エピローグ(脚本)
〇病院の入口
運命とは結果でしかない
予め決まっていようとも
何者かに捻じ曲げられようとも
それは些細なことでしかない
今、目の前の現実だけが全てであり
それこそが運命なのだ
〇田舎の病院の病室
田辺「どうも、こんばんは」
快斗「・・・」
田辺「永山快斗君・・・じゃなくて、明人さん」
快斗「・・・」
田辺「初めから記憶喪失に何てなってないんでしょ?」
田辺「アナタは優秀な心理学者だ」
田辺「担当医を誤魔化すくらい訳ないはず」
快斗「・・・」
快斗「・・・それを知って、どうするつもりですか?」
快斗「俺を逮捕しますか?」
田辺「無理でしょうねぇ~現行の法律では」
田辺「八千流君は研究結果が公になればって言ってたけど、そもそも反魂の立証自体無理筋でしょ」
田辺「人道的な問題も有るし、公式の検証はハードルが高い」
田辺「アナタが二度目の人生を終わらせる前に立証する事は、まず不可能でしょうね」
快斗「なら、何しに来たんですか?」
田辺「約束しましたからね、八千流君と」
田辺「アナタを二度と彼女達に関わらせないって」
快斗「ふふふ・・・」
快斗「一介の刑事如きが、俺を止められると思いますか?」
田辺「確かに、俺はうだつの上がらない警部補ですよ」
田辺「ただ俺なりにコミュニティって物がありましてね」
田辺「国の中枢部にも居るんですよ」
田辺「アナタ達と同じように、真剣にオカルトを研究している者達が・・・」
田辺「人目のつかない地下にね」
快斗「・・・」
田辺「アナタ達の事を話したら、それはもう興味津々でしてね」
田辺「是非ともウチの研究所にお招きしたい・・・と」
快斗「俺達を、売ろうって事か・・・」
田辺「再就職の斡旋をしようってだけですよ」
快斗「人一人を消すような真似、一刑事のお前に出来ると・・・」
田辺「堀田コーポレーションの岡島が関わっていた横領なんですけどね」
田辺「どうも相手は遠野工業だけじゃなかったんです」
田辺「しかもそれらの金が、地元の県議から、国会議員のとある派閥に流れていたようで」
田辺「最終的に、少額ながら検察庁のお偉いさんにまで飛び火しそうなんですよ」
田辺「だから多少の無理筋は通してくれそうなんですよね、人一人・・・いえ、犯罪者三人の存在を消す位の事は」
快斗「・・・キサマ」
田辺「まあまあ良いじゃないですか、アナタ達が大好きな研究が出来るんですから」
田辺「一生ね・・・」
快斗「俺は瑠衣さんと一緒になる為に生まれ変わったんだ!反魂の術は手段に過ぎない!研究なんて二の次だ!」
田辺「はいはい、素晴らしい愛ですね」
田辺「その愛情を持って償いをして下さい」
快斗「何だ!お前ら!」
田辺「因みに、アナタ達が結果を出せば、八千流君は見逃して貰えるそうなんです」
田辺「愛する人の幸せの為、せいぜい身を粉にして研究を続けて下さい」
快斗「は、はなせぇ!!」
田辺「・・・」
田辺「愛・・・ねぇ」
田辺「結局、誰の愛が成就したんだろうね」
〇シックなリビング
火事騒ぎからしばらくして、私は永山快斗が記憶喪失のまま遠い親戚に引き取られたと聞いた
治療に専念するため、私達からの連絡も控えてくれ・・・とも言われた
刑事さんの仕業であろう事は想像できたが、私は何も聞かなかったし、言わなかった
ただただ、友人との突然の別れに涙する美琴を慰めていた・・・
そして時の流れが、日常を呼び戻していく・・・
〇教室
美琴「八千流ちゃ〜ん!」
美琴「今日のテスト、八千流ちゃんに教えてもらったところばっかりだったね!」
八千流「そうだね、狙い通りだった」
美琴「八千流ちゃんのおかげで、今回は私も100点とれるかも!」
八千流「それは何より」
八千流「でも油断は禁物だよ」
八千流「大事なのは復習して、学んだことを自分の力にする事だからね」
美琴「は〜い」
美琴「って、アレ?八千流ちゃんそれ・・・」
八千流「うん、水着だよ」
八千流「次は体育でしょ?」
美琴「でも八千流ちゃん・・・」
八千流「私も頑張ってみようかなって」
八千流「美琴みたいにね」
美琴「八千流ちゃん・・・」
美琴「じゃあ今度は私が教えてあげる!」
美琴「私、水泳はとくいだから!」
美琴「クロールでも平泳ぎでも、何でもまかせて!」
八千流「ありがとう、美琴」
八千流「でも、最初は顔を水につける所から始めて欲しいかなぁ・・・」
美琴「だいじょうぶ!イチから教えるから!!」
美琴「さ、行こう!八千流ちゃん!」
八千流「うん」
日常を積み重ねることで、月日が巡る・・・
〇刑務所の面会室
田辺「どうも、裁判お疲れ様でした」
京華「・・・」
田辺「控訴しないそうですね」
京華「争う理由がないので」
田辺「あ、そうですか・・・」
京華「・・・」
京華「・・・それだけ?」
田辺「・・・」
田辺「・・・八千流君がアナタに会いたがってましたよ」
京華「・・・」
京華「ふっ」
京華「今更、私はどんな顔してアノ子に・・・いえ、彼女に会えばいいの?」
田辺「戸籍上は親子なんでしょ?」
田辺「それに八千流君に聞いた限り、アナタも操られていた可能性がある」
京華「・・・」
田辺「弁明くらいしても・・・」
京華「・・・刑事さん」
田辺「はい?」
京華「アナタ独身でしょ?」
田辺「はあ・・・まぁ・・・」
京華「でしょうね」
田辺「えっと・・・それは・・・」
京華「彼女に、伝言をお願いして良いかしら?」
田辺「はぁ、構いませんが・・・」
京華「私は私、何も後悔してないって」
田辺「・・・」
田辺「ソレだけですか?」
京華「彼女ならソレで充分よ」
京華「それじゃ、よろしく」
田辺「・・・」
田辺「はぁ・・・」
田辺「女心なんて、六法全書にゃ乗ってないんだよなぁ・・・」
そんな月日の巡りが傷を癒やす
〇校長室
・・・「それでは、次期は20%でのお取引と言うことで」
道哉「そうですね・・・」
八千流「ちょっと待って下さい!」
八千流「昨期までの支出額を考えると、20%は高すぎます」
・・・「な・・・子供がいきなり何を言い出すんだ!」
・・・「私は遠野社長と商談しているんだ!子供は黙っていなさい!」
八千流「しかし・・・」
・・・「遠野社長!このような場に、無関係な子供を入れるとは非常識では無いですかな!」
道哉「・・・」
道哉「いえ、彼女は我社の顧問です。無関係ではありません」
・・・「は?」
道哉「それに数字の件も彼女の指摘通り、高くても12%が妥当でしょう」
・・・「・・・遠野社長」
・・・「アナタは、こんな子供の戯言を真に受けるのですか!」
・・・「側近に謀られたアナタを見捨てず、契約を交わそうとする私よりも!」
八千流「ちょっと!!」
道哉「八千流君」
八千流「はっ・・・」
道哉「・・・」
道哉「自分の目が節穴だった事は認めます」
八千流「・・・」
道哉「だからこそ、もう二度と会社を・・・社員を苦しめるような事態を招くわけに行かないんです」
八千流「道哉・・・」
道哉「お引取りください」
・・・「えっ!!」
道哉「今回はご縁がなかったようなので」
・・・「ちょっ、ちょっと待ってください!」
・・・「う、ウチと契約できなければ御社は・・・」
道哉「問題ありません」
道哉「ありがたい事に、他にも契約を考えていると仰って頂けた企業様もいらっしゃいますので」
・・・「そ、そんな・・・」
道哉「ご心配痛み入ります」
・・・「そ、そ、そ、それでは・・・」
八千流「では、お帰りはアチラから・・・」
・・・「ま、ま、待って下さい!」
・・・「ご、後日改めて伺いますので!今一度!今一度のチャンスを!」
道哉「・・・」
道哉「わかりました、それまでは一先ず保留とさせて頂きます」
・・・「あ、ありがとうございます!」
・・・「そ、それでは失礼します!」
八千流「・・・ごめんなさい、よけいなお世話でしたね」
道哉「そんなこと無いよ、強気に出られる良いきっかけになった」
道哉「それもこれも、八千流ちゃんと残ってくれた従業員達のおかげだよ」
八千流「・・・」
じぃ~
道哉「な、ナニ!?」
八千流「いえ、何でもないです」
道哉「そ、そう」
八千流「さ、次のお仕事しましょうか」
道哉「そ、そうだね」
八千流「たくましく・・・なったなぁ・・・」
そうして癒えた傷痕が、人の心を強くするのだ
〇墓石
八千流「・・・」
八千流「・・・」
晴香「・・・さて、帰りましょうか」
八千流「うん」
八千流「・・・あ」
・・・「よいしょっと」
八千流「大丈夫ですか?」
・・・「あら、ありがとう」
晴香「お一人ですか?」
・・・「はい、どうしても主人と予定が合わなくて・・・」
八千流「お掃除、お手伝いします」
・・・「ありがとう、でも大丈夫」
八千流「でも、そのお腹じゃ・・・」
・・・「今日はお線香を上げに来ただけだから」
八千流「そうですか・・・」
八千流「それじゃ・・・」
・・・瑠衣
八千流「!!」
・・・八千流
八千流「・・・」
晴香「どうしたの?八千流」
八千流「ん?」
八千流「ううん、何でもない」
八千流「それじゃ、失礼します」
・・・「はい、お気遣いありがとうございました」
八千流「・・・」
八千流「さよなら、優・・・」
八千流「さよなら・・・お父さん・・・」
・・・またね
〇墓石
こうして私の不思議な体験は幕を閉じた
今でも夢の中の出来事だったように思える
だが全てが真実である事を、私は知っている
私が明石瑠衣の記憶を持っている限り、ソコに抗うすべは無いのだ
自らの死も
愛する者の苦悩も
死という概念すら越える愛憎も・・・
何が正しかったのか、何をすべきだったのかは、今でもわからない
それでも私は忘れない
彼を愛した事を・・・
彼に、愛された事を・・・
〇豪華なリビングダイニング
忘れない・・・
そう、永遠に・・・
〇黒背景
〜 END 〜
完結お疲れ様でした。自分はミステリーはたまにしか読まないのでミステリー読む方のミステリーはこんな感じかと新鮮に読むことが出来ました。隠したり騙したり閉じ込めたりが盛りだくさんでした。
ファンタジー色が強くなってきた後半は、これは収集つくのかと不安になりましたが、収まって良かったです。でも悪い人たちが生きてはいるというところが不安ではありました。
楽しく読ませて頂きました。ありがとうございます。
一話読了から時間が空いてしまいましたが、一気に読ませていただきました!真相が明らかになってからの怒涛の展開は目を離せなかったし、最後は収まるところにみな治まって優しい終わり方で。ラストの妊婦さんとの出会いも今後を予想させて、優しい未来が見えました。
ドロドロしてるのに爽やかな感動のラストで、とても面白かったです!
これが予選を通れる実力!