第十六話『小池正春Ⅲ』(脚本)
〇ビルの裏通り
ずる、ずる、ずる。
まるで引きずるように、勝手に足が路地の奥へと入っていく。小池は焦った。これではまるで、見えない手に捕まれているようだと。
校長先生「お、お前が、お前が本当に・・・・・・太田川先生たちを殺したのか・・・・・・!?」
足は勝手に建物の排水管を登り始める。一体、何をさせる気なのか。
校長先生「や、やめてくれ!助けてくれ!」
〇モヤモヤ
第十六話
『小池正春Ⅲ』
〇おしゃれなキッチン(物無し)
命乞いをして喚く校長の姿は、なかなかにして滑稽だった。思わず、冴子の頬に笑みが浮かぶ。
奥田冴子「奥田奏音もそうやって、助けを求めていたんじゃないのか。それなのに、お前達は見捨てただろう」
声に喜悦が滲むのをやめられない。
明かりを消したキッチンで、声が鬱々と空間を湿らせる。
奥田冴子「それだけじゃない、いじめなんかないと否定して、その名誉をも貶めた」
奥田冴子「お前も、太田川教諭も、小河原海砂も・・・・・・他の奴らもみんな。死んで償うのが当然、そうだろう?」
『や、やめてくれえ!』
こいつにはどんな殺し方が似合いだろう?
こいつがいるこの路地は人気もないし、ちょっと大きな音を立てても人が飛んでくるなんてことはないはず。だったら。
奥田冴子「お前も、彼の痛みを思い知るといい」
下すべき、罰の内容は。
〇ビルの裏通り
校長先生「あ、あああ、あ」
己の足なのに、止められない。排水管を登らせて、一体何をさせるつもりなのか。
校長先生「ま、まさか」
隣のビルの高さは、三階建てであるようだった。三階の窓付近で小池の足は止まる。
思わず下を見下ろすと、暗い路地に、黒々とマンホールが浮き上がっているように見えた。
人は中途半端な高さの方が恐怖を感じる、という言葉を思い出す。現実感があるからだ。
ここから落ちたらどうなるか、と想像できてしまうのである。
校長先生「や、やめ」
がこん、と片足が排水管を外れた。そして。
校長先生「ああああああああああああ!?」
思いきり、地面にダイブしていた。体が反転するほどの高さではなく、ほぼ落ちたのは足からとなる。
が、三階の高さから落とされたのだ。みしり、と両の足から嫌な音がした。
校長先生「あああ、ああああああ!」
即死するほどの高さでなかったのが災いした。両足の激痛に、思わずその場で蹲る小池。
多分、両足首ともイカレている。下手をしたら、どっちかは折れているかもしれない。
『どの方向から落とすかは、自由に選ぶことができる』
校長先生「ひいっ」
『次は、どこから落としてやろうか?』
校長先生「や、やめてっ」
激痛の走る足が、再び勝手に立ち上がっていた。そして、小池の意思を無視して再度排水管を登り始める。
一歩踏み出すたびに、おかしな方向にねじれた足に痛みが走り、呻くことになった。
校長先生(ま、まさか、まさか)
再び、三階の高さ。
校長先生(わ、私が死ぬまで、落とし続ける気なのかっ・・・・・・!?)
今度は、制止することもできなかった。ふわりと体が浮き上がり、それを僅かに心地よいと思ってしまった次の瞬間。
空中で体が半回転し、今度は左肩から地面に激突した。
校長先生「ひぐうっ・・・・・・!」
ぼきぼきぼき、と左肩と腕の骨が砕ける音。だが、その場で悶え苦しむことさえ、謎の襲撃者は許してくれない。
どこからともなく響くのは、不気味な笑い声だった。
『じゃあ次は、右腕を砕くか』
〇ビルの裏通り
一体、どれだけの時間が過ぎただろう。
一体何度、三階の高さから突き落とされるのを繰り返しただろう。
人間の体が存外丈夫であることを、ここまで恨んだことはない。
校長先生「ぎゃあっ!」
校長先生「ひぐううううっ!」
校長先生「があああああああああ!」
校長先生「いぎゅううううううううう!」
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前2件よりも残虐な復讐方法で、しかも冴子さんにどす黒い悦びの感情まで。。。復讐心恐るべしです。すべての復讐を終えたとき、冴子さんは一体どうなっているのでしょうか。。