がらんどうの瞳

はじめアキラ

第二十九話『瀬田彩名Ⅲ』(脚本)

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〇部屋のベッド
  息子は、自殺ではなかった。
  確かに言われてみると、最後に残っていた手紙にはどこにも遺書とは書いてなかったような気がする。
  最後を悟ったような内容だったのでなんとなくそうではないかと冴子は思ってしまったが──
  恐らくあれは、“己に万が一何かがあった時のために書き遺したもの”だったのだろう。
奥田冴子(奏音)
  じわり、と視界が滲んだ。
奥田冴子(奏音、奏音、奏音。貴方は、友達を守ろうとしたのね。命がけで守る・・・・・・ヒーローになろうとしたのね)
  ある意味とても、彼らしい最期だったのだろう。風が吹きすさぶ屋上のフェンスの上に立つ、なんて。
  自分でも、どうなるか予想できただろうに。
  どれほど危険でも、自分が酷い目に遭っても。助けたいと思ったのは己ではなく、己の大切な人達のことだった。
  そんな息子の母親になれたことを、心から誇りに思う。
奥田冴子(あの子の死の真相を知れて、良かった)
  冴子はそっと目元に浮かんだ涙を拭う。
奥田冴子(でも、それはそれ。・・・・・・そんな貴いあの子の魂を踏み潰した連中には、ちゃんと罰を下さなければ)
  そう、あと二人。
  瀬田彩名と村井芽宇を殺せば、全てが終わる。
奥田冴子「さあ、天罰の時だ」

〇モヤモヤ
  第二十九話
  『瀬田彩名Ⅲ』

〇可愛らしい部屋
瀬田彩名「あ、あああ、あ・・・・・・!」
  必死で体を動かそうとしても、念じても。彩名の体はびくともしなかった。
  あの兄の腕力でも逆らえなかったのだから、兄よりずっと華奢な彩名にどうこうできるはずもなかったのである。
  だからこそ。こうなる前に、自分の正しさを主張して分からせようとしたのに。
  ちゃんと、奏音は追い詰められて自殺したのではなく事故だったと教えてやったのに。
瀬田彩名「や、やめてよ。何させる気なのよ、わ、私まだ、小学生なのにっ!こ、子供なのに酷いことする気なの!?」
  言いながら、自分でも矛盾しているとわかっていた。
  恐らくこの相手は、同じ女子小学生である小河原海砂も拷問じみたやり方で殺している。
  既に、自分相手に躊躇う理由などどこにもないのだろう。
  だが、自分はセタデンキのお嬢様で、選ばれた才能を持つ人間なのだ。
  あんな何の取り柄もない金魚の糞と同じように、むざむざ殺されるなんて冗談ではなかった。
瀬田彩名「あんた、わかってんの!?わ、私がどんだけ凄い人間かわかってんの、こんなところで殺したら勿体ないと思わないの!?」
  自分が生きていれば、世界を牽引する人材になる――その確信があった。
瀬田彩名「お、小河原海砂みたいな、大した能力もない平凡な女の子とは違うんだから私は!こ、こんなところで殺されるなんてそんなことっ」
  『小河原海砂はお前を慕っていたんだろう。お前がいじめを命令したせいで殺されたことに、罪悪感はないのか?』
瀬田彩名「はあ!?言ったでしょ、悪いのは全部奥田奏音なんだから!」
瀬田彩名「あいつが私を否定したから、海砂に命令しなくちゃいけなかったんでしょ!」
  『自分で直接手を下すこともせずに、か?』
瀬田彩名「私が万が一いじめの犯人だなんてことになったら、揉み消すのが面倒くさいじゃない!」
  『つまり、お前はいじめという自覚があったと?』
瀬田彩名「いじめなんかじゃないわよ!でも、疑われるかもしれないのが面倒だって言ってんの!」
  まったく話が通じない。ああ、なんでこんな時に限って親は不在なんだろう。
瀬田彩名「とにかく離しなさいよ!私は、あんたみたいなのに殺されていい人間じゃないんだから!!」
  じわじわと恐怖が這い上がってくる。彩人が殺された時の様子を思い出していた。
  異物をどんどん胃袋に詰め込んで、胃を破裂させて死ぬ――自分も同じように殺されるのだろうか。
  兄の死体は警察に持って行かれてしまって、まだ葬式さえ出来ていないというのに。
  『仲間の死に心を痛めることさえしない。お前みたいな奴は・・・・・・小河原海砂よりも痛くてつらい御仕置きが必要だな』
  え、と思った瞬間。体は学習机の方に向かっていた。何をする気だ、と思った瞬間、彩名の手が勝手に動く。
  手に取ったのは、ハサミ。
瀬田彩名「な、な、何させる気・・・・・・」
  『嘘つきの臆病者には、要らないだろう?』
  気づけば、右手に持ったハサミは。海砂の左手の小指を、その刃で挟んでいた。
  『指切りをする指なんて、お前には必要ない』
  ばつん。
  あっという間の出来事だった。海砂の意思に反して、右手は体重をかけて指を挟んでしまう。
  半分に千切れた小指が、彩名の視界を飛んでいた。瞬間。
瀬田彩名「ぎ、ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
  噴出す血。
  激痛。
  絶叫し、海砂はその場で足をばたつかせた。
瀬田彩名「痛い痛い痛い痛い痛い!私の指、指っ・・・・・・!」
  『なんだ、まだ小指がなくなっただけじゃないか。あと左手だけでも四本あるだろう?』
瀬田彩名「ひぐっ!?」
  冗談でしょ、と口の中で呟いた途端。次はハサミが、左手の薬指を挟みこんでいた。

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コメント

  • わわわ、これまでよりも一層残虐な復讐方法ですね……、想像して血の気が引きました。。
    そして、そこまでした冴子さん、抑えきれない怒りの所為か、心が壊れてしまった所為か、はたまた両方か。圧倒のシーンですね、、

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