〇走行する車内
楓　言葉(かえで ことのは)「フフフーフーーン♪」
楓　言葉(かえで ことのは)「ん!?」
楓　言葉(かえで ことのは)「あっ!!」
楓　言葉(かえで ことのは)（間に合わなっ・・・）
　　だ、大丈夫かぁ!?
　　『音がなくなった日』

〇病室
　　私、楓　言葉は交通事故にあった
　　奇跡的に一命を取り留め
　　腕も足も問題なく動くようになるとのことだった
　　ただ・・・

〇病院の診察室
医者「──────────」
　　聴力と声帯を失った
　　この日
　　私の世界から音がなくなった
　　PCでの説明で恐縮です
　　楓さんは近距離での爆発と大量の煙を受けた事で
　　聴力と発声機能が失われてしまいました
　　大変心苦しいのですが
　　回復の見込みはありません
楓　言葉(かえで ことのは)「──ﾋｭ───ﾋｭ────」
　　申し訳ないです

〇黒
　　何も聞こえず
　　何も言葉で伝えられない世界
　　それはまるで私だけが世界から切り離されたかのようで
　　目は見えているはずなのに
　　希望のない暗黒の世界に落とされたかのようだった

〇病室
　　最初は心配して見舞いに来てくれた友人達も

〇病室
　　まともにコミュニケーションがとれず
　　浮かない顔をしている私に愛想を尽かしたのか

〇病室
　　１人、また１人と徐々に疎遠になっていった
　　彼・・・
　　音弥を除いて・・・
　　なんで音弥はお見舞いに来てくれるの？
　　こんな私なんかのために
響　音弥(ひびき おとや)「なんでって・・・そりゃあ」
響　音弥(ひびき おとや)「言葉、辛そうだから」
響　音弥(ひびき おとや)「側にいてやりたいと思ってだよ!!」
響　音弥(ひびき おとや)「やべ、うっかり普通に話してた!! えと、キーボード貸して!!」
　　ううん、いいよ
　　なんとなく何を言ってるかは分かったから
響　音弥(ひびき おとや)「ああ・・・そう？ 恥ずかしっ!!」
　　音也の裏のない真っ直ぐな性格に
　　私は救われていた
　　そして数ヶ月後

〇病室
　　彼からプロポーズされた
　　嬉しいけど・・・
　　私・・・耳も聞こえないし話せもしないよ
　　本当に・・・いいの!?
響　音弥(ひびき おとや)「────」
　　俺はそんな事気にしないよ
　　だって君の事が・・・
　　言葉の事が・・・好きなんだ
　　言葉で通じ合う事ができなくても
　　気持ちは・・・思いは通じ合えるって信じてるから
楓　言葉(かえで ことのは)「ﾋｭｰ・・・ﾋｭｰ・・・」
　　私は音弥と・・・
　　結婚した

〇明るいリビング
　　こうして彼との結婚生活はスタートした
響　音弥(ひびき おとや)「おはよう言葉!! 今日も綺麗だね」
響　言葉(ひびき ことのは)「・・・」
　　付き合いも長くなり唇の動きや表情で何を言っているかは分かるようになった
　　音弥は何も聞こえず何も話せない私に
　　根気よく話続けてくれた
　　するとある日・・・

〇明るいリビング
響　言葉(ひびき ことのは)「・・・」
響　音弥(ひびき おとや)「おはよう言葉!!」
響　言葉(ひびき ことのは)（えっ）
　　不思議な事に音弥の声が聞こえたような気がした

〇病院の診察室
　　医者が言うには
　　元の声を知っているため、脳が紡ぎだした幻聴とのことだったが
　　理由はどうでもいい

〇幻想空間
　　私の世界に
　　音が戻ってきたのだから
　　それからの２人の日々は
　　筆舌に尽くしがたい幸福の日々だった
　　そして月日は流れ・・・
　　40年後──

〇病室
　　音也の命の灯が・・・
響　音弥(ひびき おとや)「・・・・・・」
　　消えようとしている

〇黒
　　また私の世界から
　　音が無くなろうとしている
　　暗黒の世界に・・・戻ってしまう・・・
　　でも

〇病室
　　そんな事より
　　私が悔しいのは
　　こんなにも私を愛して側にいてくれた音弥に
　　自分の声で一度も伝えられていない事・・・
　　あなたを愛している・・・と
響　言葉(ひびき ことのは)「ﾋｭｰ・・・ﾋｭｰ・・・」
響　音弥(ひびき おとや)「・・・」
響　音弥(ひびき おとや)「ふっ まるで告白じゃな」
響　音弥(ひびき おとや)「ありがとう そんなに叫ばなくてもずっと聴こえておるよ・・・」
響　音弥(ひびき おとや)「ワシも君を」
響　音弥(ひびき おとや)「愛している」
　　この日
　　音弥は息を引き取った

〇黒
　　私の世界から
　　音がなくなった
　　それでも

〇葬儀場
　　あなたの声を抱いて
　　私は生きていく
　　この音のなくなった世界を
　　再びあなたに会える日まで