実録・怖い話『見知らぬ少女』

はやまさくら

読切(脚本)

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〇ホールの舞台袖
  小学生の頃、ほんの一時期ですが
  市内の「子ども劇場」に
  参加していたことがあります。
  「子ども劇場」は舞台芸術の鑑賞により、
  豊かな感性を身につけ、
  心を成長させていく・・・という趣旨の
  団体です。
  名前だけ聞くと、演劇集団だと
  誤解しそうですが、違います。
  あくまで『演劇を鑑賞する』ための
  団体です。
  現在も「子ども劇場」は存続しており、
  日本全国に支部があります。
  現在はNPO法人として
  活躍しているようです。
  さて、今回のお話は公演後、
  舞台裏で片付けを行なっていた際に
  遭遇した不思議な出来事です。
  私が所属していた「子ども劇場」は
  各小学校区ごとに班分けされており、
  輪番で片付け、清掃を
  行なうことになっていました。
  その日は私たちの小学校が当番でした。
  大人も子供も舞台に上がり、
  公演後の舞台清掃を行ないます。
  私はというと・・・
  正直言うと、
  舞台の上でサボっていました。
  何故なら、掃除よりも気になる存在が
  あったからです。
私(わっ、すごく可愛い子・・・)
私(見かけない顔だし、 子ども劇場の新人さんかな?・)
私(でも、今、舞台上にいるということは、 同じ小学校のはず・・)
私(学校で見かけた覚えはないなぁ)
私(これほどの美少女なら、 たとえ学年が違っていても、 話題になると思うんだけどなぁ)
  少女は照明や舞台装置などを
  興味深く観察しています。
  彼女は一人、
  舞台上を気ままに歩き回っていました。
  そのことを咎める者は誰もいません。
  私は舞台の端から、
  ずっとチラチラと彼女の様子を
  うかがっていました。
  舞台を一通り観察した彼女は、
  今度は舞台袖へと移動し、
  緞帳などの操作盤を眺めています。
私(好奇心旺盛な子だなぁ)
  そのまま彼女は歩きだし、
  今度は舞台袖にある
  小さな部屋の前に立ちました。
私(あ、あれ・・・? あの子、どこ行った?)
  ほんの数秒、目を離した隙に
  彼女は姿を消してしまいました。
  立ち去る足跡などは聞こえなかったので、
  おそらく小部屋に入ったのでしょう。
私(どうしよう・・・)
私(後を追ったら、 ストーキングしていたことが あの子にバレちゃうよ)
  悪事(?)がバレるのは
  恥ずかしかったので、
  私は彼女が
  部屋から出てくるのを待ちました。
私(・・・・・・)
  困ったことに、いくら待てども
  彼女は部屋から出てきません。
私(私も入ってみようかな。 何があるんだろう?)
  意を決した私は小部屋の前に移動し、
  そのドアノブに手を伸ばしました。
  ドアノブはガチャガチャと
  音を立てるだけで、動きません。
  どうやら施錠されているようです。
私(えっ、うそ・・・)
私(はっきり見たわけじゃないけど、 あの子はこの中に消えたとしか 考えられないのに)
  私は意地になり、
  再度ドアノブを回そうと試みました。
私(開かない・・・ 何で???)
男性「こらっ、そこの君! 一体何をしているんだ?」
私「じ、実はさっき、この部屋に入っていく 女の子を見かけたから、 私も入ってみたいなぁと思って・・・」
男性「いやいや、この部屋はピアノ庫だよ。 使わない時は常に施錠されているんだ。 だから、中に入れるはずはないよ」
私「ということは、私の見間違い?」
男性「そうだろうね」
私「・・・・・・」

〇オフィスの廊下
私(ここにもいない・・・)
  もしかしたら、
  彼女は劇団員の身内だったのかも?
  そう思い立った私は、
  今度は出演者たちの
  楽屋にやってきました。
  この日の公演は
  海外の有名劇団による公演だったため、
  出演者たちは日本人ではありません。
  少女は一応日本人に思えましたが、
  ハーフやクォーターだと言われれば、
  それも納得できる容姿です。
  謎は全て解けた!
  と意気揚々と向かったのですが・・・
  劇団員たちは既に撤収しており、
  辺りは静まりかえっておりました。
私(劇団関係者でもない、 小学校でも見かけたことがない。 私は一体何を見ていたんだろう・・・?)
  結局、少女の正体は
  今も分からずじまいです・・・

〇SNSの画面
  ここからは完全に余談です。
  同様の体験記がインターネット上に
  書き込みされていないか調査しました。
  ・・・結果、
  何もありませんでした(笑)
  どうやら私一人だけが出会った
  不思議体験のようです。
  現在、ピアノ庫に保管されているのは、
  超高級ピアノの
  スタインウェイです。
  お値段、なんと1800万円!!!
  ただ、スタインウェイの購入は
  最近の話なので、
  今回の不思議体験とは関係ありません。
  当時ピアノ庫に保管されていたのは、
  やや小型のピアノでした。
  もし、少女の存在が
  以前のピアノと
  結びついていたのだとすれば・・・
  他の施設で大切に扱われていることを
  祈るばかりです。

コメント

  • 怖いというより、むしろ切ないノスタルジーを感じさせるような不思議な体験談ですね。作者さんが女の子に追いついて話しかけていたらどうなっていただろう、などと想像が膨らみます。

  • 筆者様の子供時代の錯覚や思い込みで片づけるには、記憶が詳細で鮮明すぎますよね。類似体験をされた方がいないという点に一層のリアルさを感じます

  • ふわーっと読者をある時空間にいざなってくれるようなお話でした。手がかりが少ないだけに、想像の範囲もふくらみます。きっとピアノにまつわる現象なのでしょうね。

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