エピソード1(脚本)
〇けもの道
レイ「はぁ、はぁ」
ただひたすらに走っていた。
国境を越え、数日も移動すれば、追手の手の届かない辺境の地に辿り着く。
〇森の中の小屋
レイ「ここまで来れば、もういいか」
レイ「空家だ。今日はここで休もう」
〇暖炉のある小屋
レイ「ふう」
すっかり疲れ切ってすぐ寝入った。
ガチャ
誰かが来たことに気がつかないほどに。
エドガー「誰?」
〇暖炉のある小屋
翌朝
ガシャーン!
エドガー「あー、やっちゃった」
レイ「ん?」
エドガー「あ、目が覚めた?」
レイ「すみません!すぐに出ていきます!」
エドガー「大丈夫だよ。ただ休んでいただけだろ?」
エドガー「何か事情があるみたいだし、ここで良ければ使って?」
レイ「ですが、」
エドガー「他に当てが?」
レイ「無いですけど」
レイ「見ず知らずの人にただでお世話になるのは」
エドガー「それもそうだ。なら自己紹介をしよう」
エドガー「僕はエドガー。しがない物書きだ。君は?」
レイ「私はレイ」
エドガー「よし、これで僕達は知り合いだね!」
エドガー「それはそうと食事はどう?客人のために、腕に寄りをかけて作ってみたんだ!」
有無を言わさぬ眩しい笑顔で言われては、断れなかった。
レイ「では、頂きます」
〇暖炉のある小屋
エドガー「どう?」
レイ「美味しいです」
エドガー「良かった」
エドガー「それで、さっきのことだけど」
エドガー「君の話を聞かせてくれることが条件でどう?」
レイ「どんな話ですか?」
エドガー「何でもいいよ。好物でも、君の身も上話でも」
レイ「それを聞いて、どうするんですか?」
エドガー「僕が書いてる物語に使えないかと思って」
レイ「どんな物語なんですか?」
エドガー「うーん、ロマン溢れる冒険譚とでも言っておこうかな」
見ず知らずの人間に良くするなんて何かあるに違いないと思っていた。
だけれど、彼のそばはなんだかひどく心地よかった。
気の抜けるようなやわらな笑顔。
そして、ロマンという響きも気に入った。
この人なら、いいのかな
レイ「わかりました。身の上話でいいんですよね」
〇巨大な城門
ヴェンドラド帝国。
大陸全土を支配しようと目論み、争いが絶えない国。
帝国騎士の私は幾度もその争いに駆り出された。
〇荒廃した街
戦場にいた誰も彼も、私は殺した。
女子供も関係なく。この手で。
〇城の会議室
レイ「戦士でない者たちまで殺す必要があるのですか!?」
そんなことを言ったこともあった。
けれど──
王「国の安寧、繁栄のためだ。いずれ害となり得る芽はその一切を潰しておかねばならぬ」
その言葉を聞いた時、心底恐ろしくなった。
他国には他国の文化がある。
生きてきた歴史がある。
それを目的の為にただ押し潰す帝国の人間が恐ろしかった。
彼らは、人でなしだ。
私は、こんな人でなしたちのために、他国の無辜の民を手にかけてきたというのか。
〇黒
命を奪われた人達の姿が脳裏に焼き付いて離れない。
限界だった。
〇暖炉のある小屋
レイ「そうして私は、ここに辿り着いたんです」
エドガー「帝国には、君みたいな優しい人もいたんだね」
レイ「優しい? 命令とはいえ、大勢の人を殺した私に優しいだなんてどうかしています」
エドガー「そうかもしれない。でも君は、好んで人を殺すような人間じゃない」
エドガー「君が抱えていた葛藤は、優しさがあるからこそだと思うよ」
エドガー「君は自分を犠牲にし過ぎた」
エドガー「ここはもう帝国じゃないんだし、もっと自分の気持ちに正直になれる。誰かを頼る事だって出来るはずだよ」
レイ「・・・」
エドガー「殺した事実は消えない。でも償っていくことは出来る」
レイ「そうですね、そのつもりです」
エドガー「君の支えになりたい。困った時は、いつでも頼ってくれ」
〇黒
そんなこんなで、私は彼の空き家を拠点にしながらこの国での生活を始めた。
たくさんの人に出会った。
騎士としての経験を活かし、剣術の稽古や、人助けをする様にもなった。
この国の人はとても優しくて、温かった。
帝国にはなかったものだ。
けれどそんな穏やかな日常は、そう長くは続かなかった。
ついに帝国の勢力は、この辺境の地にまで辿り着いたのだ。
〇戦場
血と、焼けこげた匂い。
金属同士が交わる音。
狂気にのまれる人の声。
まさに惨劇──
レイ「エドガー!!しっかりして!」
エドガー「レイ。お願いだ。・・・この国を、人々を、守って、く、れ」
レイ「出来るだけのことはする!だから、死なないでっ!」
エドガー「ごめん。君との日々は、何より──」
レイ「エドガー!!」
彼はもう、何も答えなかった。
まだ、出来ることはあるはずだ。
レイ「行かなきゃ」
〇戦場
男1「戦場に一人でいるたぁ、大した自信だな。女騎士さんよ」
レイ「お前は!」
男1「よお裏切り者。お前には死んでもらうぜ」
レイ「断る!」
男1「よっぽどここがお気に入りらしい。何でだ?」
レイ「お前には関係ない!」
男1「そうかよっ」
レイ「ぐっ」
男1「ハッ!貰ったぁ!」
レイ「舐めるな!」
男1「なん、だと・・・」
血を流しすぎた。体も動かなくなってきた。でもまだ、残党が残ってる。
〇ヨーロッパの街並み
市民ニ「いつもありがとう騎士様。本当に助かっているよ」
子供「ねえ騎士様!今日も剣術教えて!僕、騎士様みたいに強くなりたい!」
〇戦場
まだ、まだ終われない。
お人好しの君。
血で汚れた私を、それでも優しいと言ってくれた君。
そんな君が愛した国を、人々を、私は。
この命ある限り守ってみせる。
それが私の贖罪。彼との約束。
レイ「かかってこい三流ども!私がいる限り、この国は終わらせない!」
体が動く限り剣を振った。だけど手負いでは限界があった。
レイ「はぁっ!」
避けきれなかった剣戟が、腹を抉った。
レイ「ぐっ」
ごめんなさい。エドガー。
結局私は何一つ守り切れなかった。
ああ。でも。あなたと過ごした日々は、私にとって何より大切で、幸せな思い出です。
どうかあなたが、安らかでいますように。
私は少しでも、償うことができただろうか。
現実にも他国で同じような戦いが進行中であることを思うとやりきれないです。レイとエドガーは出会ったことで、たとえ短い間でもお互いの人生を豊かにして意味あるものにしたと思います。
悲しいラストでしたが、読みやすくてセリフがとても印象に残る素敵な作品でした。
罪を償うというのは、その人次第だと思います。
償う行動も、それが終わるのも、その人が決めることだと。
そうしないと人はいつまでも自分を許せませんからね。