上空二センチメートル

結城熊雄

第一話「異変」(脚本)

上空二センチメートル

結城熊雄

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〇駅のホーム
  巨大な鉄の塊が目の前を通り過ぎてゆく。
  強い風圧に、身体が引き寄せられそうになる。
  踏みとどまらなきゃ。
  脳から送られたシグナルが、脚の筋肉を稼働させる。
  ──ァ’”?。<*@◇
  閉じていた聴覚が徐々に音を拾い始める。
  ──3番線、ドア閉まります。
  百合子はそこで我に返った。
川端 百合子「わ、なんかぼーっとしてた」
川端 百合子「え、これに乗らないと会社遅刻するじゃん!」
  ──駆け込み乗車はおやめください!

〇電車の座席
川端 百合子「ふう、危ない」
川端 百合子「乗り過ごすところだった」
  いつもと変わらない通勤電車。
  いつもと変わらない日常。
  そのはずなのに、百合子の頭はなぜかぼんやりとしていて──
  いつまでも濃い靄の中にいるようだった。
川端 百合子「あれ?覚えてないけど私、勇太のお弁当ちゃんと作ってたわよね?」
川端 百合子「朝ごはんは・・・」
川端 百合子「何食べたっけ?」

〇オフィスのフロア
小林課長「篠崎さんは先週末どこか行ったの?」
篠崎 涼子「母校の大学へ空手の指導に行ってました」
小林課長「ああ、篠崎さん空手すごいんだったもんね」
篠崎 涼子「いえいえ、私なんてまだまだですよ」
  ──ガチャ
川端 百合子「おはようございます」
川端 百合子「・・・」
小林課長「卒業しても後輩たちのために尽くせるのはすごいよ」
小林課長「僕なんて学生時代のやつと集まるってなったら飲み会しかないなあ」
篠崎 涼子「いいじゃないですか。お酒飲むのも楽しいですよね」
川端 百合子(あ、あれ? 聞こえてないのかな?)
川端 百合子「おはようござ・・・」
宮下 葵「おはよーございまーす!」
小林課長「おー、おはよう!」
篠崎 涼子「おはよう」
宮下 葵「涼子さ~ん、お昼の会議の資料確認してもらっても大丈夫ですかぁ?」
篠崎 涼子「ええ、いいわよ」
川端 百合子(なんか私、無視されてる?)
川端 百合子「え、なによこれ・・・!」
川端 百合子「デスクに花瓶って・・・」
川端 百合子「子どものいじめみたいなことするじゃない」
川端 百合子(私なんかしたっけ?)
川端 百合子(誰かが悪い噂を流してるとか?)
川端 百合子(いずれにしてもこの場にいるのは気まずいな・・・)
川端 百合子「あの、私ちょっと外回り行ってきますね!」
  ──ガチャ
  百合子は足早に会社を後にした。

〇公園のベンチ
川端 百合子「はあ・・・」
川端 百合子「なんでこんなことに・・・」
ジャッキー「ワンワンワン!」
川端 百合子「あら、わんちゃん」
川端 百合子「こんにちわ〜」
川端 百合子「お名前は?」
ジャッキー「ワン!」
加納 恵子「どこいくのジャッキー?」
川端 百合子「かわいいですね。いま何歳ですか?」
加納 恵子「もう、寄り道はいいから!」
加納 恵子「早く行くわよ!」
ジャッキー「クゥーン」
川端 百合子「ちょっとなによ。感じ悪いわね」
川端 百合子「なんだか今日はついてないなぁ」

〇明るいリビング
川端 百合子「ただいまー」
川端 百合子(はあ、今日はしんどい一日だったわ)
川端 百合子「ゆうたー 帰ってるんでしょー?」
川端 百合子「あら、またゲームばっかりして」
川端 百合子「宿題は終わったの?」
川端 勇太「・・・」
川端 百合子「もう、ゲームやり出すといっつもこうなんだから・・・」
川端 百合子「夕飯は何か食べたいものある?」
川端 勇太「・・・」
川端 百合子「なんでもよければあるもので作っちゃうけど」
川端 勇太「・・・」
川端 百合子「ちょっと勇太、いい加減にしなさいよ!」
  ゲームを取り上げようと伸ばした百合子の手は、するりと勇太の腕をすり抜けた。
川端 百合子「・・・」

〇オフィスのフロア
  会社でのみんなからの無視──
  デスクの上の花瓶──

〇公園のベンチ
  ワンちゃんの反応と──
  飼い主の人の反応の差──

〇明るいリビング
  そして勇太の腕をすり抜ける私の手──
川端 百合子「あー、これあれだな」
川端 百合子「──私、死んでんな」

コメント

  • 途中でもしやと思いましたが、やはり死んでいたのですね😭
    これからその謎が解明されていくのでしょうか…続きをお待ちしております。

  • 死んだ意識のないまま、魂が残ってしまった主人公。
    まだまだ謎ばかりですが、これから解き明かされていく過程を楽しみにしています。

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