推しの願いを

nagi

第1話「お迎えしたのは推しでした」(脚本)

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〇コンサート会場
MC「多くの候補生の中、最終選考まで進めるのはこの二人です!」
Nao「ここまで残れたのが嘘みたいです。皆さんありがとう!」
ナツキ「ここまで来たなら後は勝ち取るのみです!引き続き応援お願いします!」

〇繁華な通り
アリサ「最終までNaoくんが進んでよかったぁ」
アミ「候補生から誰が決まるんだろうね」
こぐま「アリサ氏グッズめっちゃ買って貢献してましたもんね」
アミ「彼にばれないの?」
アリサ「借りてるコンテナがあるから平気よ」
アリサ「これも全部Naoくんを新メンバーに昇格させるためよ。帰ったらすぐに配信もチェックしなくちゃ」
  アイドルグループ「キノスラ」を追っかけてはや6年。仲間もできて順風満帆な推し活ライフを謳歌している。

〇ディベート会場(モニター無し)
Nao「皆さん!今日はライブに来ていただきありがとうございました」
Nao「今回の売り上げ次第で候補生の中から新メンバーが決まりますが、みなさんの応援に応えられる結果になるか僕自身も正直不安です」
Nao「今のところ、売り上げは好調らしいのでほっとしています。僕を買ってくれた皆さんに感謝してます」
Nao「メンバーの誰よりも努力してきた自信はあるから、良い報告がみなさんにできれば嬉しいな」

〇明るいリビング
アリサ「好調でよかったぁ~ 私がNaoくんを正式メンバーにさせてあげるからね」
ナツキ「ただいま」
アリサ「ナツ! 随分と早い帰りだね」
ナツキ「ライブで客席からアリサに手を振ってたんだよ?気づいた?」
アリサ「全体に愛嬌ふりまいてる様にしか見えなかったよ」
ナツキ「じゃあ今度はもっと近くに寄って振ってみるよ。絶対に分かるように!」
アリサ「私も次は前列にいるようにする」
  私には彼に言えない秘密がある。
  彼氏の所属している「キノスラ」に彼以外の推しができてしまった事を。
  ナツキと似てるけど、彼の纏っているオーラはスターそのもの。ナツキと同じく候補生として新規メンバーの座を争っている。
  今の私はナツキに黙ってNaoを応援している。

〇テーブル席
アミ「まだ彼にNaoのこと言ってないの?」
アリサ「それは・・・一応私も彼女だし」
アミ「黙ってたらナツキくんが可哀想よ。 まぁバレても同じだけど」
アミ「彼よりNaoの何処がいいの?」
アリサ「ナツも格好いいけど、Naoが完璧すぎるのよ。まったく隙のない王子様って感じがしてさ」
アリサ「あとはやっぱり顔がどタイプなのよ」
アミ「アリサ面食いだもんね。 私はナツキくんの方がお気に入りだけどなぁ」
アリサ「私はNaoにつぎ込んでばかりでナツキに貢献してないや」
アミ「今からでも買って貢献してあげたら? 彼氏のアイドルの道も応援してあげなよ」
アリサ「最初は応援してたけど、現実は甘くないものよ?」
アリサ「実際に彼氏となったら、ちゃんとした職についてもらいたいんだよね・・・ぶっちゃけ今の生活だと結婚もほど遠いし」
アミ「それもわかるけど、彼が新メンバーにあがったらまた生活が変わるかもしれないじゃない」
アミ「私なら全力サポートして夢のお手伝いをしてあげるけどなぁ~」
アリサ「私は正直ここでNaoに勝ってもらいたい。ナツには悪いけどこれをきっかけに人生考えて欲しいのよ」
アミ「本当にそれでいいの? 私だったら夢も結婚も掴むけどなぁ」
アリサ「そんなの幻想だって」
アミ「あ、そうだ。今度ナツキのグッズ貰ってくれない?アリサが喜ぶおまけもつけるから!」
アリサ「別にいいけど・・・なんでまた急に? あとから見返り求めないでよ?」
アミ「引越しで、荷造りが大変なの。 捨てるのももったいなくて、アリサが持ってたらナツキくんが喜ぶでしょ」
アリサ「引越しって、まさか彼と新居に?」
アミ「だったらよかったんだけど、実は色々とトラブルがあって彼と同棲解消するんだぁ」
アミ「今は仕事が大事だからって、私のこと見てくれないのよ。もうこれはお別れかなぁって・・・」
アリサ「そうなんだ・・・アミのところも大変だね。変なこと聞いてごめんね」
アミ「まぁ、後悔もしてないし身軽になってよかったと思ってるんだぁ。 それにもう新しい恋もしてるし・・・」
アリサ「そっか!前向いてるんだね! 私、アミの次の恋を応援するよ」
アミ「ありがとう じゃあ、私のグッズ今度配達で送るね」
アリサ「わかった、楽しみにしてる! アミのいらないもの私に全部送って!」

〇玄関内
  数日後──
配達員「お届け物でーす」
アリサ「はーい」
  両手で抱えられるほどの大きさのものが三箱。そして小型の冷蔵庫でも入っているかのような一際大きい箱が一箱。
アリサ(こんなに沢山いいのかな・・・)
配達員「ありがとうございました」
アリサ「ご苦労様です!」

〇明るいリビング
アリサ「アミったらこんなに沢山送ってくれたのはいいけど置場所どうしよっかなぁ」
アリサ「私が喜ぶおまけのものってなんだろ」
アリサ「わぁ・・・!!」
  段ボールにカッターの刃を差し込み、中を開くと等身大の推し、Naoのフィギュアが座るようにして収まっていた。
アリサ「髪ふわっふわ・・・」
  ブラウンの頭部にそっと触れると、細く柔らかな髪が指を包んだ。まるで本物みたいだ。
アリサ「大きいからなぁ~。どこに飾ろうかなぁ」
アリサ「やばっ、ナツ帰ってきた」
アリサ「どこか隠さなきゃ・・・」

  一時の避難場所として、押し入れの空いたスペースに荷物たちを引きずりながら押し込んだ。

〇明るいリビング
アリサ「おかえりー」
ナツキ「ただいま・・・ん?」
  帰宅するなり彼の様子がおかしい。あちこちを見回し自分の体もさりげなく嗅いでチェックすると、私の顔を見た。
ナツキ「なぁ、アリサ。 今日誰か家にあげた?」
アリサ「え、誰も来てないよ。どうして?」
ナツキ「いやぁ、それならいいんだけどさ。 今日も疲れたぁ・・・」
アリサ「お疲れさま。お風呂もうわいてるからね」
ナツキ「サンキュー、じゃあ入ってくるかな」
アリサ(なんだったんだろ。あの挙動・・・ もしかして、荷物のせいかな)
  箱の中身は全部アミの私物だ。きっとアミの部屋の、他人の部屋の独特の香りがついているのかもしれない。
アリサ「そうだ、消臭スプレーでもしとかないと・・・」
  その時、部屋のどこからか物音がかすかに聞こえた。
アリサ(えっ・・・まさか泥棒?)
  泥棒がどこか部屋に潜んでいる。そんな考えが過ると、すかさず消臭スプレーを握りしめて構えた。

  物音のした押し入れを静かに開ける。中を見回してもそれらしき人はいない。
アリサ「まさか・・・」

〇明るいリビング
  先程の大きな段ボールを再び部屋まで引っ張り出すと、恐る恐る箱の蓋を開けてみた。
アリサ「・・・っ!!」
  座っているフィギュアの頭部が先程とは違い、上を見上げた体制に変わっていた。
  その両目は、はっきりと私を見据えて捉えている。そこでようやく箱の中身がフィギュアではない事実を認識した。
  思わず叫びそうになった口元を咄嗟に塞ぎのみこむ。今ここで叫び声をあげたら、彼が驚いて部屋に戻ってきてしまう。
  フィギュアだったらどれだけ良かったことか。この状況がバレたら怒られて喧嘩どころではない。

〇テーブル席
アリサ「わかった!楽しみにしてる! アミのいらないもの私に全部送って!」

〇明るいリビング
アリサ(あの時、あんなこといったから・・・?)
Nao「此処は?」
アリサ「私の家よ。 あなた本物のNaoくんよね?それに・・・」
  さっきは気づかなかった。彼の両腕にはチェーンが何重にも巻かれていて自力では脱出できないようにされていた。
アリサ(ひどい。こんなの狭いところに閉じ込めて・・・窒息死もあり得えたわ)
Nao「危うく死ぬところだった・・・助かった」
Nao「君はたしか・・・アリサちゃん?」
アリサ「私の名前・・・!」
Nao「握手会にきてくれたこと、忘れてないよ。だってアリサちゃんの言葉は印象的だったから」

〇ディベート会場(モニター無し)
アリサ「私、Naoくんの願いならなんでも協力します!それぐらい大好きです!!」

〇明るいリビング
アリサ「覚えていてくれてたんだ。嬉しい・・・」
Nao「君にしか頼めないことをお願いしてもいいかい?」
Nao「このままだと、オーディションから落ちる。助けてほしいんだ」
アリサ「落ちるってどうして!?」
Nao「アミって子にはめられた。だから助けてほしい」
  憧れていた本物の推しが私にだけ目線を注いでいる。
  推しの幸せはファンの幸せだ。
  誰にもNaoくんの邪魔なんかさせない。
  私だけが推しの力になれる・・・たまらない優越感だ。
アリサ「何があったのか分からないけど、私にできることがあればなんでも手伝いたい」
アリサ「だって推しの願いはファンの願いなんだから!」

コメント

  • 送られてきたNaoがとりあえず死体じゃなくてよかった。アミの「アリサが喜ぶおまけもつける」と、アリサ の「アミのいらないもの全部送って」というセリフが怖すぎた。アミの新しい恋人ってまさか…。あらゆることを超越して「推し」を推すことが最優先で生きているアリサ の盲目ぶりが一番ホラーですね。

  • こんにちは!
    まさか本当の人間がはいっていたなんて驚きです!
    友達のいらないものって…それにトラブルとは一体😱もはや配達員すら怪しく見えてきました!何気ない日常から一気にドラマチックに!
    続きが楽しみです!

  • 私は2年前からSnowManに沼りまして、人生初ジャニヲタ、推し活を満喫しております。
    アミ、本物の人間を送るなんて、恐ろしい子!
    家にラウールが来たら…会話できるかなあ。
    まず、泣きますね(笑)
    驚きの展開ですね。

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