Goodbye truth

星降る夜

さようなら(脚本)

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〇幻想
心霊(みれい)「ごめんなさい」
  羽が舞う。
  ひらりふわりと白羽が舞う。
心霊(みれい)「貴方が活きた記録は私が持って逝きます」
  それが外部記憶装置である彼女の役目。
心霊(みれい)「だから」
  倒れる男には真紅の炎。
  見つめる彼女には透き通る涙。
  零れ落ちる涙は男を包む炎に触れて消えてゆく。
心霊(みれい)「貴方はせめて、ご家族の幸せを願ってお眠りください」
  これが世界唯一の存在である彼女の役目。
  白羽となって消えていく男に彼女は一度だけ、軽いキスを額に。
  これが最後。
  これで終わり。

〇お嬢様学校
「ごきげんよう」
  この学校にはお金持ちに分類される令嬢・令息が多く通っている。
  気品高く礼節を重んじる所作に彼女は少々無理をしながら挨拶を。
心霊(みれい)「ごきげんよう」
  うまく出来た。
  少々声が上ずったがまあ良いだろう。
  しかし。
心霊(みれい)「はぁ、疲れますね」
  陰に入り一人になった途端これである。
心霊(みれい)「この学校、まるでお城みたい。 白いし尖っているし。 けれどデジタル化の波はしっかりと来ているようですね」
  彼女が身を潜める講堂の床は滑り止めの処理がされた木で組まれている。だが、体育等必要に応じてラインが浮かび上がる仕様だ。
  風を取り込む為の窓から中を覗くと男女のバスケ部が練習に励んでいる。
心霊(みれい)「皆さん運動部にもかかわらずスラッとした手足で。 ・・・・・・っち、滅べ」
  毒づいた。思わず出た言葉に「おっと」と口元に手を持っていく。
心霊(みれい)「まあ良いでしょう。 私とて身長の半分以上が脚。素晴らしい。 さて、折角の学校見学の日です。 どうどうと見て周りますか」

〇華やかな広場
「お名前はぁ?」
心霊(みれい)「トゥルース・心霊と申しますお姉さま方。心霊が名ですね。 来年は絶対にこの高校に入りますのでお見知りおきくださいね」
  おっとりと名を聞かれたのでハキハキと応えてみた。
  椅子から腰を浮かせ、体を綺麗に折りながら。
  金細工のかんざしがさされた長く艶やかな黒髪が肩から落ちて胸元にかかる。
  その姿を見て令嬢たちは「ほぅ」と少しばかり見惚れてしまい。
「あ、どうぞお座りになって。お茶をしましょう」
心霊(みれい)「ハイ」
  誰よりも早く正気に戻った一人の令嬢に着席を促され、心霊は美しい所作で椅子に座す。
  ティータイムを楽しむ為にだ。校舎を歩いていたところ誘われたからだが、ちょうど良かった。
心霊(みれい)「ねえお姉さま方。 私、実は人を探しているのですが、助力をお願いしても宜しいでしょうか?」
「勿論。 どんな人だい?」
  男みたいな言葉遣いだ。ハンサムだし、夢で逢ったら甘えてみようと心に誓った。
心霊(みれい)「男性です。背が高く、文学青年。 知人の想い人なのですが、本日彼女は病欠です」
心霊(みれい)「折角なので一つ鑑定しようかと。妙な男性だったら問題ですから」
「お友達思いなのねぇ。 うちの文学青年は皆さん文芸部に集まっているわよぉ」
心霊(みれい)「そうなのですね。ありがとうございます。 ではこの一杯を頂いて──」
  まだまだ暖かい紅茶を一息に、けれど上品に飲み、ついでにスプーンに乗っている小さなケーキを口に運んで席を立つ。
心霊(みれい)「早速向かわせていただきますね」

〇生徒会室
心霊(みれい)「文芸部、と」
  部室棟に辿りつき、心霊はあっさりと場所を特定した。
  見学の女子たちが部室前に集まっていたからだ。どうやら文学青年はおモテになるらしい。
心霊(みれい)「少々待ちますか」

〇川沿いの公園
心霊(みれい)「放課後になってしまいましたね・・・・・・」
  いつまで待っても女子たちが解散しなかったから下校時を狙ってみた。
  ターゲットである青年は一人きり。歩く姿は凛としていて華がある。が、冷たい印象を受けた。
心霊(みれい)「これは、感情欠落が始まっていますか」
  青年の横を早歩きで通り過ぎてみたが反応がない。
心霊(みれい)「それでは早速」
  心霊の真紅の目が何度か明滅する。すると青年が路地に入っていくではないか。その後を心霊も追う。

〇ビルの裏通り
心霊(みれい)「名も知らぬ方」
  誰にも見られぬほど深く路地裏に入ったところで声をかける。青年はピタリと立ち止まり──
心霊(みれい)「っと」
  心霊が触れようとすると鞄をぶつけてきた。どうやら心霊の『侵入』に防衛機能が働いているようで。
  けれども強く振られた鞄は心霊の体をすり抜けた。否。鞄が触れた心霊の服と体が蒼い粒子となったのだ。
心霊(みれい)「私の体はナノマシン群。傷つける事は出来ません」
  心霊が触れると、なんと青年の体が真紅の炎に包まれたではないか。
心霊(みれい)「最期です。秘密をこっそり教えましょう。 ここはね、たった独りの心が見ている空想の世界」
心霊(みれい)「人のお偉方がそうと気づいて四十年。その困惑は伝播し人がバグを起こすようになりました」
心霊(みれい)「『外』から来た私はバグチップをパージするデバイス。 速やかに、かつ安らかにお眠りください」
心霊(みれい)「真実と共に」
  涙が零れた。死する青年の為の涙が。
  青年が倒れ込む。
  燃える体をそのままに。
  白羽となって消えていく体をそのままに。
心霊(みれい)「私には一つ赦されている行為があります。バグチップの記録を記憶する事。想い出は私が継ぎましょう」
  ゆっくりと、慈愛溢れるキスを青年の額に。これで記憶完了だ。
心霊(みれい)「ごめんなさい。 私が逝く日までご一緒くださいな」
  終わり

コメント

  • 主人公のみの登場で話の展開が分かりやすいです。主人公の特殊能力は永遠のものではない事が最後の場面で推測されました。この能力を引き継ぐ者がいるのかな?

  • 描写がきれいにされていて、イメージしながら読み進めていくことが出来ました。会話の内容も、テンポがよくて楽しく読ませて頂きました。

  • 予期せぬ正体で…驚きました。描写がていねいで、アニメみたいに状況が目に浮かびます。鞄のシーンで心霊さんの正体が分かるときのおしゃれさに感銘を受けました。心を動かされるところにビジュアル的にもインパクトのある場面が来るので、自然に盛り上がれて読むのがとても楽でした。行く末の気になる世界です…。

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