第四話『太田川亜希子Ⅱ』(脚本)
〇おしゃれなキッチン(物無し)
奥田冴子(馬鹿な女)
冴子は手鏡を、冷たく覗き込んだ。
奥田冴子(少しでも反省する素振りとか、奏音への謝罪の一つでも口にすれば・・・・・・私の気だって変わったかもしれないのに)
声を聴かせるところまでは、本当に実行することができた。ならば商人が言っていた三つ目の能力もきっと真実だろう。
念じるだけで、相手を思ったように殺せる鏡。この女で試してみようではないか。
奥田冴子(そうね。せっかくトイレにいるんだから・・・・・・)
こいつに相応しい、最悪の刑を執行してやろうではないか。
〇モヤモヤ
第四話
『太田川亜希子Ⅱ』
〇個室のトイレ
太田川亜希子「ひぐっ・・・・・・!?」
亜希子の体は、亜希子の意思を無視して勝手に動き始めていた。
便座の蓋を上げて、淵に両手を突ける己。まだ、排泄したものを流していない。
流そうとしたところで、この謎の声に阻まれたからだ。
太田川亜希子「な、な、何する気っ!?これ、あんたがやってるの、ねえ!?」
便座の淵はぬるぬるに濡れている。便器の中の水が飛び散ったのか、あるいは汚物か。深く考えたくもなかった。
吐き気がしそうな汚物の臭いが鼻をつく。それだけでも最悪なのに、亜希子の体は段々と前に傾きつつあった。
そう、汚物のたまっている便座の中に、ゆっくりと顔が近づき始めたのだ。
太田川亜希子「や、やめて!やめて、やめてよねえっ!!」
まさかまさかまさか。
太田川亜希子「いや、いやいやいやいやいやっ!」
まさかこのまま、便器の中に自分の顔をダイブさせようというのか。冗談ではなかった。
汗をびっしょりかくほど、全身全霊をかけて逆らっているのに――体はまったく亜希子の言うことを効かない。
まず最初に犠牲になったのは、毎日丁寧に整えているウェーブした長い髪だ。
髪の毛の端が、便器の中に落ちる。亜希子は悲鳴を上げた。
太田川亜希子「何でもする、何でもするから!だから許して!」
『・・・・・・ならば、お前が知っていることを話せ』
再び頭の中に声が響く。
『お前のクラスでいじめはあったのか、なかったのか、どっちだ。奥田奏音は本当にいじめられていなかったと思うのか?』
太田川亜希子「わ、わ、わかんないわ!い、いつも複数の男の子と女の子に囲まれてたから、私はきっと人気者なんだと思ってたわよ!」
太田川亜希子「い、いじめなんてもの知らないし、知りたくもなかったから!」
太田川亜希子「そんなものがもしあったら教師は責任を問われるし、」
太田川亜希子「校長からも教育委員会からも保護者からも何言われるかわかったもんじゃないでしょ」
太田川亜希子「そ、そんなのごめんだったから、調べなかったのよ!」
『お前の目から見て、本当に奥田奏音は楽しそうにしていたのか?』
『悪口を言っていた者はいなかったのか?笑い者にしていた人間は?』
太田川亜希子「よ、よく笑ってたのは・・・・・・小河原《おがわら》さんと、その友達の村井《むらい》さんだと思うわ」
太田川亜希子「た、確かに奏音君が泣いてた時もあったけど、お、女の子に男の子がいじめられるなんて情けないこと普通ないでしょ?」
太田川亜希子「だから、きっと見間違いか、うれし泣きだと思って・・・・・・ぎゃあ!」
きちんと喋っているのに、じわじわ顔は便器の中に近づいていく。凄まじい臭気が目に染みて涙が出た。
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先生、見事なまでの自己保身っぷり、、、そしてエゲツナイ殺害方法ですね。衝撃を覚えながらも、昔も今も生じ続けるいじめというものについて考えさせられますね