第5話 脱出(脚本)
〇広い厨房
怨霊と化した大女将に、若女将はついに追い詰められてしまった。
若女将「いやあ!! こっちこないでっ! どうして今頃、化けて出てくるのよっ!!」
大女将「あーはっはっはっはっは! 望み通りだろお!? ありがたく思いなああああ!!」
大女将「アタシはねえ、この時をずーーっと待ってたんだよおおお!!」
大女将「アンタに露天風呂に沈められた、あの時からねええええ!」
大女将の絶叫とともに、厨房の包丁やまな板が宙を舞い、不気味な音が鳴り響く。
若女将「ひいっっ!?」
大女将「どうだい? これが、お前が欲しがっていた怪奇現象だよ!」
大女将「よくも私の城をメチャクチャにしてっ・・・! ただじゃおかないよおおお!?」
若女将「メチャクチャですって!? アンタがいる時よりも、ずっと儲かってるわよ!」
若女将「この木皿儀旅館は、この私が立て直してあげたのよ! 感謝しなさいよね!」
若女将(・・・って、怨霊相手に思わず言い返しちゃった!)
大女将「ひっひっひっ! いい度胸だねえ! ・・・お前だけは、楽に殺さないからねええ!?」
若女将「ひいいいいっ!?」
大女将は片手で若女将の首を握り締める。その手は氷のように冷たい。
若女将は、目の前の大女将がこの世のものではないと、改めて実感した。
大女将「さあ、どうやって料理してやろうか?」
大女将「生きたまま埋めようか? それとも、身体中に一本一本針を刺して、じわじわと殺そうかねえ・・・」
若女将(も、もうダメっ・・・!)
その時、厨房にふたりの男が飛び込んできた。
ミラクル武本「そこまでじゃ!」
若旦那「武本さん! 怨霊はあいつです! やっちゃってくださいっ!」
若女将「あ、あなた達・・・!!」
大女将「なっ! お前、実の母親をっ・・・!」
ミラクル武本「おぬしはもう死んでおるっ! 怨霊は、この札に封印じゃっ!!」
ミラクル武本が大女将の頭に怪しげな札を貼ろうと飛び出す。
しかし・・・
ミラクル武本「ぐはあっ!?」
若旦那「武本さんっ!!」
大女将に札を貼る前に、ミラクル武本は床に転がっていたすりこ木に足を取られ、調理台の角に頭をぶつけ倒れてしまった。
若旦那「た、武本さん・・・?」
ミラクル武本「・・・・・・」
若旦那「ま、まさか死んでる!?」
不幸なことに打ち所が悪かったのか、ミラクル武本は札を握ったまま絶命した。
大女将「ぎゃははははは!! こんな胡散臭い霊媒師、死んで当然さ!」
若女将(つ、使えない奴・・・)
若旦那「よ、よくも武本さんを・・・!」
大女将「ふん! 大体、こんなチンケな札で、アタシを封印できると思ってるのかい!?」
大女将「もうこうなったら、親も子もないよっ! この宿の関係者は、全員血祭りにしてやるんだからねええええ!!」
若女将「くっ・・・! 一体どうすれば・・・」
若旦那「母さん! すまなかった! このとおりだっ!!」
「え?」
若旦那「ぼ、僕が悪かった! 土下座でもなんでもする!」
若旦那「だから殺すなんて止めてくれ! 親子だろ!?」
若女将(・・・って、あんたさっき、武本さんを使って母親を退治しようとしてたわよね?)
しかし、土下座して謝る若旦那に、大女将はうろたえ始めた。
大女将「お、およしみっともないっ! 男がそう簡単に土下座するもんじゃないよ!」
若旦那「母さんのために、僕がこんな格好悪いことしてるんだよ? だから、さっさと成仏してよ!」
大女将「若旦那・・・」
若女将(ったく、目も当てられないほどの馬鹿親子ね)
若女将(謝れば済むと思ってる息子に、心のこもっていない謝罪に騙される母親・・・。 本当、バッカみたいっ!)
若女将(でも、おかげでババアに隙ができた・・・っ!)
若女将は、ミラクル武本が握っている札を取り上げ、大女将の額へと貼り付ける。
大女将「な、何ッ!?」
若女将「くらえ、ババアっ!!」
大女将「ふん、こんな札でアタシが・・・ギャッ!? ギャアアアアアアアアーーーー!?」
どうやら、お札は本物だったらしい。
大女将は醜い断末魔を上げながらあっさ
りと札に封印された。
そして、木皿儀旅館には、若女将と若旦
那以外、誰もいなくなった。
〇温泉旅館
ババアの悪夢から数カ月がたった。
大女将を封印した札は、近所の神社に引き取ってもらった。
そして・・・
若女将「ほら、若旦那行くわよ」
若旦那「あ、ああ・・・。本当に、この木皿儀旅館とも今日でさよならなんだね」
若女将「とっくに営業もしてないのに、今さら何言ってんのよ」
若旦那「うん・・・そうだけどさ・・・」
若女将「私たちが容疑者にならなかっただけマシとしましょ。武本さんには悪いけど・・・」
若旦那「そうだね・・・死んだ大女将が全員呪い殺したなんて、警察も信じないだろうし・・・」
あの日、ババアに殺された人々は、全員ミラクル武本の手により殺害されたということになっていた。
以前から木皿儀旅館と懇意にしていた警官は、全面的に若女将達の証言を信じ、事件は幕を閉じたのだった。
若女将「ほら、早く車に乗って。お母さん達待ってるんだから」
若旦那「はあ・・・まさか君の実家でお世話になることになるなんて・・・ 肩身が狭いよ・・・」
若女将「じゃあ来なくてもいいのよ?」
若旦那「そ、そんなこと言わないでよ!」
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結局、関係ない人も含めて、皆殺しエンドとは…