花咲さんと俺の秘密。

夕藤さわな

花咲さんと俺の秘密。(脚本)

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〇家庭科室
花咲「熱っ!」
花咲「・・・きゃっ!!」
  花咲の悲鳴が家庭科室に響いた。
女友達「大丈夫?」
花咲「だ、大丈夫! 保健室行ってくるね!」
女友達「なら、私も・・・ちょっと!」
  振り返ると花咲が家庭科室を飛び出していくところだった。
花咲「・・・っ」
  出ていく直前――。
  花咲は助けを求めるように俺を見つめていた。
  手でうなじを押さえていたし、また・・・なのだろう。
女友達「ハナ・・・」
植木「保健室の付き添いなら俺が行ってくるよ」
男友達「彼氏だもんな!」
  クラスメイトたちはにやにやと笑っている。
植木(彼氏ではないんだけど・・・)
  下手なことを言って追及されても厄介だ。
  俺は花咲のあとを追いかけた。

〇黒
  この秘密は誰にも知られてはならない。
  俺と花咲、二人だけの秘密なのだから。

〇屋上の入口
植木「花咲!」
花咲「植木くん!」
  屋上の入り口でうずくまっていた花咲が振り返った。
花咲「ど、どうしよう・・・」
植木「また、生えてきちゃったのか?」
  花咲はうなずいた。
花咲「やけどしちゃって、熱くてびっくりして・・・」
植木「やけどは大丈夫なのか?」
花咲「そっちは大丈夫!」
花咲「それであわてて確認したら・・・」
  花咲はうなじを隠していた手を下ろした。
花咲「なんか、生えてる感触が・・・」
  俺は花咲のうなじを確認した。
  そこには本来よりもずっと小さなアロエの葉が生えていた。
植木「アロ・・・なんか緑色の葉っぱが生えてる」
花咲「やっぱり・・・」
  これが俺と花咲、二人だけの――花咲の秘密。
  花咲の意思とは関係なく、感情が高ぶると植物が生えてきてしまうのだ。
花咲「植木くん」
花咲「また、取ってくれる・・・?」

〇黒
  そう言えば、あの日も――。
  初めて花咲のうなじに植物が生えてきた日も、こんな風に涙目で頼まれたんだよな。

〇グラウンドの隅
植木「花咲?」
  部活帰り――。
  グラウンドの隅っこでしゃがみこんでいる花咲を見つけた。
花咲「植木くん!」
  振り返った花咲は泣いていた。
植木「どうしたんだよ」
花咲「あ、あの・・・」
  花咲はうなじを押さえている。
  もしかして――。
植木「花咲、首をケガしたのか!?」
花咲「え? あ、違・・・!」
植木「見せてみろ!」
花咲「だめ・・・!」
  花咲の手首をつかんでうなじを確認した俺は目を丸くした。
植木「これって・・・チグリジア」
花咲「ち、ちぐ・・・?」
植木「い、いや、なんでもない!」
植木「なんか黄色くて小さい花が咲いてるぞ」
花咲「やっぱり・・・」
花咲「なんで、こんなことに・・・」
植木「泣くなよ、花咲!」
植木「今までにもチグ・・・花が生えてきたことってあるのか?」
花咲「ないよ! あるわけないじゃん!」
  花咲にしては珍しく大声で言ったあと。
花咲「このままなんて気持ち悪いしどうにかしたいんだけど、自分で取るのは怖くて・・・」
  花咲は涙目で俺を見上げた。
花咲「植木くん、取って・・・くれる・・・?」
  俺は花咲とチグリジアを見つめた。
植木「気持ち悪いなんて、こんなにきれいなのに・・・」
花咲「・・・っ」

〇黒
  なぜか顔を真っ赤にした花咲のうなじを撫でた瞬間――。

〇屋上の入口
植木「・・・取れた」
  花咲のうなじから生えていた小さなアロエがぽろっと取れた。
花咲「ありがと~!」
植木「別に、この程度」
花咲「この程度なんかじゃないよ!」
花咲「あの日、あの場にいたのが植木くんじゃなかったら気持ち悪がられてたかも」
花咲「お母さんのことだって突拍子もなさ過ぎて、植木くんじゃなかったら話せなかったよ」
  花咲の体質は母親が原因だったらしい。
花咲「てっきり離婚したんだと思ってたのに、人間じゃなかったなんて・・・」
植木「アルラウネ、だっけ?」
  小説やゲームでは上半身は美しい女性、下半身は植物の姿で描かれる人型のモンスターだ。
  花咲の母親が本当はどんな姿をしているのかはわからないけど。
花咲「お父さんも何、考えてるんだか」
植木「花咲の両親は種族の違いなんてどうでもいいくらい、お互いのことが好きだったんだろ?」
植木「素敵じゃないか」
花咲「・・・っ」
植木「それに花咲が咲かす花や植物はどれもきれいだよ」
植木「小さくてかわいいしな」
花咲「おだてたってなんにも・・・」
花咲「・・・きゃっ」
  うなじを撫でた花咲が悲鳴をあげた。
  かと思うと、みるみるうちに青ざめた。
花咲「・・・生えてきちゃったみたい」
植木「・・・おい」
  ため息をついて、俺は花咲のうなじを確認した。
植木「・・・赤い、バラ」
花咲「赤いバラ!?」
  花咲の顔がみるみるうちに赤くなった。
植木「は、花に詳しくない俺でも、さすがにバラは知ってるぞ! 名前だけは!!」
花咲「そ、そうだよね! バラって名前だけならみんな知ってるよね!」
植木「ほら、取れたぞ」
  小さな赤いバラを差し出すと、花咲はじっと見つめた。
  そして――。
花咲「植木くんに、あげる」
  ぼそりと言った。
花咲「・・・って、私から生えてきた花なんて気持ち悪い!?」
植木「そ、そんなことない!」
植木「大切にするよ、花咲」
花咲「へへ、ありがと・・・」
花咲「戻ろっか」
  歩き出す花咲の背中を見つめて、俺は額を押さえた。

〇黒
  花咲の秘密――。
  それは花咲の意思とは関係なく、感情が高ぶると植物が生えてきてしまうこと。
  生えてくる植物は花咲の気持ちを表している。
  チグリジアは、助けて。
  アロエは、苦痛。
  そして赤いバラの花言葉は――。

〇屋上の入口
植木「・・・熱烈な恋」
  男のくせに花が好きで、花言葉も詳しいなんて気持ち悪がられると思って隠しちゃったけど――。
花咲「植木くん?」
  俺が花にも花言葉にも詳しいと――。
  花咲の気持ちに気付いていると知ったら、花咲はどう思うだろう。
植木(こんな風に話せなくなったら・・・)
  この秘密は絶対に花咲に知られるわけにはいかない!
植木「必ず隠し通す!」
  俺は赤いバラを握りしめたのだった

コメント

  • 感情が高ぶると花が咲く…って一見かわいく見えるんですが、本人にとっては大問題ですよね。
    でも、その時の感情の花が咲くっていうのはおもしろいです。
    彼もいつまで黙ってるんでしょうか。笑

  • 彼女のうなじから花が咲くなんて素敵です。身体のどこから咲いても素敵だと思います。また、男の子も花の名前や花言葉に詳しくてとても素敵です。

  • バラが咲いた瞬間キュンキュンしました。二人だけの秘密も、ミステリアスな生い立ちも、映画の1場面みたいで、伏線や続きはもちろん、気になるところが、満載です。

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