第10話 挑戦と誤解(脚本)
〇女の子の部屋
テツヤ「ところでさ、元の世界にいたとき男にチャームをかける練習ってしたのか?」
リリム「全然。誰かにそんなこと頼むの、あたしのプライドが許さなかったし」
リリム「そもそも、練習したって絶対無理だと思ったの」
テツヤ「それ、結構問題かもな」
リリム「何が?」
テツヤ「心の底に諦めがあるって言うか「自分にはできない」って思うことで」
テツヤ「無意識のうちに自分の力に制限をかけてるって可能性はないか?」
リリム「それは・・・」
テツヤ「俺が昔飼ってた犬なんだけどさ。子犬の頃、近所の猫に引っかかれて以来、どれだけ成長しても猫が怖いままでさ」
テツヤ「散歩の時、猫を見かけるたびに俺の後ろに逃げてたんだ。 ちょっと吠えれば追い払えるのに」
リリム「あたしを犬と一緒にしないでもらえる? シロじゃないんだから」
テツヤ「でも、諦めとか不安とかを捨てて自信を持てば、変わることもあるんじゃないか?」
リリム「そんな簡単に上手くいくとは思えないけど」
リリム「・・・一応試してみようかしら。何もせず諦めるのはもう嫌だし」
そういうリリムの表情は、どこか晴れやかだ。
リリム「具体的に何すればいいかはわからないけど」
テツヤ「とりあえず、できそうなこと片っ端から挑戦していくか」
〇女の子の部屋
それから俺たちは思いつく限りの方法を試した。
リリム「あと一段で完成──」
リリムの目の前に高く積み上がったトランプタワー。
しかしそれは儚くも崩れ去ってしまう。
リリム「あ~~~! またやり直し!?」
テツヤ「けど、これを完成させればきっととんでもない忍耐力が付くぞ~。頑張れ頑張れ」
こうやって地道な作業で集中力を伸ばしてみたり。
〇古いアパートの部屋
リリム「この勝負・・・あたしがもらった!!」
テツヤ「リリム! これで十勝だぞ!!」
なんてネットゲームの対戦で、勝利体験を重ねて自身を深めてみたり。
たぶん見当外れなこともたくさんしたと思うけれど、リリムはどれも楽しそうに挑戦していた。
〇古いアパートの居間
様々な特訓を重ねること数日。ついに再び俺にチャームをかける日がやって来た。
リリム「あたしならできる、あたしなら大丈夫・・・」
リリムは後ろから抱きつくようにして俺に密着してくる。
テツヤ(今日は膝枕じゃないのか・・・)
布越しに伝わってくるリリムの体の感触と温度に、ちょっとドキドキしていると──
〇幻想空間
テツヤ(あ、あれ・・・?)
気付けば俺は謎の空間にトリップしていた。
???「はい、あーんして・・・」
突然現れた人影が、甘やかな声で俺に語りかけながらセロリを口元に運んでくる。
言われるがままそれを口に含んだ瞬間。
テツヤ(ん!? セロリなのに美味い・・・!!)
驚く俺を見て、目の前の人影がくすりと笑う。
テツヤ(この人は一体──)
???「美味しかったですか? テツヤ殿」
テツヤ「シロさん!?」
〇古いアパートの居間
テツヤ「今のは・・・?」
リリム「どうだった!?」
テツヤ「あ、ああ・・・なんか夢の中みたいな、そういう不思議なところでセロリ喰わされた」
テツヤ(我ながら何を言っているんだという感じだが、事実なのだから仕方がない)
リリム「よし! 意識の書き換えは成功したとみて間違いなさそうね」
リリム「あとしっかりチャームがかかってるか、試すだけ・・・!」
俺の目の前には、今日買ってきたばかりのセロリが置かれている。
リリム「さあ、食べなさい!」
夢の中とは違って、半ば無理矢理口の中に突っ込まれる。
テツヤ「うっ・・・!」
セロリ独特の苦みと臭みが俺の口の中に広がる。だが──
テツヤ「う、美味い!」
見事「嫌い」を「好き」に変えられた俺は、思わず大きな声で叫んでしまった。
リリム「ってことは大成功ね!!」
テツヤ「やったな、リリム」
リリム「ええ!!」
嬉しさを抑えきれなかったのか、リリムは俺に抱きついてくる。
その瞬間、リビングの扉ががちゃりと開かれて。
シロ「!」
シロ「最近やけに2人で過ごしている時間が多いと思っていましたが、そういうことだったのですね・・・!!」
テツヤ「え、あ!? ち、違うんだこれは!」
シロ「いえ、何も言わずとも結構です! 邪魔者は去るのみ! どうか末永くお幸せに・・・!!」
テツヤ「違うんだシロさん! 全部誤解なんだぁ~~~~~!!」
〇古いアパートの居間
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