読切(脚本)
〇謁見の間
魔王城
女神「勇者よ、起きなさい。起きるのです」
魔王「うん・・・なに、勇者じゃと」
魔王「ついに我が前に勇者が現れおったか!!」
女神「勇者よ、そうです。目覚めるのです」
魔王「よくぞ、ここまで来たな勇者よ。まずはそれを褒めてつかわ・・・す」
魔王「ん・・・あれ?勇者はどこじゃ!?」
女神「さぁ、勇者よ旅立ちの時です」
魔王「・・・貴様は誰じゃ?」
女神「私は愛と正義を司るこの世界の神です」
魔王「その神がどうして余の城におる?」
女神「勿論、勇者を呼び覚ます為にやってきたのです」
魔王「う・・・ん、その勇者はどこじゃ?」
女神「貴方です」
魔王「余が勇者じゃと?」
女神「そうです。勇者よ」
魔王「ちょっと待てぃ。勇者じゃと?余はこの世界に君臨する魔王であるぞ」
女神「なに冗談を言っているのですか、勇者よ。寝ぼけているのですか?」
魔王「寝ぼけてなぞおらんわ。よく、その眼(まなこ)で余を見んか!?」
魔王「どこからどう見ても魔王であろう」
女神「少し魔王っぽさはありますが、人間、見た目で判断してはいけないと言います」
女神「ですから、どのような恰好をしていても勇者は勇者です」
魔王「話しが通じん奴じゃな、コイツ」
魔王「おい、この世界の神と申したな。もう一度言う、よく見て見ろ」
魔王「余は人間ですらないぞ。見た目で判断するもなにもあるか!?」
女神「ふむ、魔王のコスプレをしているのですね」
女神「魔王に扮して、モンスターの目をかい潜(くぐり)り、一直線で魔王の首を狙おうという魂胆ですか」
女神「流石は勇者、やることが汚い」
魔王「じゃーかーら余は勇者ではないと言っておる。貴様や勇者が打ち倒そうと願うその相手、世界に破滅と混沌をもたらす魔王じゃ」
女神「今度の勇者は随分と笑いのセンスに長けているようですね」
魔王「違うと言っておろうが!!」
女神「マジですか?」
魔王「大マジじゃ」
女神「神に誓って?」
魔王「神に誓って・・・って、どうして余が神に誓わなきゃならんのじゃ」
女神「少し、お待ちいただけますか。うーん、ここは始まりの街ですよね」
魔王「どこをどう見たら始まりの街に見える。ここは最後に訪れる魔王城じゃ」
女神「えーっと、ここの座標番号は・・・307─514─2525・・・」
女神「ミンナ、コイヨ、ニコニコ魔王城。この語呂合わせ・・・・・・座標番号は間違いありませんね。確かに魔王城です」
魔王「なんでそんな愉快な語呂合わせに座標番号を設定した!!」
女神「私が覚えやすかったのでつい・・・・・・」
魔王「もう少しマシな語呂合わせはなかったのか」
女神「いや、他に思いつかなくて・・・・・・」
魔王「考えろ、もう少しまともな語呂合わせを捻り出せ」
女神「しかし、私が魔王城に来てしまうとは・・・・・・こうなれば仕方ありませんね」
魔王「じゃろうな・・・・・・まさか神の方から、この城に乗り込んでくるとは」
魔王「人間どもより先に、神を殺せば、この世界も終わりじゃ、ここで始末してくれるわ」
女神「そうですね。こうなればやはりアナタに勇者となって頂くしかありません」
魔王「・・・・・・はっ?ちょっと待て、余の聞き間違いか?余に勇者になれと聞こえたのじゃが」
女神「いえ、間違いではありません。今からアナタが、アナタこそが勇者です!!」
魔王「ちょっと待てーい!!仮に余が勇者となったとする。その場合、余は誰を倒せば良いのじゃ?」
女神「魔王です」
魔王「自分で自分を倒すのか―い!!」
魔王「え、なに自決しろって言うの。それで魔王は死ぬし、勇者もいなくなって伝説になるけども、それで良いの!!」
女神「結果は同じなので、私としては一向にかまいません」
魔王「余が困るわ。どうして自決しなきゃならんのじゃ。せめて戦わせろ。勇者と死闘のすえに魔王は死ななくてはならんのじゃ!!」
女神「そうですか、それがアナタの願い。勇者と魔王の死闘がお望みなのですね」
魔王「もちろんじゃ、というかあくまで設定の都合だけだからな。余は断じて死ぬ気はないぞ!!」
女神「仕方ありませんね。始まりの街へ行ってきましょう」
魔王「この世界を支配する神があんな奴じゃったと・・・・・・本当に滅んでも仕方ないかもしれんのう」
魔王「なんじゃ戻って来たのか。今度は何用じゃ!!」
女神「今始まりの街に行って、勇者として旅立つ者に魔王としての称号を与えてきました」
魔王「勇者が魔王?じゃあ余はなんじゃ?」
女神「勇者です。さぁ、勇者よ旅立つのです」
魔王「逆ぅ!!全部逆ぅ!!」
女神「今なら魔王は銅の剣すら持ってない、ひのきの棒に布の服の雑魚中の雑魚」
女神「倒すなら、今の内ですぜ、ゆ、う、しゃ、様」
魔王「あくどいっ!!神があくどすぎる!!貴様、本当に愛と正義を司っておるのか?」
女神「立場が変われば、愛と正義の中身も変わるもんですぜ、勇者の旦那」
魔王「だから勇者じゃねーって言ってんだろ。余は魔王だー!!」
女神「さぁ、いざ旅立ちの時。魔王の称号を持つ勇者と王国を滅ぼしに、始まりの街へ出発するのです」
魔王「勝手に話しを進めるなー」
すごい強引な神様ですね笑
勇者になる素質は誰しもが平等に、ということなら魔王が勇者に選ばれる可能性は0ではありませんもんね!
この後魔王はどうするでしょうか。
あっけらかんとした女神の物言いがとてもいいですね!そんな彼女につられて、魔王のその存在感が薄れていく感じがおもしろいです。なんだかんだ、運命の出会いの二人なのかも。
この噛み合わない会話から生み出される何とも言えない空気感、たまらないですね!座標番号の語呂合わせには吹いてしまいましたw