第六話『小河原海砂Ⅰ』(脚本)
〇住宅街の道
おばさんは、かなり無理をしているように見えた。奥田家を後にしてから、珠理奈は何度も後ろを振り返ってしまう。
北園晴翔「珠理ちゃん?」
長谷川珠理奈「あ、うん・・・・・・ごめん」
晴翔の声に、珠理奈は思わずはっとした。
長谷川珠理奈「おばさんのことが心配で。・・・・・・お葬式の時、本当に見てられなかったから」
〇葬儀場
葬式の時の冴子の様子は、正直見ていられないものだった。
大きな声で泣きわめくとか、パニックになるのかと思ったら、彼女はそれさえなかったのである。
ただただ、スイッチが切れたように呆然としていたのを覚えている。散々泣いて、泣きはらした眼のまま。
虚空を見つめてひたすら呆然としていたのだ。旦那さんにいろいろと声をかけられても、殆ど上の空といったかんじで。
〇住宅街の道
長谷川珠理奈「あたし、聞いたことあるの。・・・・・・辛い時に涙を流せるのも、人としての強さなんだって」
長谷川珠理奈「泣きたいのに泣けないって、現実を受け止めきれてない時なんだって。心が壊れちゃわないように、防衛本能が働いてるんだって」
自分が知っている知識が、どこまで正しいかわからないが。
それほどまでに、奏音がおばさんにとって大切な家族だったことはわかる。
おじさんも本当は、あんな状態のおばさんを置いて出張になんて行きたくなかっただろう。
おばさんが休職している以上おじさんがお仕事を頑張らないといけないし、
おばさんの状態も少しは良くなってきたので出張に行く決意をしたというのもあるのだろうが。
北園晴翔「母親にとって子供宝物なんだって言ってた。僕達にとっても奏音は大事な友達だったけど、おばさんにとってはそれ以上だったと思う」
辛そうに眼を伏せて、晴翔が言う。
北園晴翔「実はさ、珠理ちゃん。僕、珠理ちゃんにも言ってないことがあるんだ」
長谷川珠理奈「なあに?」
北園晴翔「こんなことおばさんに言ったら、もっと苦しませそうで言えなかったんだけど。本当は、奏音じゃなくて僕が・・・・・・」
彼がそこまで言った時だった。
〇学校の校舎
丁度、学校の前まで到着することになる。いつもより少し早い時間だ。まだ正門をくぐる生徒の数は少ない、が。
そこに、見覚えのある姿を見かけて珠理奈は眉をひそめた。長い派手なツインテール。気の強そうな瞳の少女。
長谷川珠理奈「しっ」
珠理奈は春翔の口を塞ぐ。
長谷川珠理奈「あいつだ、小河原海砂。・・・・・・村井芽宇のやつもいる」
北園晴翔「!」
珠理奈が何に警戒したのかわかったのだろう。春翔の顔も強張った。
実の所、クラスの人間なら誰もが知っているのである。奏音を特にいじめていた人間が、一体誰であったのかを。
小河原海砂と村井芽宇は、その主犯の一人であると。
本人達は“どうして奥田君が死んじゃったのかわからない”と嘘泣きしていたが。
長谷川珠理奈「こんな朝早くから、あいつら何してるんだろ。・・・・・・また誰かいじめようとしてんじゃないでしょうね」
警戒するのも当然だった。
彼女達のやり口は、まさに汚いの一言に尽きるものであったのだから。
〇モヤモヤ
第六話
『小河原海砂Ⅰ』
〇教室の外
村井芽宇「本当にこんな朝にやるのお?」
海砂の目の前で、芽宇は心の底から不安そうな顔をした。
村井芽宇「芽宇、怖いおまじないとかやだよう。おばけ出そうじゃん」
小河原海砂「なっさけないわね、あんた!十歳にもなってオバケが怖いわけ?」
どうしようもない友人だ。海砂は派手にため息をつきつつ、芽宇の腕を引っ張って校舎の裏へと行く。
小河原海砂「念のため、念のためやるだけだって言ってんでしょ。奥田みたいなタイプはきっと執念深いわ」
小河原海砂「逆恨みして呪ってくるかもしれないし、なんならあの母親だってヒステリーっぽかったじゃない」
小河原海砂「冗談じゃないってのよ、この程度で祟られたりしたらたまったもんじゃない」
村井芽宇「そ、それって海砂ちゃんも、祟りが怖いってことじゃん・・・・・・」
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冴子さんの姿が、本人以外からその様子が語られることでより落胆と憎悪っぷりが伝わってきます。特に珠理奈ちゃんの視点には感心です。この年齢の女の子には稀にいる賢い子ですね!