第二話『序曲Ⅱ』(脚本)
〇シックな玄関
それは一見すると、何の変哲もない普通の手鏡に見えた。
これでどうやって復讐すればいいというのだろう。怒りや呆れより困惑が勝り、冴子は商人を見上げる。
商人「お教えしましょう。この鏡で、どのような“魔法”が使えるのかを」
男は笑みを含んだ声で言う。
商人「絶対に許せないんでしょう?貴女から愛するものを奪い、貴女の世界をも壊してのうのうと生きる連中が」
商人「御心配なさるな。この道具は、それらの願いを全て叶えてくれます。警察に、捕まることもなく、ね」
〇モヤモヤ
第二話
『序章Ⅱ』
〇シックな玄関
商人「この手鏡でできることは三つです」
商人は、三本指を立てて言った。
商人「一つ、憎たらしい相手の現在の姿を映し出すこと」
商人「・・・・・・奥田冴子さん、貴女が殺したいと思っている人間をまず一人、言ってみていただけませんか?」
奥田冴子「え?じゃ、じゃあ・・・・・・太田川亜希子《おおたがわあきこ》・・・・・・」
〇黒背景
太田川亜希子。
それは、奏音が通っていた木槌丘小学校《きづちおかしょうがっこう》の、四年二組の担任教師だ。
年輩の女性で、第一印象はけして悪い先生ではなかった。
いつもにこにことほほ笑んでいる、穏やかで綺麗なおばちゃん先生といった印象の人物だ。
しかし、彼女はクラスでのいじめを見て見ぬフリをし、奏音を死に追いやった元凶の一人である。
手紙にも、先生に相談したけど取り合ってもらえなかった、という無念が綴られていたから間違いないだろう。
いじめの真相を知る意味でも、思い知らせてやる意味でも。けして外せない、標的の一人だ。
〇シックな玄関
商人「では、この鏡に向かってもう一度その名前を唱えてください」
奥田冴子「は、はい」
冴子は鏡を手に持ち、そっと名前を唱えたのだった。
奥田冴子「太田川、亜希子」
すると。円い鏡の中の景色が、ぐにゃりと歪んだのである。
そして、あの太田川亜希子の姿が目に入った。彼女は学校にいるようだ。廊下らしき風景が見える。
商人「貴女が顔と名前を知っている人間に限り、この鏡に現在の姿を映し出すことができます」
商人「相手の様子を観察できる、これが出来ることの一つ目です」
奥田冴子「べ、便利ね」
商人「横にツマミがついているでしょう?それを捻ると、相手の声も聞こえるようになりますよ」
商人「・・・・・・その上で、出来る事の二つ目は。貴女の声を、相手に伝えることができるということです」
商人「向こうに、貴女の姿は見えません。貴女は遠く離れた場所から相手を一方的に尋問することができるのです」
奥田冴子「へえ」
信じられない、が。実際に鏡の中には、太田川亜希子の姿が映っている。どうやらトイレに行こうとしているところであるらしい。
不思議な力を持つアイテムであるのは間違いないようだ。
商人「さらに三つ目。・・・・・・その人物に、貴女が望む“死に方”をさせることができます」
商人「首を絞めて殺すもよし、窓から転落死させるのもよし」
商人「念力での殺害ですから、相手は絶対に逆らうことができません」
商人「ただし、状況によっては第三者を巻き込む可能性があるので、充分お気を付けください」
第三者を巻き込む?どういうことだろう。冴子は不思議に思ったが、些末なことだろうと今はスルーすることにした。
それよりも、この鏡を使って本当に人を殺すことができるかどうかが重要だ。
この男が言うことがもし本当ならば、自分は労せずして完全犯罪を成し遂げることができる。
遠くから、直接手を汚すこともなく相手を殺すことができるのだから。
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殺して復讐を遂げたいと考える冴子さんと、容易に人を殺してしまうことができるアイテム、恐ろしい出会いを果たしてしまいましたね。冴子さんが無心で復讐を果たすのか、逡巡してしまうのか、展開が気になりますね。