第九話『小河原海砂Ⅳ』(脚本)
〇黒背景
村井芽宇「何がどうなってるの。何が起きてるの。誰か、誰か教えて、助けてよお・・・・・・!」
何が起きているのか、さっぱりわからなかった。
芽宇がパニックになっていると、いつの間にか先生たちが飛んできていて。救急車と警察が来て。
海砂を、病院に連れていってしまったから。
助からないだろう、と頭の隅の冷静な部分で思っていた。
海砂の顔は、元の可愛らしい顔立ちが見る影もないほど、黒い風船のように膨れ上がり。
舌をだらんと突出し、下半身からはいろいろなもの垂れ流していたから。
〇モヤモヤ
第九話
『小河原海砂Ⅳ』
〇教室の外
笹沼刑事「小河原海砂さんは、亡くなったそうだね」
時間の感覚が曖昧で、ぐちゃぐちゃになっていた。なんとなくわかるのは、あれから一日が過ぎたということだけ。
気づいた時、芽宇は校舎の前に呼び出され、警察の人に話を聴かれていたのだった。
笹沼義孝《ささぬまよしたか》、というおじさんの刑事と、浅井美野里《あさいみのり》、という若い女性の刑事だ。
笹沼刑事「君が見たことを、もう一度話してくれるかい?」
もう一度。その言い方からして自分は一度彼等に目撃したことを話したのだろうか。
あるいは、パニックになって意味不明なことを叫んだだけなのだろうか。
混乱しすぎていて、芽宇にはまともな記憶がほとんど残っていなかった。
村井芽宇「・・・・・・よく、わかんないんです」
おじさんの刑事さんの声は優しい。
混乱している芽宇を刺激しないように、目線を合わせて話をしようとしてくれているのがわかる。
村井芽宇「わかんないんです、何が起きたのか。な、七不思議のおまじないを試そうとして、校舎の裏の・・・・・・井戸の前に行って」
笹沼刑事「井戸っていうのは、あの?」
村井芽宇「は、はい。海砂ちゃんが死んだ井戸、です。もう使われてなくて、水も入ってなくて」
村井芽宇「でも、そこには学校の守り神様がいるって話を聴いてたから。お願い事をしようって海砂ちゃんが言いだして」
村井芽宇「そ、それで、芽宇も一緒に・・・・・・」
笹沼刑事「お願い事って、どんな?」
村井芽宇「・・・・・・・・・・・・」
それは、言いたくなかった。警察なのだから、調べればきっとすぐこの学校で自殺があったばかりというのもわかってしまうだろう。
でもここで、奥田奏音の祟りを防ごうとしたなんて話をしたら。自分達が、いじめの主犯だったと誤解されるのではないか。
確かに、仲が悪かったのは事実だし、悪口を言ったこともある。
でも、いじめ、なんで大袈裟な言い方をされるほど悪いことをした覚えなんてない。その点は、芽宇の意見は海砂と一致している。
そもそも、最初に奏音を標的にしようとしたのは海砂でも芽宇でもなく――。
浅井刑事「どんな些細なことでもいいの。教えてくれないかな?」
浅井刑事が、さらに追及してくる。ここで下手に伏せたら疑われるのかもしれない、と芽宇は思った。
刑事ドラマの類は、自分もよく見るのだ。
村井芽宇「ちょ、ちょっと前に・・・・・・クラスの男の子がじ、自殺して」
浅井刑事「自殺?」
村井芽宇「お、奥田奏音君っていう子なんですけど。その子が、いじめを苦に自殺したって噂があって・・・・・・」
村井芽宇「い、いじめなんかなかったし、してないけど、芽宇と海砂ちゃんは奥田君と仲が悪かったから心配になって」
村井芽宇「そ、それで、井戸の神様に守ってもらおうと思って・・・・・・」
そうだ。太田川先生も校長も、いじめなんかないと言っていた。大人が言うのだから、間違っていないはずだ。
自分達がやっていたのはいじめなんかじゃない。
断じて、恨まれたり、祟られるいわれはない。
村井芽宇「で、でも、おまじないをする前に、海砂ちゃんがおかしな事言いだして」
村井芽宇「変な声が聞こえるって言って・・・・・・め、芽宇には聞こえなくて」
村井芽宇「何を言われてるのかわかんなかったけど、いじめをしたんじゃないかって疑われて、責められてるみたいだった」
村井芽宇「そ、そしたら突然海砂ちゃんの様子がおかしくなって。自分で、井戸に・・・・・・」
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芽宇ちゃんの年相応の幼い反応にリアルさを強く感じますね!
海砂ちゃんの事件は客観的に見たら、自殺か芽宇ちゃんの犯行、あるいは遊びの末の結末ですよね。冴子さんへと結びつく道は無さそうですが、警察がどう判断するのか。そして冴子さんは留飲を下げることができ、、、てなさそうですね。。。