電波と宇宙の間に

鍵谷端哉

電波と霊界の間に(脚本)

電波と宇宙の間に

鍵谷端哉

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〇教室
真(宇宙人と話をしたい。最初はただ、あいつの願いを叶えたかっただけ)
真(毎日毎日、真剣に交信をしようと試みているあいつの姿を見て、その願いが叶って欲しい叶えてやりたいと思ったのがきっかけだった)
真(トランシーバーを使って交信する方法を教えて・・・俺が宇宙人のフリをすることであいつの願いを叶えた)
真(・・・だが、これはあいつを騙す行為だ。あいつの願いを叶えるために、俺はあいつを騙し続ける)
真(果たしてそれは、あいつにとって、喜ばしいことなんだろうか?)
美夜「・・・どうかしたの?」
真「え? いや、なんでもない」
美夜「何か悩み事があるなら、聞くよ?」
真「いや、大丈夫だ。宇宙人に悩みなんかない」
美夜「そう・・・」
真「それより、羽村のことが聞きたいな」
美夜「なにが聞きたいの?」
真「そうだなぁ。小学校のときのこと、聞いていいか?」
美夜「うん。でも、あんまり今と変わらないかも・・・」

〇屋上の入口
  次の日。
  階段を上る真。
真「・・・・・・はっくしゅん。うう、風邪かな」
  ガチャリとドアを開けて、屋上に出る。

〇高い屋上
  真が屋上に出ると、美夜が棒を2本持って、ウロウロしている。
真「よお、羽村・・・・・・って、なにやってんだ? 変な棒持って」
美夜「・・・ダウジング。幸せを見つけようと思って」
真「へー。幸せを見つけられるのか。すげーな」
美夜「うん。宇宙の技術」
真「なんでもありだな、宇宙人」
美夜「宇宙人はすごいの」
真「けど、なんで急に幸せなんか探そうと思ったんだ?」
美夜「真にプレゼントしようと思って」
真「え?」
美夜「最近、なんか悩んでるみたいだから。元気出してもらいたくて」
真「な、何言ってんだよ。俺はいつも元気だって。それより、羽村、雑誌、新しいの出てたぞ」
真「月刊オカルト。いつも読んでただろ?」
美夜「ありがとう。でも、これ、霊界通信の方」
真「へ?」
美夜「月刊オカルトには銀河通信と霊界通信があるの。霊界通信は幽霊の特集が載ってる」
真「え? あ、ホントだ。幽霊とか妖怪の話ばっかだ。くそ、間違った」
美夜「似てるからしかたないよ」
真「・・・羽村は幽霊って信じてるのか?」
美夜「・・・うん。わかんない。宇宙人にしか興味なかったから」
真「そっか・・・。興味なかったか」
美夜「でもいると思う」
真「え?」
美夜「宇宙人がいるなら、幽霊もいると思う」
真「・・・あー、確かに。宇宙人がいるなら、幽霊もいそうだよな・・・はっくしゅん」
美夜「・・・風邪ひいたの?」
真「いや、大したことないよ。それじゃ、俺はそろそろ行こうかな。羽村は今日も宇宙人と話すんだろ?」
美夜「・・・うん」

〇教室
  放課後の教室は真一人しかいない。トランシーバーを取り出して、話し始める。
真「我は宇宙じ・・・はっくしゅん!」
美夜「・・・風邪、大丈夫?」
真「いや、風邪じゃない。宇宙人は風邪ひかないからな」
美夜「そんなことない。宇宙風邪っていうのがある」
真「え? そうなの? じゃ、じゃあそれかな」
美夜「無理しない方がいい。今日は帰って寝た方が良いよ」
真「あー、そうだな。そうするよ」
美夜「駅前の薬局に売ってる、超ユッケルがすごく効くよ」
真「ありがとう。買って帰るよ。じゃあな」
美夜「うん」

〇男の子の一人部屋
  ドアを開けて、真が部屋に入って来る。
真「はっくしゅん! あー、やべえ。本格的に悪化してきたか? さっそく、超ユッケル飲むか・・・」
  ガタンとトランシーバーを落とす真。
真「くそ、トランシーバーが。・・・あれ? やべ! 宇宙人用の周波数から変わっちまった。どれだっけ?」
  カチカチとチャンネルを動かす真。
???「・・・寂しい。寂しいな」
真「うわっ! なんか、繋がった」
???「え? 今日はもう帰ったはずじゃ」
真「あー、すいません。チャンネル動かしてたら繋がってしまったみたいです。間違い電話・・・じゃなくて、間違い電波です」
???「・・・」
真「じゃ、じゃあ、切りますね」
???「・・・私は幽霊」
真「え? ゆ、幽霊?」
???「そう。このチャンネルは霊界に繋がる周波数」
真「・・・マジか。ホントにいたんだ、幽霊」
???「・・・今、何か悩みがあるの?」
真「え? な、なんで知ってるんだ?」
???「幽霊はすごいの。何でも知ってる」
真「・・・宇宙人みたいだな」
???「悩みってなに?」
真「いや、でも、見ず知らずの幽霊に悩みを相談するっていうのもな・・・」
???「見ず知らずだから、相談しやすいと思う。誰にもバレないし」
真「ああ、そっか。なるほど。じゃあ、聞いてもらおうかな。えっと・・・俺、今、気になっている奴がいるんだ」
???「・・・うん」
真「俺、そいつの願いを叶えるためっていってさ、嘘付いたんだ」
???「嘘?」
真「ああ・・・。そいつはさ、宇宙人と話すのが夢だったんだ。だからさ、俺、宇宙人のフリして、そいつと話してるんだよ」
真「でもさ、これっておかしいよな。あいつを喜ばせるために俺は嘘を付いてる。あいつの笑顔を見るために、あいつを傷つけてるんだ」
???「・・・・・・」
真「きっと、いつかバレると思う。でもさ、嘘だってわかったら、あいつきっと落ち込む」
真「もちろん俺は嫌われると思う。それくらいのことをしてるからな」
真「でも、あいつが、夢が叶ったのが嘘だって知って、落ち込むのは嫌なんだ。あいつ、喜んでたんだよ、願いが叶ったって」
???「・・・・・・」
真「あー、くそ。どうして、俺はあんなことしちまったんだろ。あいつの喜ぶ顔が見たいってだけで、あんな嘘を・・・」
???「大丈夫」
真「え?」
???「その子は傷ついてない。真・・・あなたのその気持ちが嬉しいと思う」
真「い、いや、わかんないだろ、そんなこと」
???「わかる。だって、幽霊は凄いから」
真「・・・信じていいのか?」
???「うん。だから、あなたは気にしなくていい。たくさん、その子とお話してあげて」
真「わかった。ありがとな。・・・えっと、その、もう少し相談に乗ってくれないか?」
真「そいつとどういう話をしたら喜ぶかとか、色々聞きたいんだ」
???「・・・でも、風邪は?」
真「悩みが解消したらよくなった」
???「そう。じゃあ、いっぱい、話そ」
真「ああ。それでさ・・・」

〇高い屋上
真「羽村、聞いてくれ! お前の言うとおり幽霊いたぞ! トランシーバーで通話できたんだ」
美夜「すごいね」
真「ああ。今日も話す約束してるんだ・・・って、あ!」
美夜「どうしたの?」
真「羽村、宇宙人と話すんだよな」
美夜「大丈夫。宇宙人は宇宙風邪でしばらくお休みだから」
真「そっか。よかった。じゃあ、俺、これから幽霊と話すから、行くな」
美夜「うん」

〇教室
  ガラガラと教室のドアを開ける真。
  放課後、誰もいないので、静か。
  真が机に座り、トランシーバーのスイッチを入れる。
  ザザザというノイズ音が響く。
  しばらくした後、プツという繋がる音。
???「・・・私は幽霊」
  終わり。

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