第十三話『間奏曲Ⅳ』(脚本)
〇観覧車の乗り場
冴子は夢を見ていた。
奏音と颯人。二人と一緒に幸せに暮らしていた頃の夢だ。奏音がヒーローショーが見たいというので、遊園地に行ったのである。
非常に気を使う子供だった奏音。高い玩具やゲームは全然おねだりしなかったし、お年玉も明らかに使うのを遠慮していた。
そんな彼が唯一、これだけは見たいと言うことが多かったのがヒーローショーである。
幼稚園の頃から、よく連れていってあげていたのを覚えている。
奏音と一緒だと、夫まで童心に返ったようにはしゃいでいるのがなんだかおかしかったことも。
奥田奏音「俺さ、レッドよりもグリーンの方が好きなんだよね」
遊園地で観覧車の順番待ちをしながら、奏音はそんなことを言ったのだった。
奥田颯斗「え、奏音はレッドになりたいとばっかり思ってたんだけど、違うのか?リーダーだぞ?」
奥田奏音「リーダーはかっこいいけど、グリーンがいなかったらみんな死んじゃうよ」
その時見に行ったのは、旋風戦隊ハリケンジャーという戦隊ヒーローのショーである。
グリーンは、五人組の中では参謀役のポジションだった。作戦を考えて、みんなの指揮を執るのが彼の仕事である。
奥田奏音「グリーンがいつも作戦を考えていくから、レッドやみんなが怪我をしないで敵陣に乗り込んでいけるんだ」
奥田奏音「それにただ作戦を考えるだけじゃなくて、一人でも多く犠牲が出ない方法を考えてる」
奥田奏音「特に俺が好きなの、“ホラーウイルス”の回なんだよ」
奏音は嬉しそうに、そんな話をしていた。
奥田奏音「グリーンは、メキド怪人がホラーウイルスを撒いている理由に気づいてた」
奥田奏音「人間に奪われたメキド族の赤ちゃんを取り戻そうとしてたんだ」
奥田奏音「そりゃ、みんながオバケの幻覚を見て怖い気持ちになっちゃうウイルスを撒くなんてとんでもないことだけど・・・・・・」
奥田奏音「それは、メキド怪人なりに、人間を殺さずに赤ん坊を取り戻そうとしてたからだって、グリーンだけが気づいてたんだよな」
奥田颯斗「確かにそうだね」
奥田奏音「赤ちゃんを奪われたのに、人間を無作為に殺そうとしなかったメキド怪人の優しさにグリーンは気づいて、」
奥田奏音「だから怪人を倒そうとする仲間を止めて、怪人たちのことをも殺さない作戦を立てたんだ。俺、すっごく感動しちゃった!」
目をキラキラさせていた奏音の顔。それを真剣に聴いていた夫の顔は、忘れられない。
奥田奏音「本当のヒーローは、悪をぶっとばして人間だけが幸せな世界を創る人間じゃない」
奥田奏音「悪のことも考えて、一人でも多く救われる世界を考えるやつのことを言うんだ」
奥田奏音「俺も、目立たないポジションでもいいから・・・・・・そういうヒーローの一人になりたいんだよな・・・・・・!」
優しい、どこまで優しい自慢の息子だった。夢の中、冴子は笑いながら涙を流したのである。
願うことなら、この時に時間を戻して欲しい。
もう二度と戻らないなんて、あまりにも残酷すぎる。
奥田冴子(ああ、こっちが現実だったなら、どんなにか・・・・・・)
〇モヤモヤ
第十三話
『間奏曲Ⅳ』
〇部屋のベッド
目覚めた時の気分は、最悪だった。
悪い夢より、都合が良すぎる夢の方が残酷だ。どうしてあの子のいない世界が現実なんだろう、と思ってしまう。
どうして世界は、冴子からあの子を奪ったのだろう。
あんなに優しくて、一途だったあの子を。
奥田冴子(泣いてる場合じゃ、ないわ)
目覚まし時計が鳴るより、だいぶ早く起きてしまった。まだ夫も起きてはいないだろう。
彼が起きてくるより前に、できれば朝食を作ってしまいたい。今日は、誰かを祟り殺すのはやめると決めたのだから。
そう、作戦を立てなければいけない。小河原海砂、村井芽宇以外にも奏音をいじめた人間がいる可能性が浮上してきたから尚更に。
奥田冴子(どっと疲れたのは、念力での殺害を実行した跡だから・・・・・・多分、その様子を見るだけなら、そんなに疲れないはず)
現状、殺すことを決めているのは校長と村井芽宇の二人。だが、他にも黒幕がいるならもっと標的が増える可能性がある。
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奏音くんが熱っぽく語る”旋風戦隊ハリケンジャー”(”忍”ではないですよねw)のお話、彼のパーソナルを知れるエピソードで注視してしまいました!正義感、優しさ、洞察力、そういったものを持ち続けようとする素敵な少年だったのですね。。。