第十二話『間奏曲Ⅲ』(脚本)
〇住宅街の道
冴子とは、適当に雑談をして別れた。
帰路につく道の途中、晴翔は思わず家を振り返る。そして、珠理奈と顔を見合わせた。多分、同じことを思ったのだろう。
長谷川珠理奈「あのさ、晴翔・・・・・・」
先に口を開いたのは、珠理奈の方だった。
長谷川珠理奈「おばさん、さ。奏音は復讐なんて望まない、って言ったよね。・・・・・・祟りなんかしない、じゃなくて」
北園晴翔「うん、言った」
長谷川珠理奈「ひょっとして、おばさんが・・・・・・奏音の仇討ちで、先生や小河原さんを・・・・・・ってこと、ある?」
言いたいことは、わかる。葬式の時の冴子の様子を見てしまったら。
あんなにも傷付き果てて、今にも死んでしまいそうな姿を見てしまったら。
北園晴翔「・・・・・・流石に、無理でしょ」
同じことを晴翔も思ったのは確かだ。でも。
北園晴翔「小河原さんが死んだ日、おばさんと僕達、家で別れてから来ただろ」
北園晴翔「小河原さんは、僕達が学校に着いてすぐ死んだみたいじゃないか」
北園晴翔「おばさんが小河原さんを殺すなら、あの後すぐ準備して学校に行かなくちゃいけない」
北園晴翔「一本道なのに、ギリギリすぎるだろ。おばさん、今から出かけようって格好でもなかったし」
長谷川珠理奈「あ、そっか・・・・・・」
北園晴翔「それに、小河原さんが死ぬところは村井さんが見てるんだよ?」
北園晴翔「村井さんがおばさんの姿を目撃してたら、絶対そのことを警察に言ってるはずなんだけど・・・・・・」
北園晴翔「村井さんは、突然小河原さんの様子がおかしくなって自分で首吊ったって言ってるじゃないか」
北園晴翔「村井さんが嘘つく理由はある?下手な隠し事したら、疑われるのは自分なのに」
長谷川珠理奈「そ、それもそうだよね、うん・・・・・・」
奥田冴子には、太田川亜希子と小河原海砂を殺害する十分な動機がある。
あの言葉は、自分は復讐したい、と言っているとも受け取れる。でも。
北園晴翔(でも、さすがにあんな殺し方。おばさんにはできない、よな?)
できないはずだ。首を振って、その可能性を否定する晴翔。
それでもモヤモヤとした気持ちは晴れることなく、胸の中に燻り続けることになったけれど。
〇モヤモヤ
第十二話
『間奏曲Ⅲ』
〇おしゃれなリビングダイニング
奥田颯斗「ただいま」
奥田冴子「おかえりなさい、颯斗さん」
奥田颯斗「ああ」
冴子の元に夫が帰ってきたのは、夜の八時頃だった。
予めLINEで連絡を貰っていたので、その時間にあわせて料理は準備してある。
奥田颯斗「お、今日はオムライスか!」
奥田冴子「ええ。天津飯にしようかなとも思ったんだけど、颯斗さんオムライス大好きだから」
奥田颯斗「ありがとう!嬉しいよ。出先でどんだけ良いモノ食べても、やっぱり冴子の飯に叶うものはないし!」
奥田冴子「まあ」
流れるように褒められて、冴子も久しぶりに心が温かくなる。
息子がいなくなった今、唯一の心の支えは颯斗だと言っても過言ではなかった。
冴子の両親は既に亡くなっているし、颯斗の両親は遠くに住んでいて正月しか会えないから尚更に。
奥田颯斗「はい、お土産。手羽先せんべい。名古屋って言ったらやっぱり手羽先か海老フライか味噌カツなんだよな」
奥田颯斗「確かにあっちで食べた海老フライは無駄にデカかった」
奥田冴子「あはは。こっちじゃどうしても良いお魚少ないしね」
奥田颯斗「うんうん。でも味噌カツはなー、もう少しこぬちで売っててもいいと思うんだよ。今度二人で旅行行こうぜ」
奥田颯斗「名古屋城でも見よう。名古屋はいいところだぞ。今回は仕事ばっかりで全然観光できなかったからさ」
奥田冴子「そうね!」
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夫さん、優しくて素敵ですね!
しかし、憎悪と復讐心が満ちた冴子さんにとっては、その優しさが心痛になりそうですね。「人の心を捨てる」って難しいことだと改めて考えさせられます。