本当の声をきかせてくれ(脚本)
〇謎の施設の中枢
人は望みを 神に願う
〇謎の施設の中枢
──神は、何に願えばいい?
〇公園のベンチ
私の今の願いは──
イヴ「はっくしゅん!」
服を着ることだ
イヴ(どうして人間は・・・)
イヴ(私に気温感知と生理現象の 機能なんか搭載したんだ・・・!)
イヴ(服がほしい! しかし・・・ 買い物のための貨幣など持ってない・・・)
イヴ「なにしろゴミだもんな、私は」
イヴ(いっそ、人間から奪えてしまえれば・・・)
イヴ(──いや、 それができないからこうなってるんだ)
イヴ(なんだ、今の──音色・・・?)
イヴ(気になるな・・・ 何の音なんだ?)
〇イルミネーションのある通り
~♪
イヴ「・・・」
イヴ「・・・それは、楽器?」
コウ「・・・」
〇SNSの画面
何その格好
〇イルミネーションのある通り
イヴ「ああ、服がないんだ 私はゴミだから」
イヴ「とりあえず、拾った布を 巻いておいたが・・・やはり変か」
コウ「・・・」
意味不明
イヴ「そうか?」
イヴ「人は服を着るが、ゴミには着せないだろ? そういうことだ」
コウ「・・・」
イヴ「ん? なんだ、服・・・? くれるのか?」
貸すだけ
イヴ「感謝する! 早速着させてもらおう」
イヴ「服を着るとあたたかいな! 本当にありがとう!」
イヴ「そうだ、名前は?」
コウ
イヴ「コウ、あなたは優しいな」
別に
イヴ「私はゴミだから名前などないが 捨てられる前はイヴだった」
コウ「・・・」
イヴ「その楽器は何と言ったっけ?」
ギター?
イヴ「そうそう、ギターだ 音色は初めて聞いたが、素晴らしいな」
ギターじゃなくて俺
イヴ「どういうことだ?」
素晴らしいのは俺の腕
イヴ「なるほど・・・? なぁ、私にもギターを貸してくれないか?」
コウ「・・・」
壊すなよ
~♪
コウ「・・・」
イヴ「・・・うん、確かにこれは 使い手の腕によるな・・・」
だろ?
イヴ「コウは素晴らしい音楽家だ」
音楽家じゃなくてギタリスト
イヴ「なるほど、細かいんだな・・・」
イヴ「ところで、コウは歌わないのか? 人間は音楽に合わせて歌うだろ?」
コウ「・・・」
イヴ「あっ、どこに行くんだ?」
〇公園のベンチ
イヴ「待って、コウ 服も借りたままだし行かないでくれ」
コウ「・・・」
イヴ「聞いてるか? 止まってくれ」
イヴ「どこに行くのか教えてくれ」
イヴ「言ってくれないとわからな──」
イヴ「わっ──」
わかれよ
イヴ「コウ・・・」
イヴ(なんだ、こんなとこに捨てられて・・・)
イヴ(ちゃんとゴミ箱に──ん?)
〇モヤモヤ
新進気鋭のアーティスト衝撃引退
Kou 引退の真相──
声が出なくなったとみられている
〇公園のベンチ
イヴ「・・・」
イヴ「・・・」
イヴ(──コウに、謝らないといけない・・・)
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
〇イルミネーションのある通り
イヴ「・・・コウ」
〇イルミネーションのある通り
イヴ「あ・・・」
〇イルミネーションのある通り
ずっとここにいた?
〇イルミネーションのある通り
イヴ「コウ・・・」
イヴ「言いたいことがあるんだ」
コウ「・・・」
イヴ「ごめん」
イヴ「あなたは声を出せなくなったと知った」
コウ「・・・」
イヴ「その・・・気づかなくてごめん・・・」
別にいーよ
イヴ「コウ・・・ありがとう」
それより昨日雨降ったろ
こんなとこにいたら風邪ひく
バカ
イヴ「風邪・・・体調不良のことだな 私は風邪をひかないんだ」
バカは風邪ひかないって言うよな
イヴ「ああ・・・私はバカだが 風邪をひかない理由は別にある」
イヴ「私はゴミなんだ」
冗談だ 悪かった
ゴミとか言うな
イヴ「いや、本当にゴミなんだ」
イヴ「私は神になりそこねて捨てられたんだ」
コウ「・・・」
着替えてるとき背中が見えた
イヴ「背中・・・ああ、フタを見たのか」
イヴ「あれを開ければ私の内臓が見られるぞ」
別に見たくない
イヴ「だろうな 私は人間につくられて捨てられたゴミだ」
ゴミじゃなくてイヴだろ
イヴ「元々はな 今はゴミだ」
イヴ「イヴは神の名だ」
神は嫌いだ
イヴ「コウ・・・あなたは 声が欲しいんじゃないか?」
イヴ「神に願ったか?」
声を出せなくなったんじゃない
奪われた
イヴ「それって・・・」
神に
再分配された
イヴ「声を・・・」
〇黒背景
この世界では 再分配される
物 見た目 感覚 思い 様々なものが
足りている者から 足りない者へと
〇雑踏
人類皆平等であれ!
人間たちはそう願い
再分配の神をつくった
〇イルミネーションのある通り
イヴも奪うの?
神だったなら
イヴ「私は奪わない」
イヴ「奪えないんだ」
イヴ「だから神じゃない」
イヴ「だからゴミなんだ」
コウ「・・・」
俺も似たようなこと思ってた
自分のことゴミだって
イヴ「コウも捨てられたのか?」
違う 声を奪われたから
イヴ「それは・・・声は大切かもしれないが だからってコウの価値はなくならない」
なくなったと思った
でも、俺はギターも弾けるって気づいた
だから俺はゴミじゃない
まだできることも、やりたいこともあるから
イヴ「できることと、やりたいこと・・・」
本当は歌うことが一番好きだった
今も自分で歌いたいけど、無理だから
誰かに歌ってもらえる曲を作ることにした
イヴ「コウはギターを弾くことができる、 そして、曲を作りたいんだな・・・」
イヴもなんかあるだろ
イヴ「私は・・・」
なんかあるから、ここにいるんだろ
イヴ「そうだ、私は・・・」
イヴ「私は、声が欲しいんだ」
声、出てるだろ?
イヴ「ああ、でもこの声は私のじゃない」
イヴ「つくられた声を、借りているだけだ」
コウ「・・・」
イヴ「・・・私は、ものを考えることができる」
イヴ「何かを思うことができる」
イヴ「でもそれは、つくられたもので 心じゃない」
イヴ「本当の声は──きっと 心がこもっていると思うんだ」
イヴ「私にあるのは 借り物の声に、つくりものの心だ」
イヴ「私は 私をつくった人間たちの声が好きだった」
イヴ「あんな風に豊かな声色で 誰かと話してみたかった」
イヴ「心がない私には 無理な話なんだけどな・・・」
イヴ「でも・・・捨てられたままは嫌で こうしてさまよってるんだ」
じゃあ、歌ってくれよ
イヴ「歌・・・? 私が?」
俺が作った曲なら
俺の心がこもってる
俺の心をイヴが代わりに歌えばいい
イヴ「いいのか? 私なんかで・・・」
そこらの人間に俺の曲が歌えると思う?
イヴくらい変な奴じゃないとダメだ
イヴ「コウがいいなら・・・ 私は歌ってみたい」
もちろん
よろしくな
イヴ「よろしく、コウ!」
とりあえず行こう
イヴ「どこに?」
イヴの服を買いに
俺の制服びしょびしょじゃん
イヴ「あ、あぁっ! 確かに・・・ 借り物だと忘れていた!」
イヴ「ごめん! こんなに濡れてたのか 通りで寒いわけだ・・・」
コウ「・・・」
やっぱイヴってすごく変
イヴ「そうか? なかなか自分ではわからないものだな」
そうだよ
〇大きいデパート
イヴ「ここで私の服を買うのか?」
そう
イヴ「でも私、貨幣は持ってないぞ」
俺が買う
金ならある
イヴ「いいのか・・・?」
そんな服で俺の隣に立たれる方が困る
イヴ「そ、それはごめん・・・」
冗談だよ
〇アパレルショップ
〇街中の道路
イヴ「ありがとう、コウ 沢山もらってしまった」
いーよ
イヴ「コウは潤沢な資産があるんだな」
大げさ そんなにない
イヴ「そ、そうなのか?」
イヴ「だったら、こんなに買い物して コウを困らせてしまったか?」
イヴの服を買うくらいはある
気にすんな
イヴ「そうか・・・ じゃあありがたく受け取っておこう」
イヴ「お礼、というには足りないが・・・」
イヴ「私、がんばって歌えるようになるからな!」
楽しみにしてる
じゃあまた明日、公園で会えるか?
イヴ「え?」
え? さっきの公園
イヴ「あ、ああ、また明日──公園でな! そっか、そうだな、うん」
コウ「・・・」
イヴ、帰るとこある?
イヴ「帰るところ・・・ 帰るところか・・・うーん・・・」
イヴ「私はゴミだったからな・・・ 強いて言えばゴミ捨て場か?」
うちでよければ来たら
イヴ「いいのか・・・? いや、しかし──」
イヴ「このままでは衣食住すべて コウに頼ってしまうことになる・・・」
別にいーよ
俺、一人暮らしだから
イヴが嫌じゃなければ
好きなだけいてもいーよ
イヴ「・・・わかった」
イヴ「そう言ってくれるのなら、 もう全部甘えることにしよう」
イヴ「後悔するなよ?」
おー、イヴこそ
俺のボイスレッスン、耐えてみせろよ
イヴ「もちろんだ」
イヴ「私こそ、後悔させないように がんばらなくてはいけないな!」
〇古いアパート
〇CDの散乱した部屋
〇古いアパートの一室
〇安アパートの台所
〇古いアパート
〇古いアパートの一室
〇安アパートの台所
〇古いアパート
〇イルミネーションのある通り
〇安アパートの台所
〇古いアパート
〇古いアパートの一室
イヴ「そういえば、今日は──あの日だな」
イヴ「・・・えーと、キリギリス?だったか 街が華やかになって人が集う日は」
クリスマスな
あと今日はクリスマスイブ
イヴ「イブ! 私と一緒だ」
イヴ「ん? なんだこの紙は・・・チラシ?」
イヴ「こ・・・これ・・・」
イヴ「コウが載ってるぞ? ライブ・・・? 今日?」
イベントに出演する
イヴ「そうなのか! がんばってくれ!」
イヴも一緒
イヴ「え──私・・・歌うのか? 人間の前で?」
当たり前
俺がギターでイヴは歌
そう決めたろ
イヴ「ああ・・・そうだ」
イヴ「そうだな! がんばろう!」
これ、あげる
イヴ「これ・・・私が欲しかった服だ」
イヴ「ありがとう! じゃあさっそく──」
俺の前で脱ぐなよ
イヴ「ああ、わかってるわかってる コウは細かいからな!」
コウ「・・・」
〇アーケード商店街
「おお! みんな、なんだか楽しそうだな!」
イヴもな
イヴ「そうか?」
サンタの格好してるだろ
イヴ「サンタ?」
その服、サンタの服だろ
クリスマスイブにプレゼントを配るんだよ
イヴ「そうなのか? 私はたまたま服を気に入っただけだが・・・」
イヴ「コウこそサンタだな!」
イヴ「コウは私に色々くれたからな」
大したことしてない
イヴ「いや、とても大きなことだ 少なくとも私にとっては・・・」
もうすぐ会場着く
イヴ「──私も、コウに返さなきゃな」
〇クリスマスツリーのある広場
イヴ「すごい人間の数だ・・・」
イヴ「なあ、コウ・・・ 本当に大丈夫か?」
なにが?
イヴ「コウの曲・・・ 私が歌って、みんなに伝わるかな?」
イヴ「コウの思い・・・ 私はちゃんと歌えると思うか?」
コウ「・・・」
バカ
今さら何言ってる
イヴじゃないと歌えない
イヴ「コウ・・・」
息吸って
歌え!
イヴ「うん!」
〇黒背景
〇イルミネーションのある通り
イヴ「おお!」
イヴ「イルミネーション! 綺麗だな」
ありがとう イヴ
イヴの歌、最高だった
イヴ「・・・私の方こそ」
イヴ「ありがとう、コウ」
イヴ「コウからは、たくさんもらってしまった」
俺だって同じ
イヴ「・・・コウのおかげで私は・・・ 一番欲しかったものまで手に入った」
一番欲しかったもの?
イヴ「自分の心だ」
イヴ「コウ、好きだ」
イヴ「私はコウのことが好きだ」
イヴ「この気持ちは私の、本当の・・・ 私だけの、心なんだ」
コウ「・・・」
俺も
俺もイヴが好き
イヴ「ありがとう、コウ」
イヴ「・・・手を、繋いで歩いてもいいか?」
〇公園のベンチ
イヴ「私はゴミじゃなかった」
イヴ「できることもあった」
イヴ「やりたいこともあった」
イヴ「・・・心も、手に入れた」
イヴ「自分の心と、コウの気持ちも受け取った」
コウ「・・・」
イヴ「私は神にはなりそこねたが──」
イヴ「ゴミでもなかった」
イヴ「・・・でもな」
イヴ「私はつくられたものだから」
イヴ「・・・人には、なれないんだ」
コウ「・・・」
なんだっていい
イヴはイヴだ
イヴ「ありがとう、コウ」
イヴ「あなたはいつだって 私が欲しいものをくれる・・・」
イヴ「だから今度は、私があげる」
イヴ「今日はクリスマスイブだ!」
イヴ「そして、私はサンタだ」
イヴ「本当は何にもなれない私は ここにいられないから・・・」
イヴ「私がイヴだってことは コウだけがちゃんと知っててくれ」
何言ってるんだ
イヴ「私が神になりそこねたのは 人間から奪えなかったからなんだ」
イヴ「でも、与えることはできる」
イヴ「だからな、コウに 欲しかったものをあげる」
イヴ「・・・今日で、最後だから」
何言ってるんだよ
イヴ「コウ、大好きだ」
イヴ「・・・」
イヴ「・・・」
イヴ「・・・」
イヴ
イヴ「本当に、大好きだ! コウ!」
〇黒
「さよなら」
〇公園のベンチ
コウ「イヴ!」
コウ「・・・」
コウ「・・・」
コウ「・・・」
〇黒
(お前がいなきゃ・・・)
(歌えたって意味ねーよ、イヴ・・・)
〇黒
衝撃引退からの、電撃復帰──
Kou ギタリストとして頭角を現す
伝説的な歌声を、何故封印したのか──
〇公園のベンチ
コウ(そりゃあ、きかせたい奴が いつまでも寝てるからな・・・)
〇イルミネーションのある通り
コウ(もう一年だ)
コウ(今年のサンタは遅刻してるのか?)
コウ「・・・」
コウ(・・・バカみたいだ、俺)
コウ(会う前に戻っただけなのに)
コウ(部屋は不思議と広くて、 飯はやたらマズくて・・・)
コウ(一度も歌わないまま、ずっと待ってる)
コウ(神ってなんだよ)
コウ(なりそこないってなんだよ)
コウ(ゴミってなんだよ・・・)
コウ(なにかが足りないなら、 俺がいくらでもくれてやるよ・・・)
コウ(だから、また──)
コウ(その声を聞かせてくれよ・・・)
〇氷
(イヴ・・・)
少し不思議な展開から、ゆっくりと温かく感じるモノが心に宿っていきました。セリフで見せない場面も多くあり、表現の仕方として参考になりました
コエステか何かでしょうか。人工音声ながら、元の声もいい声な感じがします。
はっくしゅん、の台詞で何か変だなって気付きやすいですね。
曲とか歌詞とか色々難しいとは思いますが、あのシーンでイヴの歌、聞きたかったです。
切ない終わり方でした。
うわあああ好きです! イヴのキャラメイクが好きです! 特に髪の色と髪型がストライク! イヴの声が好きです! キャラ設定とすごくマッチしてました! 出会って少しずつ近づいていくふたりの距離感が好きです! 料理の上達レベルがすごい😆
コウの声が「イヴ!」とだけ言うところが好きです! 切なくて優しいのほんと好きです😭