ウソツキとナゾの旅人

夜缶

ナゾの旅人(脚本)

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〇霧の立ち込める森
嘘つきの悪魔「・・・今日も仕留めたな」
  鬱蒼たる森の中で私は人々を案内し、迷わせた。
  理由は自分が生きるため、だ。
  つまり私は魔法を使って人を殺し、それを食って生活している悪魔なのだ。
嘘つきの悪魔「それにしても、今日は上手くいくものだな」
  かれこれ何年も行っているが、人々にバレる気配が全くない。
  いや、実際は気づかれているのかもしれない。
  かといって、やめる気はさらさらないが。
嘘つきの悪魔「まぁとりあえず、いただくとするか」

〇霧の立ち込める森
嘘つきの悪魔「・・・む?」
  あれからしばらく経った。
  するとどうやら、客人もとい獲物がやってきたようだった。
  旅人だろうか。
  コートもズボンもブーツまでも、顔以外は全部真っ黒な男。
  正直気味が悪いが、栄養にはなるだろう。
  ひしめき合う木々を後方に、私は旅人に声を掛けた。
ナゾの旅人「どうも・・・」
  淡々と静かに返した。
  今まで出会ってきた人々は、私を見るなり驚いていたが、この旅人はそうしなかった。
  長身に慣れているのだろう。
  私は続けて声を掛けた。
嘘つきの悪魔「アンタ、旅人さんかい?」
ナゾの旅人「はい」
  やはり旅人のようだった。
嘘つきの悪魔「なら道案内してやろう」
  私がいつも通り、親切にしようとすると、旅人は黙り込んだ。
嘘つきの悪魔「どうした?」
ナゾの旅人「あ、いえ。 ちょっと聞きたいことがありまして」
嘘つきの悪魔「なんだ?」
ナゾの旅人「あなた、悪魔ですよね?」
  いきなり直球な質問がきた。
  しかし慌ててはいけない。
  冷静に、着実に獲物を仕留めるのが私だ。
嘘つきの悪魔「なぜそう思う?」
ナゾの旅人「実はですね・・・」
ナゾの旅人「僕、村の人々に秘密を持っているんです」
嘘つきの悪魔「答えになってないぞ?」
ナゾの旅人「まぁ聴いてください」
ナゾの旅人「僕、あなたと同じなんです」
嘘つきの悪魔「・・・?」
ナゾの旅人「だから僕も、悪魔なんです」
嘘つきの悪魔「・・・ハッ」
  この男は頭がおかしいのだろうか?
  冗談は顔だけにしてもらいたい
嘘つきの悪魔「その証拠は?」
ナゾの旅人「悪魔は悪魔の考えていることが分かるのです」
嘘つきの悪魔「私には全く分からないが?」
ナゾの旅人「僕にはわかりますよ」
嘘つきの悪魔「例えば?」
ナゾの旅人「村娘を殺したこととか」
  一応、間違ってはいない
  しかし、ただのハッタリだろう。
嘘つきの悪魔「他には?」
ナゾの旅人「そうですね・・・」
ナゾの旅人「魔法が使える、ですかね」
  これも、合っている。
  ただのハッタリではないのだろうか?
  ・・・いや、きっとまぐれだ。
  そうに違いない。
嘘つきの悪魔「なら、その魔法とやらはアンタも使えると言うのか?」
ナゾの旅人「使えますよ?」
  こちらも適当に煽ってみたが、予想外の回答が返ってきた。
  私以外に魔法が使える悪魔なぞ、認められるか。
嘘つきの悪魔「じゃあそれを今、ここで披露しろ」
ナゾの旅人「分かりました」
  相変わらず淡々と返す旅人は、何やら地面の木の枝を拾い出した。
  そしてそれを、私の腹に突き当てた。
嘘つきの悪魔「な、何をするのだ!?」
ナゾの旅人「これからあなたを燃やしてみせましょう」
嘘つきの悪魔「は!?」
ナゾの旅人「悪魔は2人もいりませんからね」
  やはりこいつは頭がおかしい。
  そんなことをすればこの森もろとも、私と旅人はお陀仏だ。
ナゾの旅人「あ、やめてほしいなら僕の言うことを聞いてください」
嘘つきの悪魔「さ、さっきからなにを言っているのだ!?」
ナゾの旅人「じゃ、カウントダウンはじめます」
  突然、カウントダウンが始まった。
嘘つきの悪魔「そもそも、アンタが魔法を使えるはずがない。ハッタリだろう?」
ナゾの旅人「10、9、8、」
  カウントダウンは止まらない。
嘘つきの悪魔「な、なぁ。 なぜ悪魔同士で争わなければならないのだ?」
ナゾの旅人「7、6、5、」
  やはりカウントダウンが止まらない。
嘘つきの悪魔「お、おい・・・。 本当に使えてしまうのか?」
ナゾの旅人「4、3、2、」
  されどカウントダウンは止まらない。
嘘つきの悪魔「うっ・・・」
ナゾの旅人「1、」
嘘つきの悪魔「こ、降参だ・・・ 言うことを聞く・・・」
ナゾの旅人「分かりました」
  カウントダウンが、ようやく止まった。

〇霧の立ち込める森
ナゾの旅人「じゃ、この道を辿ればいいんですね?」
嘘つきの悪魔「・・・あぁ、そうだ」
  屈辱だが、仕方なく私はこの男を先に行かせてやることにした。
  ・・・そうしなければ、本当に燃やされるかもしれないからだ。
ナゾの旅人「あ、あともう一つ」
嘘つきの悪魔「・・・なんだ」
ナゾの旅人「なんで、人なんか食うんですか?」
嘘つきの悪魔「・・・生きるため、だ」
ナゾの旅人「生きるためとは? 別にあなたは人なんか食べなくても生きていけるでしょう?」
嘘つきの悪魔「・・・」
嘘つきの悪魔「・・・若さを、保ちたいからだ」
ナゾの旅人「あぁなるほど。 納得しました」
嘘つきの悪魔「・・・私からも、いいか?」
ナゾの旅人「なんでしょう?」
嘘つきの悪魔「・・・本当にアンタは、悪魔なのか?」
ナゾの旅人「ご想像にお任せしますよ」
嘘つきの悪魔「む・・・」
  正直その対応には腹が立つが、我慢することにした。
  奴がなにをしでかすか、たまったものではないからだ。
ナゾの旅人「それではさよなら。 悪魔さん」
ナゾの旅人「・・・あぁいや」
ナゾの旅人「【木】の悪魔さん」
  奴はそう言って、この場を後にした。
  奴は私が【木】であることをいいことに、燃やそうとしたのだ。
  恐ろしい男だった。
  ・・・しかし
嘘つきの悪魔「なぜあいつは私を悪魔だと見抜いたのだろうか?」
嘘つきの悪魔「・・・奴が言っていたことが本当ならば・・・」
嘘つきの悪魔「・・・」
嘘つきの悪魔「まさか、な・・・」

〇林道
ナゾの旅人「──上手くいくものですね」
  旅人は静かな森で、そう言った。
ナゾの旅人「・・・それにしても、僕以外にも悪魔がいるとは・・・」
ナゾの旅人「いや〜流石に火は扱えませんがね」
ナゾの旅人「・・・まぁでも」
ナゾの旅人「あの【木】の悪魔さんが森を操るなら──」
ナゾの旅人「──僕は人を操りますよ」
ナゾの旅人「・・・ナナさんには悪いですが、僕も生きたいのでね」
ナゾの旅人「・・・フフッ」
  旅人は不敵に笑いながら、森を抜けた。

コメント

  • 旅人と悪魔との駆け引きが絶妙で、読み終えてもなおミステリアスな余韻が残る作品でした。追いかけられたらとりあえず逃げるっていう反射と同じように、カウントダウンというものは0が近づくとなぜか謎に焦りますね。

  • 旅人はうまく丸め込みましたね。悪魔と旅人の絶妙な掛け合いが面白かったです。最後まで意味深な旅人さんでしたね。詳しく正体が知りたいです。

  • なんとなく両者とも悪魔でなさそうな普通っぽさがよかったです。相手の嘘を見抜く力って、並大抵ではないですよね。そういう意味では旅人が一枚上手だったですね。

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