エピソード5 あやめは、止まらず(脚本)
〇総合病院
これより、アイリス・ジェネラルホスピルの森村CEOより、エマニエル・ジャクソンくんのオペについてのご報告がございます
なお、今回エマニエルくんの名前や顔を出すことは事前に本人やそのご家族の御了解を得ていますので、よろしくお願いいたします
森村冴子「私、森村から今回当病院が、エマニエル君の治療に関わることになった経緯から説明させていただきます」
森村冴子「彼は、普段フィリピンの山奥に住んでいます。4歳の定期健診で脳に腫瘍が見つかりました」
森村冴子「その腫瘍は、とても深いところにあり取り除くことは難しいとの診断でした」
森村冴子「日常生活に支障があるのはもちろん、放っておくと破裂するのは時間の問題でした。余命1年」
森村冴子「彼の両親から、治療を懇願された現地の医師から当病院にメールが入ったのです」
森村冴子「すぐにカルテを送ってもらい、院長のマイケル、そして世界中のドクターと医療チームを結成。今回の治療を開始しました」
手術の結果はどうだったんですか?
すべて取り除くのは、難しいと判断している専門家が多かったですが
エマニエルくん!!!!
マイケル・ベックマン「大成功だよ!!」
森村冴子「執刀は、マイケルが行い彼の脳の奥深くに食い込んでいた腫瘍はすべて取り除きました」
エマニエルくん、もうしゃべったりできるの?
エマニエル・ジャクソン「ボク、ハナスコトデキマス。ゴハン、タベレマス」
オオ~!!!!!!
マイケル・ベックマン「日本語もバッチりだね!」
森村冴子「腫瘍に圧迫されていた部分は、もう少し回復には時間がかかりますが全快は近いと見ています」
術後1週間で、この回復力は驚異的だと思うのですが・・・
マイケル・ベックマン「それは、腫瘍を取り出すときの穴を小さくしたので負担が少なかったからだよ。本来開けるべき大きさの3分の1くらいだよ」
森村冴子「当然リスクも伴いますので、オペ中は医療チームと回線を繋げていて随時彼をサポートできる体制を敷いていました」
森村冴子「これからは、1人のドクターに負担をかけないチーム体制で治療を実施することがメジャーになっていくのではないでしょうか」
エマニエルくん。なにか一言!
エマニエル・ジャクソン「ボク、トッテモウレシイデス。ショウライ、ドクター二ナリタイデス」
マイケル・ベックマン「Oh~じゃあドクターになってこのホスピタルで一緒に働こう!!」
〇事務所
一か月後・・・
リリリ―ン!リリリ―ン!
事務長「もしもし、アイリス・ジェネラルホスピタルですが。 はい。かしこまりました。スケジュール確認してすぐに折り返します」
ガチャッ
事務長「お嬢様!!」
森村冴子「感触はどう?」
事務長「全国から、いや世界中から連絡が殺到して、てんてこ舞いです!」
森村冴子「そう、よかったわ。病棟も事務所も人手が足りないみたいだから求人だしておいてね」
事務長「はい、かしこまりました」
森村冴子「エントランスにいるから、なにかったら連絡頂戴」
事務長「はい」
事務長「あ、あのお嬢様・・・」
森村冴子「ん?まだ、なにか?」
事務長「いえ、なんでもありません」
〇華やかな広場
森村冴子「病院のエントランスにしては、派手だったかしら?フフフ」
森村冴子「でも、ママ。ここには、世界中からお礼の手紙と一緒に送られてきたあやめの花がいっぱいよ」
〇和室
冴子 少女期「ママ、ママの好きなお花をプレゼント」
冴子 母「ママの大好きなあやめね! ありがとう」
冴子 少女期「ママはどうして、この花が好きなの?」
冴子 母「そうね~。まず花がとってもキレイでしょ。それに、花にはそれぞれ花言葉があるのよ」
冴子 少女期「花言葉?」
冴子 母「そうよ。花がそれぞれ持っているメッセージってとこかしら」
冴子 少女期「ふ~ん」
冴子 母「あやめの花言葉は、「希望」よ。他にも「良い便り」もあるわ」
冴子 母「ママはね、「希望」って言葉が大好きなの。それに、患者さんに「希望」を持って病院に来てもらいたいのよ」
冴子 少女期「あ!だから、うちの病院あやめ病院っていうの?」
冴子 母「ピンポーン!あたり!サエちゃん、鋭い!」
冴子 母「日本だけでなく、世界中から「希望」を持ってきてくれる病院にするのがママの夢なの」
冴子 少女期「じゃあ、世界中のあやめを植えないとね!」
冴子 母「そうしたら、ママ1人じゃ大変だからサエちゃんも手伝ってね!」
〇華やかな広場
森村冴子「ママ、この病院には、これからも希望をもった人達がどんどんくるわ」
森村冴子「そして、世界中のあやめの花でこのエントランスを埋め尽くすの」
森村冴子「もうすぐよ、もうすぐで、ママの夢が・・・」
ピロロロー
森村冴子「はい。分かった。すぐ行くわ」
グサッ
森村冴子「ん?」
森村冴子「え!?」
森村冴子「なにこれ?」
森村セツ子「お久しぶりね」
森村冴子「お、お前は!!」
森村セツ子「お前?母親に向かってなんて口の聞きかたを」
森村冴子「ふざけるな!キサマ!!」
森村冴子「なんのつもりだ!!」
森村セツ子「なんのつもり?決まってるでしょ。愛する人のカタキを討ちにきたのよ」
森村冴子「なに!?」
森村セツ子「これでも看護師だから、森村重三の死が不自然なことくらい気づいていたわ」
森村セツ子「確かに重三さんは、この先限りある命だったかもしれない」
森村セツ子「でも、その限りある時間で最高の思い出を作ろうと思っていたのよ。それをアナタは奪ったの」
森村冴子「あれは、、、」
森村セツ子「アナタが、事務長に命令してやったんでしょ」
森村冴子「いつ気づいた?」
森村セツ子「最初からよ。あの時間で、人工呼吸器の電源を切れるのは、事務長しかいない」
森村セツ子「そして、あの事務長は電源を切れるような人ではない」
森村セツ子「あの事務長に指示できる人間は、アナタだけでしょ」
森村冴子「自分のことを棚にあげて、いい気なもんだな」
森村セツ子「私と森村重三は、愛し合っていた!! 誰よりも深いところで、繋がっていたわ」
森村冴子「自分の愛のためなら、他の人はどうなってもいいというのか」
森村セツ子「そのセリフ、そのままお返しするわ」
森村セツ子「アナタの母親とアナタは、森村重三に捨てられたのよ」
森村冴子「へ、減らず口を・・・」
森村セツ子「もうそろそろってとこかしら」
森村冴子「ク、クソ・・・」
森村冴子「ママ・・・」
〇和室
冴子 少女期「ママ、見て見て!テストで100点とったよ!」
冴子 母「サエちゃん、すごーい!頭いいね!」
冴子 少女期「ママ、かけっこで1番になったよ!」
冴子 母「サエちゃんは、運動もできる子なんだね!」
冴子 少女期「サエの書いた絵が、表彰されたよ!」
冴子 母「なんて素敵な絵なんでしょう」
冴子 少女期「ママの好きなあやめも書いたよ」
冴子 母「サエちゃんは、ママの自慢だ~」
〇華やかな広場
森村セツ子「心配しないで、あなたはお母さんと一緒にこの病院の下に埋めてあげるわ」
森村セツ子「お母さんと一緒にこの病院を支えてね」
森村セツ子「ん?」
事務長「お嬢様!!お嬢様!!」
事務長「こんな、こんなことって・・・」
森村セツ子「こうするしかなかったのよ」
事務長「もっと、他の解決方法があったはずです!」
森村セツ子「すんでしまったことは、嘆いていてもしょうがないでしょ。私も現場に戻ります」
森村セツ子「事務長、この女の後始末と、私の現場復帰の準備をすぐに」
事務長(お嬢様・・・)
森村セツ子「彼らの夢とやらは、私が継ぐわ」
事務長(お嬢様、私はお嬢様に仕えたことを誇りに思います)
森村セツ子「事務長、あやめの花は、「黄色」が一番キレイね。私も「黄色」が一番好き」
END