がらんどうの瞳

はじめアキラ

第二十六話『間奏曲Ⅹ』(脚本)

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〇車内
  コンコン、とドアをノックする音がしたので、笹沼義孝は車のロックを解除した。
  入ってきたのは警視庁でも極めて変わり者と名高い警部補、雨宮縁である。
  今回の事件が、ひょっとしたら本当にオカルト絡みであるのかもしれない。そう思って、ひとまず彼に声をかけてみたのだった。
  警視庁で唯一、“霊能力者である”と言われている刑事。オカルト絡みの事件を既にいくつも解決しているという。
  勿論、彼の能力を本当に信じている人物は少ないし、笹沼も半信半疑ではあるのだが。
雨宮縁「話はしてきましたよ、笹沼さん」
  助手席に乗り込みながら、雨宮は言う。
雨宮縁「結論を言いますと、まあ当たりだと思いますね。奥田冴子は、悪魔と契約してしまったのかと」
笹沼刑事「悪魔・・・・・・本当にそんな存在がいるのか?」
笹沼刑事「あんな普通の主婦が、手を触れることもなく・・・・・・遠くから人を殺して見せたって?」
雨宮縁「はい。まあ、悪魔ってのは僕が勝手にそう呼んでるだけです。他に呼び方がないですしね」
雨宮縁「・・・・・・世の中、理屈で図れない事件なんかいくらでもありますよ」
雨宮縁「悪魔の道具を手にした人間が人を操って殺した。その方が、いろいろとつじつまが合うでしょう?」
笹沼刑事「・・・・・・そんなの捜査報告書に書けると思ってるのか」
雨宮縁「それは笹沼さんにお任せします。僕は協力したけど、この事件の担当じゃないもので」
笹沼刑事「・・・・・・ったく」
  のらりくらりと躱してくる彼に、笹沼はため息をつくしかない。
  大体、高校生くらいの顔をしているが、刑事になってから結構年月が過ぎていることはみんな知っているのだ。
  実年齢はいくつなんだ、といつも思っている。
  お前こそ人外なんじゃないのか?と疑いたくなるくらい外見が変わらないのが恐ろしい。
笹沼刑事「・・・・・・さっき通報があって確認してきたけどな。近所の公園で、男子高校生が一人よくわかんねえ死に方をしてたんだと」
  笹沼は頭痛を覚えながらも語る。
笹沼刑事「司法解剖の結果待ちだが、どうやらゴミをパンパンに胃袋に詰め込んだせいで、胃が破裂して死んでたらしい」
笹沼刑事「まあ、そうでなくても食中毒やらなんやらで死んでたんだろうが」
雨宮縁「へえ」
笹沼刑事「そいつがな。・・・・・・例の、いじめで自殺したっていう木槌丘小学校の少年」
笹沼刑事「奥田奏音のクラスメートである瀬田彩名、の兄貴らしいんだ。これは偶然か?」
  ちらり、と視線投げれば。雨宮はからからと声を上げて笑った。
雨宮縁「僕に尋ねる時点で、偶然だと思ってないくせに」
笹沼刑事「・・・・・・まあな」
雨宮縁「・・・・・・ま、安心してください。僕の見立てじゃ、この事件、事件じゃなかったことになると思うので」
笹沼刑事「え」
  そりゃどういうことだ。笹沼が目を見開くと、雨宮はシートベルトを締めながら言ったのだった。
雨宮縁「残念ながら、契約の破棄は本人にしかできない。・・・・・・破棄すれば、全てゼロに戻るってことです」

〇モヤモヤ
  第二十六話
  『間奏曲Ⅹ』

〇黒背景
  冴子の頭の中で、ぐるぐるとあの商人の言葉が回っていた。
商人「これを使って御覧なさい」
商人「そうすれば・・・・・・貴女は相手に充分な恐怖を与えた上で、誰にもバレずに完全犯罪を行うことができる」
商人「ただし・・・・・・貴女の“幸福”をお代としていただくことになりますがね」
  冴子はそれを聴いた時、こう告げた。
  自分の幸せなんてものは、奏音が死んだ時にはもうなくなってしまった。今更失うものなんて何もない、と。
  あの時は本気で思っていたのだ。
  それこそ、自分の体がバラバラに引きちぎられたところで、奏音が死ぬ以上の悲劇にはなりえない。
  それでも復讐を遂げるべきだ、と。
  だが。
雨宮縁「今お見舞いに行った、男の子。・・・・・・ああ、北園晴翔君っていうんですか。その子は、貴女と親しかったんでしょう?」
雨宮縁「・・・・・・事故に遭ったのは偶然だと、本当にそう思っていますか?」
奥田冴子(私のせい、なの?)

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コメント

  • 復讐を躊躇いなく行えるようになった冴子さん、残虐性も増して一層復讐が加速しそうなところの、魔法の鏡の副作用が……
    思わぬ向かい風に彼女はどう立ち振る舞うのか、この展開には脱帽です!

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