僕のドッペルゲンガー

鍵谷端哉

読切(脚本)

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鍵谷端哉

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〇田舎の公園
祐一(世界には似ている人間が3人いるって言われている。でも、それ以外に、全く同じ人間が存在することがある)
祐一(それがドッペルゲンガーだ。そして今、ここに、そのドッペルゲンガーがいる)
祐二「どうしたんだよ、祐一? 早く、一緒にブランコ漕ごうぜ」
祐一「う、うん。今行く」
祐一(ドッペルゲンガーということは、分身ということだ。同じ顔なのはもちろん、名前も同じだった)
祐一(どっちも同じ名前だと、話しづらいから、それぞれ、祐一、祐二って呼ぶことで、お互い、納得した)
  祐一と祐二がブランコを漕いでいる。
祐二「なあ、祐一。お前ってさ、いつも何して過ごしてるんだ?」
祐一「・・・何って、普通だよ。そういう祐二こそ、何してるの?」
祐二「俺? 俺も普通かな。朝起きて、学校行って、帰ってきたらお前と遊んで、晩御飯食べて寝る、かな」
祐一「ふーん」
祐一(ドッペルゲンガーは自分の分身だから、記憶も共有してるんだろうか。僕の生活と全く同じだ)
祐二「なあ、知ってるか?」
祐一「何を?」
祐二「ドッペルゲンガーってさ、精神的なショックがあると現れるんだってさ」
祐一「・・・そうなんだ」
祐一(まさか、あっちからドッペルゲンガーの説明をされるとは思わなかった)
祐二「なあ、お前、何かあったのか? その・・・ドッペルゲンガーが出るようなことがさ」
祐一「・・・・・・」
祐二「まあ、言いたくないなら言わなくていいけど」
祐一「・・・僕には、お兄ちゃんがいたんだ」
祐二「・・・いた?」
祐一「うん、死んじゃったんだ」
祐二「その・・・悪かったな。思い出させちゃってさ」
祐一「いいんだよ」
祐二「・・・・・・」
  やがて、二人はブランコを漕ぐのをやめ、ブランコが止まる。
祐一「僕にはさ、三つ年上のお兄ちゃんがいたんだ」
祐二「無理に話さなくてもいいんだぞ」
祐一「ううん。話しておきたい。特に祐二、君にはさ」
祐二「なんでだ?」
祐一「たぶん、お兄ちゃんのことが原因だと思う。ドッペルゲンガーが出たのは」
祐二「でも、辛い思い出なんだろ? 思い出さなくてもいいんじゃないのか?」
祐一「ううん。きっと思い出さないとダメなんだ。じゃないと、僕はずっとこのまま、逃げたままになる」
祐二「・・・わかった。聞かせてくれるか?」
祐一「うん」
祐一(あのことは僕の中で忘れたい思い出だ。そのせいか、あまり鮮明に思い出せない。だけど、ちゃんと思い出さないといけないんだ)
祐一「僕のお兄ちゃんはね、ちょっと気弱で、オドオドしてて、いつも僕と一緒にいたんだ」
祐一「それでね、よく僕の方がお兄ちゃんだって勘違いされてたんだ」
祐二「へえー」
祐一「でもね、お兄ちゃんは、とっても頭はよかったんだ。テストでもいつも百点を取ってたし」
祐二「すげーな。で、お前は?」
祐一「僕は大体50点くらい」
祐二「あはは。同じだなって、まあ、当たり前か」
祐一「あはは。そうだね。だって、祐二と僕は同じなんだから」
祐二「じゃあ、いつもお前はお兄ちゃんと2人で遊んでたのか?」
祐一「ううん。そんなことないよ。ちゃんと友達と遊んでた。もちろん、お兄ちゃんも連れてね」
祐二「・・・それはそれで面倒くさそうだな」
祐一「うん。いつも嫌だったんだ。友達からも、ちょっと嫌がられたし」
祐二「そりゃ、そうだよな・・・」
祐一「でもね、お兄ちゃんを置いて遊びに行ったら、お父さんとお母さんが怒るんだ」
祐二「なんで?」
祐一「お父さんとお母さんは、お兄ちゃんの方が大事なんだ。だって、僕よりも頭よかったし、先生にもいっぱい褒められてた」
祐二「そっか・・・」
祐一「正直に言うとね、僕は少し、お兄ちゃんが嫌いだったんだ」
祐二「・・・・・・」
祐一「だから、いつも僕はお兄ちゃんに意地悪をしてたんだ」
祐二「・・・もういい」
祐一「え?」
祐二「そんな、話、聞きたくない」
祐一「ダメだよ!」
祐二「・・・・・・」
祐一「ずっと逃げてたらダメなんだ」
祐二「・・・わかった。聞くよ。それで?」
祐一「ある日ね、友達みんなで山に遊びに行ったんだ。もちろん、お兄ちゃんも連れてね」
祐二「・・・・・・」
祐一「でね、山の中でかくれんぼをしようってことになったんだ」
祐二「うっ・・・」
祐一「最初の何回かはね、普通に進んでったんだ」
祐一「あんまり遠くには行かないルールにしたし、鬼は三回までなら呼びかけたら呼ばれた人は」
祐一「その場で返事をしないとダメってルールだったし」
祐二「・・・・・・」
祐一「だから、鬼になっても、結構簡単に皆を見つけることができたんだ」
祐二「・・・・・・」
祐一「でもね、最後の一回になったときに、僕が鬼になったんだ」
祐二「止めて! もういい! 聞きたくない!」
祐一「僕はね。簡単にお兄ちゃん以外の皆は見つけることができたんだ」
祐二「止めろって言ってるだろ!」
祐一「でもね、僕、思ったんだ・・・」
祐二「止めろ!」
祐一「このまま、お兄ちゃんを見つけないでおいたらどうなるのかって」
祐二「止めてって言ってるだろ・・・」
祐一「本当に最初は、ちょっとした悪戯だったんだ」
祐一「それに、なかなかお兄ちゃんを見つけられなかったっていうのもあったし」
祐二「嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・」
祐一「ちゃんと聞いて!」
祐二「うう・・・」
祐一「それで、僕たち、お兄ちゃんが見つからないし、暗くなったから帰ったんだ」
祐二「・・・・・・」
祐一「お父さんとお母さんはすぐに警察に連絡して、山を探したんだ」
祐二「・・・思い出した。それで、お兄ちゃんは見つからなかった・・・」
祐一「うん。見つかったのは川の近くに落ちてたお兄ちゃんの靴だけだった・・・」
祐二「うわあああああ!」
祐一「でもね、僕、黙ってたんだ」
祐二「だって、お父さんとお母さんに怒られるって思ったから」
祐一「わざと見つけなかったって言えなかった」
祐二「お父さんとお母さん、すごく泣いてた」
祐一「ねえ、祐二は悲しくなかったの? お兄ちゃんがいなくなって」
祐二「そのときは、ただ、怖かった。でも、今はすごく寂しい」
祐一「お兄ちゃんがいなくなって?」
祐二「うん・・・」
祐一「でも、嫌いだったんでしょ? お兄ちゃん」
祐二「・・・そう思ってた。でもね、やっぱり、お兄ちゃんに会えないのは寂しいよ」
祐一「うん。わかってる。だって、祐二は僕なんだから」
祐二「うう・・・。ごめん、ごめんなさい! 俺のせいで、お兄ちゃんが・・・」
祐一「会いたい? お兄ちゃんに」
祐二「・・・会いたいよ。会って、ごめんって言いたい」
祐一「本当は、好きだったんだよね? お兄ちゃんのこと」
祐二「・・・うん。大好きだった」
祐一「・・・そうだよね。だから、僕が生まれたんだ」
祐一「祐二はずっと後悔してて、怖くて、お兄ちゃんのこと忘れたくって、全部、僕に渡したんだ。記憶を」
祐二「そうだね。・・・卑怯者だった」
祐一「でも大丈夫。ちゃんと思い出したから」
祐二「うん」
祐一「あ、そうだ。さっきね、僕も思い出したことが2つあったんだ」
祐二「なに?」
祐一「あのね、あのかくれんぼのとき、お兄ちゃんを見つけられなかったのはわざとじゃないんだ」
祐二「え?」
祐一「僕はね、必死に探したんだ。お兄ちゃんを。友達が帰ろうって言っても、嫌だって言って最後まで探してたんだ」
祐二「・・・・・・」
祐一「だからね。自分を責める必要はないんだ。あれは本当に事故だったんだから」
祐二「うう・・・お兄ちゃん」
祐一「ちゃんと前を向いて。きっとお兄ちゃんだってそう思ってるはずだよ」
祐二「・・・・・・」
祐一「もう平気だよね。お兄ちゃんの分までしっかりと、ちゃんと生きられるよね」
祐二「・・・そんなことないよ」
祐一「ううん。わかるよ。だって、僕は君なんだから」
祐二「・・・・・・」
祐一「僕がいなくても、君はもう大丈夫だ」
祐一(僕のドッペルゲンガーはもう必要ないよね。それじゃ、さよなら、僕)
  終わり。

コメント

  • すごく心に染み渡る作品です。
    子供なのに自分と向き合って、偉いなぁ。
    ドッペルゲンガーは色々な説があるようですが、こういったトリガーもあり得そうですよね。

  • 精神的な傷を自らの意志と勇気でえぐりだし、治療を施したようで読後張り詰めた気持ちが和らいだ気がします。自分を知ること、理解することは生きていく中でとても大切ですね。

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