がらんどうの瞳

はじめアキラ

第七話『小河原海砂Ⅱ』(脚本)

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〇枯れ井戸
  思い出す。
奥田奏音「今度は何をさせようっていうんだよ」
  あれは一カ月ほど前のこと。
  海砂と芽宇は、二人で奥田奏音を呼び出していたのだ。井戸がある、この場所に。

〇モヤモヤ
  第七話
  『小河原海砂Ⅱ』

〇枯れ井戸
奥田奏音「俺はお前らの言う通りにしたはずだ。もういいだろ」
小河原海砂「全然良くないしー」
  呼び出しの用件は単純明快。奏音が、自分達の命令に逆らったからだ。
小河原海砂「あたし達があんたに命令したこと忘れたわけ?北園と一緒に、モクノ文具店で万引きしてこいつったんだけど?」
奥田奏音「晴翔はドン臭いから、こういうことには向いてない。だから俺一人でやっただろ」
奥田奏音「ちゃんと鉛筆はお前に渡したじゃねえか。何が不満だったんだ」
小河原海砂「不満に決まってる!あたしの目はごまかせないんだから」
小河原海砂「北園に話を持っていくことさえしなかったばかりか、あんた万引きするふりしてこっそり代金置いてきてたでしょ!」
小河原海砂「あれじゃただ買っただけ!万引きになってない!」
  馬鹿にしやがって。海砂が怒るのは当然だろう。自分達は彼らに二人がかりの万引きを命じたのだ。
  それなのに、こいつは友人を巻き込まなかったばかりかきちんと金を置いてきた。ナメているとしか思えない。
村井芽宇「万引きの一つもできないとか、男の子なのにかっこわるーい。芽宇、マジで軽蔑するー」
  芽宇がけらけらと悪意のある笑い声を上げる。まったく同感だ。
  いつもあんなに偉そうな態度を取っているくせに、ヒーロー気取りのくせに、鉛筆の一本も万引きしてこれないとは!
奥田奏音「軽蔑する?こっちの台詞だ」
  忌々しい。そんな感情を隠しもせずに言う奏音。
奥田奏音「万引きは犯罪だ。そのせいで、お店が潰れちゃうことだってあるんだぞ。子供だからって許されるなんてもんじゃない」
奥田奏音「それを自分でやるのも酷いし、他人に命令するなんてもっと最低だ。誰が言う通りになんかするもんか!」
小河原海砂「はあ?あたし達子供は、逮捕なんかされないんですーう。そんなことも知らないなんて、知能が幼稚園児並なのねアンタ」
奥田奏音「逮捕されないのは無罪放免って意味じゃない」
奥田奏音「あくまで大人と同じような裁かれ方をしないだけで補導はあるし、家族や知り合いには迷惑がかかるんだぞ」
奥田奏音「子供だから、大人を傷つけたり苦しめたりしていい理由になんかならない!」
小河原海砂「はいはいはいはい。万引きやる勇気がないってだけなのに、随分カッコつけちゃって」
小河原海砂「いくら言い訳しても見苦しいだけなんですけどー」
  小さな正義にばかりこだわって、いちいち海砂たちがやることに難癖つけてくるムカつく奴。だから――標的にされるのだ。
  何でそんな簡単なこともわからないのだろう。テストの点数は悪くないくせに、馬鹿だとしか思えない。
奥田奏音「人間の言葉がわかんないなら、お前らと話す事なんか何もない。消えろよ」
  奏音は相変わらずこちらを睨みつけてくる。まだ、自分の立場がわかってないらしい。
小河原海砂「消えろ?そんなこと言える立場なわけ?あんたさあ」
  がんっ!と思いきり海砂は奏音の腹を蹴り飛ばした。
  呻き声と共に転がる少年。こちとら女子サッカークラブに入っているのだ。キック力には自信があるのである。
小河原海砂「あんたが玩具になってくれないならいいよ。別のヒトに、酷い目に遭って貰うだけだから」
奥田奏音「別の人?」
小河原海砂「あんたの大好きな大好きな北園晴翔クンとか、あの忌々しい長谷川珠理奈でもいいかなあ」
小河原海砂「・・・・・・あたしの知り合いにさ、こわーいお兄さん達がいるの。その人達、性犯罪で捕まったことあるのよね」
小河原海砂「小さい男の子とか女の子もダイスキなんだって。お兄さんに言って貰って、北園と長谷川で遊んでもらってもいいのよ?」
奥田奏音「お前らっ・・・・・・!」
小河原海砂「わかったら、あんたはあたしらの言う通りにするしかないわけ」
  くすくすと笑いながら、海砂は奏音の足をぐりぐりと踏みつけた。
小河原海砂「あんただって、薄々わかってるから一人で此処に来たんでしょ。腹括りなよ、男じゃーん」
  後ろから、芽宇が声をかける。
村井芽宇「海砂ちゃん、海砂ちゃん。芽宇ね、コイツにやってもらいたいことがあるの。どうかな?」

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コメント

  • 奏音くんへのいじめの実態がエグすぎますね。冴子さんからの10歳の女の子への復讐はちょっと過剰かも、という感情は一気に霧消しました。それにしても、ここまでリアルにいじめを描く作者様に脱帽です。

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