予め言っておく(脚本)
〇商店街
???「きみ、『死相』が出ているよ」
つよしが家に帰る途中の商店街を歩いていると、突然そう声をかけられた。
つよしが声の方へ振り向くと、フードを目深く被った人がこちらへ手招きをしている。
その人の前に置かれた水晶玉が、きらりと光った。
つよし「(なんだ?占い師・・・?)」
怪しい、とつよしは思ったが、『死相がでている』というのが気になって占い師の前で立ち止まった。
占い師「お代はいらないから。ちょっと座っていきなよ」
つよしが躊躇っているところをすかさず、占い師は次々と甘い誘いを吐いた。
声は若い女の声だったように思われたが、フードで顔が見えず、はっきりとした年齢はよくわからない。
つよしは根負け、というより好奇心に負けて、占い師の前に腰を下ろした。
占い師「ではまず、名前と誕生日を教えてくれる?」
つよし「田中つよし。誕生日は、十月五日だ」
占い師「うん、知って・・・合って、いる。きみは正直者だね」
わざわざ言い直した『合っている』という言葉に少々引っ掛かるが、つよしは本題に入った。
つよし「ところで、死相がでている、って言っていたけど」
占い師「ええ、そうよ。きみは真っ直ぐな人だけど・・・周りを見ないで突き進んでしまうと破滅を招き、このままでは〝凶〟と出ているの」
つよし「・・・それが原因で死ぬのか?」
占い師「死ぬ」
占い師は大きく頷いた。
つよし「(やっぱ胡散臭いな・・・)」
つよしの訝しげな視線を感じ取ってか、占い師は、ぽん、と手を叩き、明るい声で言った。
占い師「まあ、そんなことよりも、きみは気になることがあるでしょ?」
つよし「気になること?」
占い師「ふふふ、わざわざ言わなくて良いよ。この水晶で視てあげるから」
占い師は目の前に置いてある水晶玉の上に手をかざし、手をひらひらと振った。
その動作はなんだか適当というか、雑なように見えて、つよしはますます怪しく思った。
占い師「・・・きみは、好きな人がいるんだね」
つよし「・・・・・・なんで」
占い師「ふふっ視えているから」
食いついてきたつよしに占い師は笑った。声が楽しげに弾んでいる。
占い師「身近な人かな・・・?」
つよし「・・・」
占い師「これは・・・、同じ部活の女の子?」
つよし「・・・!」
ガタッ、とつよしの椅子が揺れた。わかりやすい動揺に占い師はまたニッコリ笑った。
占い師「きみ、その子のことが大好きなんだね?」
つよし「・・・ああ」
占い師「できれば付き合いたい・・・・・・と思っている」
つよし「・・・・・・ああ」
占い師「えっ! あっ・・・そうなの・・・・・・」
つよし「なんでお前が照れてるんだよ!! その水晶玉で視たんだろっ!?」
先程までの勢いはどこへやら、占い師はもじもじと恥ずかしがるように俯いて、手を組んだり外したりし出した。
しかし、いたたまれないのはつよしの方である。
辛抱ならなくなったつよしは勢いよく立ち上がった。
つよし「最初からなんだか怪しいと思っていたんだ・・・!その水晶玉を見せてくれ!!」
占い師「やめてっ! 商売道具よ!!」
身を乗り出すつよしとそれを止めようとする占い師は取っ組み合いになった。
男子柔道部のエースであるつよしと互角にやりあえるほどの健闘をみせる占い師に、思わず「やるな・・・!」とつよしが健闘を賛え
た瞬間、フードがぱさりと外れた。
占い師の顔があらわになる。
つよしは唖然とした。
つよし「・・・ひな先輩?」
ひな「・・・人違いよ」
つよしに背を向け、必死に手で顔を覆いだした『占い師』の腕をつよしは掴み剥がそうとした。
両者無言、一ミリも譲らない。
みちる「あれ、つよしだ!なにしてんのー?」
元気な声が割り込んできた。
つよし「・・・みちる」
みちるはつよしたちの元へ駆け寄り、『占い師』の顔を覗き込むようにじっと見つめると、「あ!」と声を上げた。
みちる「ひな先輩じゃーん!占い師のお姉さんに留守番を頼まれたって言っていましたけど、まだやってたんですか〜」
ひな「で、出来心で・・・」
みちる「? よくわかりませんけど、つよしと楽しそうで良かった〜。僕はちょっと本を買いに行くんで!ではまた」
みちるはぱたぱたと商店街の奥へ走り去っていった。
その姿が完全に見えなくなると、つよしはひなへ向き直った。
つよし「・・・ひな先輩」
ひな「・・・なによ」
つよし「俺が今、なにを言おうとしているか、わかります?」
ひな「ききたくない」
つよし「・・・いいでしょう」
つよしは後ずさろうとするひなの腕をがっちりと掴んだ。
つよし「この話はあとで、ゆっくり、させてもらいますから」
しばらくもせず、本物の占い師のお姉さんが帰って来たため、ひなはつよしにどこかへと引きずられていった。
なんだか恋の予感がしますね!
占い師を騙っていた彼女は、彼のことが気になってたみたいですね。
「ひょっとして両思いかも」と思うとドキドキしますよね。
死相が出ていると言われたら穏やかではないです。とっても気になります。でも、占い師の正体が分かって安心しました。そして、恋の予感がしてきました。
途中から話ことばが女性らしいなあと思ったら、やっぱり女子だった! 彼女のドキドキ感と彼のたじろぎがすごく伝わって、とてもいい描写だったと思います。