がらんどうの瞳

はじめアキラ

第八話『小河原海砂Ⅲ』(脚本)

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〇枯れ井戸
村井芽宇「ねえ、海砂ちゃんどうしたの?何があったの?」
小河原海砂「・・・・・・芽宇。あんた、本当に聞こえないわけ?」
村井芽宇「え、ええ?聞こえないって何が?」
小河原海砂「・・・・・・・・・・・・」
  芽宇は本当に、何がなんだかわからないという様子である。
小河原海砂(あたしにしか聞こえないの?そんなことできる?)

〇モヤモヤ
  第八話
  『小河原海砂Ⅲ』

〇枯れ井戸
  そういえば、前に科学を扱ったミステリードラマで見たことがある。
  世の中には特定の人間にだけ声を聴かせる装置があるのだそうだ。確か、指向性スピーカー、と言ったのではないだろうか。
  どこかにその機械があって、自分にだけ音を聴かせているのかもしれない。
  もしそうなら、この声の主はすぐ近くにいるはずなのだが。
小河原海砂「どこにいるの!?あたしに何の用!?」
小河原海砂「こそこそ隠れてないで、出て来なさいよ。特殊なスピーカーかなんか使ってるんでしょ、ねえ!?」
  周囲をぐるぐると見回すも、それらしい相手の姿は見つけられない。
  そもそも学校の裏は木が生い茂っている。遮蔽物がこんなに多くては、“敵”の姿を探すのはあまりにも困難だった。
小河原海砂「それとも何?あんた、この学校の守り神様だとでも言うつもり!?」
  井戸の前という場所。七不思議の神様を装っているのかと、そんなことを思ったのだ。
  もちろん、そんな人間が“いじめがどうたら”なんて語りかけてくるなんておかしなことだが。
  『お前は私の質問にだけ答えていればいい』
  声の主はにべのもない。
  『お前は、奥田奏音をいじめて殺した。そうだろう?』
小河原海砂「はあ!?」
  何を言い出すのかと思えば。海砂は眉を跳ね上げた。
小河原海砂「あたしはいじめてなんかないし、殺してもいない!そもそも先にあたし達に嫌なことしてきたのはあっちだから!」
小河原海砂「いつもヒーロー気取りで、偉そうにしてきて、あたし達のやることなすことにいちいち文句言ってきてさ」
小河原海砂「それでムカつくからちょっと“注意”してやることはあったけど、それだけだっつーの!」
小河原海砂「だいたい、あいつが死んだの屋上から落ちたからなんでしょ?勝手に自殺しただけなのに、あたし達のせいにするつもり?」
  『勝手に・・・・・・?』
小河原海砂「ええ、そうよ。あいつが勝手に落ちて死んだだけ!あたし達が突き落としたわけでもないんだから!」
  まさか、こいつもヒーロー気取りで自分達を断罪しようというのか。冗談ではなかった。むしろこっちは被害者だ。
  まるでいじめの加害者のように言われて、針のむしろもいいところなのである。
  ちょっと悪口を言ったり、ちょっとオシオキして根性叩き直したりしてやっただけ。
  その程度で、いじめ、だなんて大袈裟に言われたらたまったもんじゃない。
  むしろ、先に不快感を与えられてメーワクしたのはこっちだ。自分達はその、不快感の“正当防衛”をしたに過ぎないのである。
小河原海砂「そうよね、芽宇!あたし達、あいつに大したことなんかしてないわよね!」
村井芽宇「え?あ、うん・・・・・・?」
  声が聞こえてない芽宇は、完全に戸惑っている様子である。
  それでも、どうやら自分には聞こえていない声が海砂には聞こえているらしい、ということは察したのだろう。
  困惑した様子でも、どうにか頷いてきた。
小河原海砂「教えてやりなさいよ。あたし達、ここで奥田のやつの根性叩き直してあげただけだってさ!」
村井芽宇「そ、そうだね。芽宇たちは、首吊りごっこしただけ。本当に首吊りさせたわけじゃないし、実際あいつは死ななかったし」
  『首吊りごっことはなんだ』
小河原海砂「首に井戸のロープを巻きつけて、井戸の淵に三分間捕まらせるってだけよ。手を離さなければ死んだりしないわ」
小河原海砂「あいつが“助けてくれ”ってみっともなく泣きわめいたら助けてやるつもりだったもん」
小河原海砂「実際死んだりしなかったんだから、大したことじゃないでしょ、この程度!」
  それ以外にも蹴ったり脅したりはしたが、あれはあくまで奏音の態度が悪かったからこらしめただけのこと。自分達は悪くない。
  『なるほど。お前も、あくまで自分は悪くないと言うんだな』
小河原海砂「・・・・・・お前も?」
  女の声は、呆れたように一つため息をついた。そして。
  『ならば、お前も刑を執行する対象だ。もう一人の奴に見せつけてやろう・・・・・・愚か者の末路を』
小河原海砂「え」
  次の瞬間。海砂の体は、勝手に井戸に向かって走り出していた。
村井芽宇「み、海砂ちゃん!?何すんのぉ!?」
  芽宇の悲鳴も無視して、海砂の手は勝手に井戸の縁に飛び乗った。そして手早く、ボロボロのロープを己の首に結び付けていく。

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コメント

  • 何とも凄惨なシーンですね。。。
    これを海砂にやってしまえる冴子さんの怒りと復讐心がひしひしと伝わってきますね。冴子さんの心が壊れそうと思いましたが、既に、、でしたね。

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