本人証明をしよう。(脚本)
〇散らかった居間
とある日の23:57。
誕生日を翌日に控えた男、尾河良(おかわりょう)の部屋にて
良「もうすぐ誕生日かよ・・・・・・今年も1人しかも20代最後だって言うのに」
良「もうすぐ魔法使いの仲間入りかぁ・・・・・・どうせなら魔法少女になりたい。 いや、戦いとか痛そうだな」
良「ならいっそ、普通の少女になりたい! 美少女になったら絶対毎日楽しいだろうし!」
良「虚しい・・・・・・・・・・・・寝よう」
この男は美少女にどんな期待を寄せているのかはしらないが・・・・・・そんな願いを口にして眠りについた。
〇散らかった居間
尾河良の誕生日当日
いつもと変わらない朝がやってくると思っていた良だったが・・・・・・
良「ん、んん・・・・・・今日は・・・・・・あぁ、誕生日だから有給とったんだった」
良「何今の可愛い声!? えっ!?オレから出てるの!?」
喉に手を当てる、その感触が小さい。
手足を見る。可愛い。小さい。
姿を確認しようにも部屋に鏡なんて気の利いたものは無い。
急いでスマホのカメラを起動させて自身の姿を確認する。
良「うーわ。可愛い。え、美少女じゃん」
良「って違う! え、なんで!?なんでなんでなんで!?え?昨日早めに誕生日ケーキなんて食べたのがダメだった!?」
良「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
良「あっ。これ夢だ。いやーリアルな夢だなぁ」
これが夢だと確かめるために良はとりあえず思いっきり頬をつねってみる。
良「あいたたたたたたた!? 痛い!?ゆ、夢じゃないだと!?」
魔法使いになる年齢を迎えたおっさんが起きたら美少女になっていた。
原因があるとすれば・・・・・・寝る前のあの願いだろう。
良「確かに・・・・・・確かに美少女になりたいって言ったけどさ 本当にするやつがいるか!!!神様!いるならお願いだから戻して!」
しかし、数分経っても。
1時間経っても、戻る気配は無い。
???「りょー先輩!遊びに来ました!今日は終日、ボドゲカフェでボドゲ三昧ですよー!」
良(田中と遊ぶ約束してたんだった・・・・・・どうするか。いや、田中ならひょっとしたら説明不要かもしれない)
良「開いてるから入ってきてくれ!」
玄関が開く音がする。このマンションはそんなに広くないのですぐに声の主が部屋に入ってきた。
田中「なんか妙に高い声でしたけど、ひょっとして裏声マスターしたんですか?女の子アバターで配信者デビューとか??」
田中はそこまで言うとピタリと止まる。良と目が合ったかと思うとそのまま怒りに満ちた表情で叫び出す。
田中「りょー先輩!?見損ないましたよ! あなたはそんなことする人だとは思っていませんでした!!」
田中「こんな、こんな美少女を誘拐するなんて・・・・・・しかも自分の服まで着せて・・・・・・」
良「あー。うん。それなんだけど」
田中「大丈夫。安心して、りょー先輩は俺がボゴボコにしてすぐにお父さんとお母さんの所に帰してあげるから」
田中は良が聞いた事のないイケボで励ましながらぐっと親指を立ててポーズをとる。
田中と良は同じ高校の先輩と後輩の仲である。
学生の頃はよく家に泊まりに行っては深夜アニメのリアタイをするほどの仲。
つまりはオタク仲間である。
現在では何の因果か同じ会社の先輩と後輩でもあり、やはりオタク仲間だ。
良(まぁ、うん。やっぱり気が付かないし分からないよな。仕方ない)
良「あのな、田中」
田中「び、美少女が俺の名前を!?」
良「いや、うん。とりあえず、落ち着いて聞いて欲しいんだけど。オレだよ。オレ」
田中「オレっ子・・・・・・いい」
田中「はっ!? オレオレ詐欺?ダメだよ。そんな小さい時からそんな事しちゃ」
良「それは電話口でやるもんだし、小さい大きい関係なくやっちゃいけない事だろうが!」
田中「そ、そのツッコミ・・・・・・ま、まさか・・・・・・りょー先輩の親族の方ですか?」
良「いや、うん。だから、オレがその良なの」
田中「は?」
かくかくしかじか。
30歳になる前の夜に美少女になりたいと願ったこと、そしたらこんな姿になっていたことを説明する。
良「という訳で信じられないかもしれないが、オレが良なんだ。わかったか?」
田中「それは無理ですね」
良「だよなー」
良(しかし、田中にも信じて貰えないとなると今後はもっと大変になる。何とかして信じて貰えないとまずいぞ)
幸い、仕事はリモートワークなので数日ぐらいは何とか誤魔化せるかもしれないが・・・・・・出社時などに問題が出る
そうでなくても男の一人暮らしのはずの部屋に女の子が出入りしていたら通報案件。
田中をさっと納得させなければ今後の生活がままならない。
良「そうだほら、えーっとなんだったっけ・・・・・・くっ。セリフしか出てこない。お前が好きだった」
良「思い出した。 『ミカちゃんのぉ、アンミカるシュート。ケロッと恋してってにゃん』」
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自分が何かに変身したとき、自分であることを証明するって気が遠くなるほど大変なことなんですね。田中のような特殊な性癖のある友人がいない人は、変身した時に証明する方法を普段から考えておいた方が良さそうですね。
魔法使いでなくて美少女という設定が楽しいですよね!それにしても田中くん、オタの方の問題言動をぎゅっと煮詰めたような濃ゆいキャラで、イイ味出してますねw
30歳の区切りってなんだか色々な面で焦りを感じたりしますよね。恋愛や仕事、上手くいっている人もそうでない人も、新しいステージへの意気込みや願望が、主人公のような結果を招いてしまうとは!立ちはだかった壁を越えることができるといいですね。