Under the rose

ゴンザレス

Under the rose(脚本)

Under the rose

ゴンザレス

今すぐ読む

Under the rose
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇西洋の城
  今日は、この国で最も祝福すべき日だ。
  王国建国以来といわれるほどの知性とカリスマ、そして美しさを併せ持つ王子の結婚式なのだから。
  王子のお相手は心優しき麗しの乙女。
  継母からの嫌がらせにも負けない、野原に咲く一輪の花のような暖かさと気高さを持つ少女だった。
  国民たちは、みな一様に新しい時代の幕開けに期待で胸をいっぱいにしていた。
  ──私以外は。

〇結婚式場の廊下
花嫁「ね、お姉さま。この式場には私のために108本の薔薇が飾られているんですって」
お姉さま「108?どうして?」
花嫁「極東の島国では結婚してくださいって意味なのよ」
お姉さま「はっ。あのキザったらしい王子がいかにもやりそうなことね」
花嫁「ふふ。それでは、お姉さま?」
花嫁「薔薇の下で行われる会話は他言無用、決して口外してはならないと言われていることはご存知かしら」
お姉さま「そのくらい知ってるわ」
お姉さま「この国の言い伝えだもの」
花嫁「そうでしたね」
花嫁「それでは、最後に秘密のお話をしませんか」
花嫁「──この、薔薇の下で」
お姉さま「・・・いいわ。じゃ、あんたから話して」
花嫁「ふふ。まずは思い出話から始めましょうか」
お姉さま「・・・なんで?」
お姉さま「秘密の話は?」
花嫁「秘密の話をするために、まずは思い出話なんです」
お姉さま「ふぅん」
お姉さま「ま、いいわ。話して」

〇豪華なベッドルーム
  幼少の頃よりお姉さまは私の面倒を見てくださいました
  血の繋がらない私を本当の妹のように、いえ、それ以上に
  本当に本当に可愛がってくださいました
  お母さまに言いつけられたお掃除も、お料理も、二人でやればいつもあっという間でした
  お勉強もダンスの練習もお姉さまのわかりやすいご指導のおかげで
  私はなんとか貴族令嬢らしい振る舞いを身につけることができました
  空いた時間では、いつも二人で屋根裏部屋に行きましたね
  あの部屋は私の部屋兼私たちの秘密基地でもありました
  今思い出しても、宝物のような記憶でございます
花嫁「──次はお姉さまの番ですわ」

〇豪華なベッドルーム
お姉さま「思い出話、ねぇ・・・」
  あんたと初めて会ったときのことはもちろん覚えてるわ
  父親の背中に隠れて少しも目を合わせてくれないの
  おかげでなかなか話しかけられなかった
  でも、勇気を持って遊ぼって声をかけたら
  あんた、天使みたいに笑うんだもの
  私本当に嬉しかった
  何年かして、あんたの父親が死んで、お母さまの態度は目に見えて変わった
  それでもあんたは私の宝石だった
  いつも一緒に遊んだわね
お姉さま「懐かしいわ」

〇結婚式場の廊下
花嫁「ふふ。お姉さまったら」
花嫁「私のことを本当に大事にしてくださったものね」
お姉さま「あんたの方こそ、雛鳥みたいに私の後をついてきてた」
  それもそうですね、と花嫁は笑った
花嫁「ところで、お姉さま」
花嫁「決して誰かにお話しして欲しくはないのだけれど・・・」
お姉さま「もちろん、ここでのことは誰にも言わない」
お姉さま「──やっと本題ってわけね?」
花嫁「ええ」
花嫁「お姉さま」
花嫁「わたし」
花嫁「私ほんとは」
花嫁「あなたに迎えにきて欲しかった」
  ──白馬の王子様なんかじゃなくて
  あなたに
お姉さま「そう」
お姉さま「ねぇ」
お姉さま「わたしも」
お姉さま「いえ、私が」
お姉さま「本当は私が迎えに行きたかった」
  ──白馬の王子様なんかじゃなくて
  私が
  花嫁の顔がくしゃりと歪んだ
花嫁「そんな風に思っていてくださったのね」
お姉さま「ええ」
お姉さま「でも、それも今日で終わり」
お姉さま「私じゃあんたを幸せにできないから」
お姉さま「あんたは白馬の王子様に連れ去られて、きっとこの国で一番幸せな女の子になる」
花嫁「はい」
お姉さま「そして私は、どうなるのかしらね」
お姉さま「もしかしたら、事実が捻じ曲げられ、お母さまと一緒にあんたをいじめたことになるのかも」
花嫁「そんなっ!」
花嫁「そんなこと絶対にさせません!!」
お姉さま「無理よ」
お姉さま「あんたが不幸であればあるほど物語は輝きを増す」
お姉さま「きっと私の存在は塗り替えられていく」
お姉さま「王子の手によってか、国民の手によってかはわからないけれど」
お姉さま「歴史とは、物語とはそういうものよ」
花嫁「お姉さまほど私に優しくしてくださった方はいないのに!」
  花嫁はぽろぽろと、ぽろぽろと美しい涙を流した
お姉さま「私とあなたの物語はここに、この薔薇の下に置いていくの」
お姉さま「可哀想なあなたは王子様に出会ってようやく愛を知る」
お姉さま「誰より幸せな女の子になる」
お姉さま「後世にも語り継がれるような」
花嫁「・・・はい」
お姉さま「いい子ね」
お姉さま「それじゃ、いってらっしゃい」
お姉さま「王子が待ってるわ」
  花嫁はそのガラスの靴で、名残惜しそうに。
  それでも
  歩んでいく
  108本の薔薇で彩られた、その道を歩んでいく
  これは可哀想な灰被りが王子様に見初められるお話
  きっと誰より幸せな女の子のおとぎ話
  後世まで語り継がれた──
  嘘の物語
  真実は、薔薇の下に
  今も眠っている

コメント

  • 言うべき真実であったのか、言わなくてよかったのか。知らないほうが幸せなこともありますが、バラの下に眠る秘密、とてもきれいな表現ですね。

  • 大事にしたいという思いを秘めて王子との結婚式で、華々しさがある一方で別れがあるという辛さの両方を感じました。世の中は愛ですね。またバラの下で会える日が来るといいですね

  • お互いの気持ちが分かり合えたゆえ新しい旅立ちが嬉しくも悲しいものになりましたね。バラの下にそっと置かれた秘密は二人にとって美しい想いでになったでしょうね。

コメントをもっと見る(5件)

成分キーワード

ページTOPへ