初めてのお使い

鍵谷端哉

読切(脚本)

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〇豪華なリビングダイニング
佐伯 真(僕の名前は佐伯真。今年で8歳になる。8歳といえば、もう色々と出来る年だ)
佐伯 真(友達の将太くんなんかは、一人で留守番ができるし、誠二くんは一人で電車を乗り継いでおばあちゃん家に行ったって、言ってた)
佐伯 真(だから、僕だって・・・僕だって・・・一人で買い物くらいできるんだ!)

〇豪華なリビングダイニング
母親「あら! みりん、切れちゃった・・・」
母親「うーん、まあ、ちょっと足りないけどいいかな」
  トタトタと真がやってくる。
佐伯 真「ねえ、お母さん、僕が買いに行ってこようか?」
母親「え? いいのよ、別に。それより宿題やったの?」
佐伯 真「うん、もう終わったよ。だから、買い物してくる」
母親「でも・・・・・・危ないわ」
母親「あ、そうだ、お母さんと一緒に行こうか?」
佐伯 真「それじゃ意味ないよ! 僕、一人で行きたいの!」
母親「でも・・・」
佐伯 真「どうしてダメなの? お店、すぐそこでしょ」
母親「すぐそこって・・・歩いて、五分もかかるじゃない」
佐伯 真「学校のほうが遠いよ!」
母親「学校はお友達と行くじゃない。でも買い物は一人でしょ」
佐伯 真「前にも一人で買い物行ったもん! だから、大丈夫だよ!」
母親「でもあれは・・・」
佐伯 真「・・・・・・」
母親「わかったわ。じゃあ、お願いしようかな」
佐伯 真「やったぁ!」
母親「その代わり、どこにも寄り道しないで、まっすぐ行って、すぐに帰ってくるのよ」
佐伯 真「うん、わかってる!」
母親「道路に出ちゃダメよ。絶対に歩道を歩いて行くの。約束できる?」
佐伯 真「子供じゃないんだから、大丈夫だって」
母親「何言ってるのよ。子供じゃない」

〇シックな玄関
佐伯 真「それじゃ、行ってくるね。えっと、みりんでいいんだよね?」
母親「・・・いや、みりんはいいわ。真の好きなお菓子買ってきて」
佐伯 真「なんだよ、それ。それじゃお使いにならないよ」
母親「でも・・・みりん重いし」
佐伯 真「持てるよ、それくらい」
母親「そう? それじゃ、みりん、お願いしようかしら」
佐伯 真「それじゃ、お金ちょうだい」
母親「そうね。・・・じゃあ、はい、一万円」
佐伯 真「こんなにいらないよ」
母親「でも、足りなかったら、困るでしょ?」
佐伯 真「お母さん、僕のこと馬鹿にしてる? 千円あればお釣りもらえるくらい、僕だってわかるよ!」
母親「・・・でも、ほら、迷子になったらタクシー使うかもしれないでしょ?」
佐伯 真「お母さん・・・」
母親「ごめんなさい、そんな顔しないで。わかったわ」
母親「はい、千円。余ったら、お菓子買ってきていいからね」
佐伯 真「大丈夫だよ、家にいっぱいあるんだから」
佐伯 真「それじゃ、行ってきます」
母親「行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
  ドアを開き、真が家を出ていく。

〇通学路
  歩き出す真。
母親「車に気を付けるのよ! 信号は赤で渡ったらだめだからね!」
佐伯 真「わかってるって! もう、家でちゃんと待っててよ!」
母親「・・・もう、わかったわよ」
佐伯 真(お母さんは心配し過ぎる。周りからはよく、過保護だ、なんて言われるくらいだ)
佐伯 真(意味はよくわからないけど、なんだか恥ずかしい気分になる。だから、お母さんに僕は大丈夫って見せるんだ)
佐伯 真「この初めてのお使いをしっかりやらないと」

〇コンビニのレジ
  自動ドアが開き、真が入ってくる。
おじさん「いらっしゃーいって、おお、真くん」
佐伯 真「おじさん、こんにちは。みりんください」
おじさん「お使いかい? 偉いね」
佐伯 真「うん、一人できたんだよ」
おじさん「そっか。よく、お母さんが許したね」
佐伯 真「説得したの」
おじさん「ははっ。真くんは難しい言葉を知ってるなぁ」
おじさん「えっと、みりんだったね」
  おじさんが戸棚からみりんを取って、真に渡す。
佐伯 真「ありがとう。はい、お金」
おじさん「はい、千円お預かりで、643円のお返しだ」
佐伯 真「ありがとう。レシートもください」
おじさん「はは、しっかりしてるね。はい」
  真がポケットにお釣りとレシートを入れる。
佐伯 真「それじゃ、帰るね」
おじさん「みりんだけでいいのかい? お母さんと一緒の時はお菓子買ってくじゃないか」
佐伯 真「いらない。今日は、一人だから!」
おじさん「ああ、そっか。そうだったね」
おじさん「じゃあ、このお菓子はおじさんからのサービスだ。一人でお使いに来たからご褒美に」
佐伯 真「ありがとう。でも、いらない」
おじさん「どうして?」
佐伯 真「今日はお使いだから。お使いだけして、帰るだけにするんだ」
おじさん「そっか・・・。偉いね。じゃあ、気を付けて帰るんだよ」
佐伯 真「うん、わかった。それじゃ、さよなら」
おじさん「はい、さようなら」
  自動ドアが開き、真が出ていく。

〇コンビニ
佐伯 真「よし、お使い終わり。帰ろうっと」

〇シックな玄関
  家のドアが開き、真が入ってくる。
佐伯 真「ただいまー」
母親「お帰りなさい」
佐伯 真「うわっ! びっくりした」
佐伯 真「・・・ずっと、玄関にいたの?」
母親「え? あ、うん。そうよ。ずっと玄関で待ってたの」
佐伯 真「・・・・・・」
母親「それより、みりん、ちゃんと買えた?」
佐伯 真「うん、はい、これ」
母親「すごい! ちゃんと買えたのね! 偉いわ」
佐伯 真「これくらい、普通だよ・・・」
佐伯 真「それと、これお釣り」
母親「ありがとう。ちゃんとレシートももらったのね。偉いわ」
佐伯 真「ねえ、お母さん。わかったでしょ?」
佐伯 真「もう、僕一人でお使いくらいできるんだからね」
母親「・・・え? あ、うん。そうね。また頼もうかしら」
佐伯 真「うん」
母親「あ、そうだ。真、おじさんからのお菓子断ったの、偉かったわね」
母親「お母さん、良い息子持って、鼻が高かったわ」
佐伯 真(・・・やっぱり、今回も着いて来てたのか)
佐伯 真(あーあ、一体、僕はいつになったら初めてのお使いができるんだろう・・・)
  おわり。

〇通学路

コメント

  • まぁ気持ちはわからないでもないです…。
    心配ですよね。
    もし事故に遭ったら、もし連れ去られたら、大切な子に何かあったらと考えたら、過保護になる気持ちも…。

  • 読んでいて自然と笑顔になる、微笑ましいストーリーですね!ファミリードラマにピッタリな優しいオチで、思わずウンウンと頷いてしまいます。

  • 私は子供がいないのでこの母親がここまで心配しないといけない気持ちが100%理解できませんが、この男の子のはがゆい気持ちには共感できます。いずれにせよ、とてもリスペクトのある親子で読んでて笑顔になりました!

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