傘を押し返した。
女の子「じゃあ、もう少し近づいていいかしら」
男「え、それはいいが・・・」
  少女は、男のすぐ隣へと身体を移した。
  男は、鼓動が早まるのを感じた。
男「どうやって、ここまで来たんだい?」
  男は緊張を誤魔化すように、早口で言った。
女の子「私、そこの病院に入院してるの。だから、この辺りは庭みたいなもの。見えなくても分かるわ」
  少女は鼻を高くした。
  男は少し笑った。
  男は少女から傘を取り、代わりに持った。
女の子「ありがとう。 もっと早くても良かったわ。 腕が痛くなっちゃった」
男「ハハハ、それは申し訳なかった」
女の子「いいのよ。日々勉強ね、フフ」
  雨が小降りになってきた。
  止まないでほしいと男は思った。
女の子「あなた、戦争に行っていたの?」
男「うん、そうだ。 よくわかったね」
女の子「雰囲気で分かるわ」
男「そうかい」
女の子「戦争って・・・ひどい?」
男「ああ、ひどいね」
女の子「それに比べたら、手術なんてなんでもないわね」
男「手術を受けるのかい?」
女の子「そうなの。成功したら目が見えるようになるの」
  少女は嬉しそうに目を細めた。
  男は、目が見えるようになったら、もう二度とこんな風に話すことはできないだろうなと思った。

〇公園の砂場
  雨が止んだ。
  少女は傘を畳むと立ち上がった。
女の子「もう戻らないと。ママとパパが心配するわ。特にパパが」
  少女は笑った。
男「1人で戻れるかい?」
女の子「庭みたいなものだから」
  少女はそう自慢気に言うと背中を見せた。
男「あっ」
女の子「えっ?」
  少女は男を振り返った。
男「名前を訊いてもいいかい?」
女の子「もちろん」
  少女は名前を名乗った。
  それは、戦争が始まるずっと前に、男と妻が考えたものだった。
  美しく、そして強い女性になって欲しいと願いをこめて。
女の子「さようなら」
男「さようなら」
  男は少女の姿が見えなくなるまで見送った。
  男の胸にはしばらく忘れていた「希望」が宿っていた。
  それは、自分が戦場にいる間に、娘の目から光を奪い、自分を戦争で死んだことにし、見知らぬ男と再婚した女に・・・
  復讐すること。
  それは間違いなく希望だった。

コメント

  • 復讐をあえて希望という言葉で表す表現に希望という言葉は良い意味も悪い意味も持っているんだなと思いました。とても続きが気になるお話で続き楽しみに待っています!

  • ラストの展開にはびっくりしました…汗
    確かにこれは復讐したくもなる…、というか国に絶望しそう…。
    戦争…良くないですよね。何も良い事はない。
    良いと思うのは武器を作って横流ししている国家のみ…。

  • 人は心、ですが見かけで判断されてしまうもの。悲しい真実ですね、少女の優しさが余計に身に染みる感じがしました。この後の展開気になります。

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