第20話 大切な居場所(脚本)
〇謎の植物の生えた庭
ついにやって来た査察当日。俺たちは中庭に集まり、ミアの上司の到着を待っていた。
ミア「──来たわ」
中庭の奥。異世界と繋がる扉があるほうから足音が聞こえてくる。
査察官「やあやあどうも。お出迎えありがとう」
現れたのは、意外にも陽気そうな普通のおじさんだった。
査察官「それじゃあ早速中を案内してもらおうか」
シロ「はい! 案内役は私にお任せください!!」
〇古いアパートの居間
査察官「掃除は行き届いていて、建物の管理もしっかりされている。 みんなこのアパートを大切にしてるんだね」
テツヤ「なんかあの人、アパートを潰してやるぞって感じがないな」
アン=マリー「そうやってこちらを油断させる作戦かもしれません」
なんてこそこそ話していると、テーブルにたくさんの料理が運ばれてくる。
リリム「ささやかですけれど、お食事を用意させていただきました。 どうぞお召し上がりください」
査察官「おお! 私の好物ばかりじゃないか!」
査察官は上機嫌そうな笑顔を浮かべながら、次々と料理を食べていく。
ミア「食事をしながらで構いませんので、こちらの資料をご覧ください」
査察官「これは?」
ソルーナ「この世界に関する調査報告書だ」
ミア「現在このアパートを閉鎖する方向性で話が進んでいますが、一度立ち止まって考え直して欲しいのです」
資料の中にはこの世界で新しく発見された技術や、未知の資源などについて細かい情報が書かれていた。
ミアはそれを1つ1つ丁寧に説明していく。
ミア「──このように、こちらの世界にはまだたくさんの可能性が眠っています」
ミア「我々の世界にとって有用性のあるものが見つかる日もそう遠くはないでしょう」
査察官「だから、このアパートは存続させた方がいいと?」
ミア「はい・・・! このアパートは守る価値のある場所ですから!」
ミアはいつになく熱心に語った。俺たちも同じ気持ちだと頷いて賛意を示すが──
査察官「ダメだね。個人的感情が含まれすぎていて、冷静な分析ができていない」
ミア「・・・!」
査察官「この資料自体はよくできてる。例えばこの未知のクリーンエネルギーの欄」
査察官「これは我々の世界にも有用なものだろうけれど、どうやって入手する? どうやって我々の世界に持ち込む?」
ミア「それは・・・」
査察官「可能性があるだけじゃダメなんだ。具体案がないと」
査察官「みんなもわかってると思うけれど、こちらの世界で学ぶべきことは何1つない」
査察官「それなのにどうして、ここに執着するんだい?」
シロ「私たちはここで大切なものを得たからです!」
シロ「それが、ここに居るアパートの仲間たちです」
リリム「元の世界にいる時はシロやソルーナなんて生きてる場所が違いすぎて関わることなんて絶対になかったのに、不思議な話よね」
ソルーナ「ああ。このアパートに住んだからこそ、我々はそれぞれ関わりを持ち、種族も肩書きも越えた絆を手に入れたのだ」
アン=マリー「その裏には、いつもテツヤ様の力がありました」
アン=マリー「我々が抱える様々な事情を理解しながら、悩みや問題を解決してくれたんです」
シロ「その通りです! 私たちはテツヤ殿の優しい心から」
シロ「たとえ異世界の住人同士であっても協力し合えるという学びと希望を得たんです!」
テツヤ「シロさんたちとはちょっと違う形ですけど、俺もこのアパートに本当に助けられました」
査察官「ほう、人間である君がかね?」
テツヤ「俺、ここへ来てようやく自分の手で守りたいって思える居場所を手に入れられたんです」
テツヤ(最初はただ生活のために管理人の仕事を引き受けた。でも、今は違う──)
テツヤ「このアパートのことだけは諦めきれないんです。 どんなことをしてでも守りたいと思います」
テツヤ(意気地のない俺にここまで思わせるんだから、ここは本当に凄い場所だ)
査察官「そうだな。65点と言ったところかな?」
ミア「えっと、それは・・・?」
査察官「今の演説の点数だよ。情熱はあるけど、論理性が足りてない」
査察官「けど――このアパートが前と違って活気に溢れた場所になってるということは伝わってきたよ」
そういうと、査察官はミアの作った資料を指先で優しく撫でた。
査察官「特に、今のアパートには優秀な人材が揃ってるしね」
査察官「個人的にはこの世界でもう少し過ごして、精神的な成長を重ねてから我々の世界に戻ってきてくれることを期待しているよ」
ミア「ということは──!」
査察官「うん。できる限りこのアパートを存続させる方向で「委員会」と調整を行おうと思っている」
シロ「ほ、本当ですか!?」
査察官「もちろん残すと言っても数年後、早ければ1年くらいで閉鎖するということになるかもしれないよ?」
テツヤ「でもとりあえずは現状維持ってことですよね!?」
査察官「そうだね。ここからは個人的な発言になるけど──」
査察官「ここは娘にとってもいい居場所になってるみたいだし、あまり簡単にはなくしたくないなぁ」
リリム「む、娘・・・?」
査察官「人と交流を持とうとしなかったミアが、友人たちと団結して必死にアパートを守ろうとするなんて・・・」
査察官「娘に素晴らしい変化をもたらしてくれたアパートを潰すのは忍びなさ過ぎる」
テツヤ「こ、この人ミアのお父さんだったのか!?」
ミア「黙っていてごめんなさい。このことは全部終わるまで知らせない方がいいと思って」
査察官「もちろんミアが娘だから特別扱いしてアパートを存続させようと思ったわけじゃないよ?」
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