第5話 恋愛脳と言う勿れ(脚本)
〇教室
東雲栄「イチゴ・・・昨日はその・・・悪かったな」
東雲栄「しかし、どうして途中で帰ったりなど・・・」
神崎イチゴ「・・・・・・」
東雲栄「イチゴ・・・?」
神崎イチゴ「・・・・・・」
東雲栄「む、無視!? いや、どこかに俺たちの関係を怪しむスパイがいるんだな!?」
東雲栄「そして俺たちが企んでいる『あの計画』がばれないよう、他人のふりを・・・!?」
神崎イチゴ「・・・どちら様ですか?」
東雲栄「くっ・・・やはりか! しかし、これを見ろイチゴ! これで全てを思い出すんだ!」
栄は吉良めきこのサインが入った漫画本
を取り出し、イチゴに見せつける。
神崎イチゴ(き、吉良めきこ先生のサイン!! もう貰ってきてくれたの!?)
神崎イチゴ(だ、駄目よイチゴ! 平常心よっ!)
東雲栄「ど、どうだイチゴ! 思い出したか?」
神崎イチゴ「・・・ドチラサマデスカ?」
東雲栄「ああっ!? 悪化している!?」
東雲栄「なぜだイチゴ!? なんでそんな風に俺を無視するんだ!? 昨日からイチゴの態度は理解不能だ!」
神崎イチゴ「だって・・・」
ようやく口を開いたイチゴに、栄は一瞬、安堵の表情を見せる。
しかし、イチゴの表情は暗いままだった。
神崎イチゴ「アタシ・・・栄くんに無理して欲しくなかったの」
神崎イチゴ「アタシがミステリ禁止なんて言ったから、栄くんは苦しい思いしたでしょ?」
神崎イチゴ「だから・・・アタシはもう栄くんと関わらないほうがいいんじゃないかって・・・」
東雲栄「しかし、それは・・・」
神崎イチゴ「・・・アタシにもう話しかけないで。また体調崩しちゃうよ」
そう言い残し、イチゴは自分の席へと戻って行った。
東雲栄「・・・イチゴ」
その日を境に、栄は学校に来なくなった。
〇教室
神崎イチゴ(・・・はあ。栄くん、今日も学校に来て ないみたい)
神崎イチゴ(また体調崩しちゃったのかな。・・・それとも、アタシがあんなこと言っちゃったから・・・? なんて、自惚れすぎかな)
イチゴがひとり黄昏ていたその時・・・。
東雲栄「イチゴっ・・・!」
イチゴの教室に、フラフラの栄が現れた。
神崎イチゴ「さ、栄くん・・・!?」
栄の顔は青白く、一目でわかる程やつれている。
神崎イチゴ「って、大丈夫!?」
東雲栄「いや・・・ちょっとな。・・・ずっと連絡もせずにすまなかった・・・」
神崎イチゴ「こんなに休んで一体どうしたの? まさかまた体調を崩して・・・?」
東雲栄「ああ! そのことなら、もう大丈夫だ!」
神崎イチゴ「え・・・?」
東雲栄「恋愛小説なら、無事に書き上げた!」
神崎イチゴ「ええーーーー!?」
神崎イチゴ「じゃあ、休んでたのは、小説を書いてたから・・・?」
東雲栄「イチゴのおかげだ」
神崎イチゴ「えっ!? で、でもアタシは何も・・・」
東雲栄「いいや、イチゴのおかげなんだ」
神崎イチゴ「え・・・?」
東雲栄「ミステリでは、登場人物達はいつも騙し合いばかりで、正直な気持ちをぶつけることはほとんどない」
東雲栄「だから、いつもミステリのことばかり考えている俺も、自然と自分の正直な気持ちを口にしなくなってきていた」
東雲栄「・・・だが、イチゴといる時だけは違った」
東雲栄「イチゴは、いつも正直に、ストレートに自分の気持ちを出して俺に接してくれた」
東雲栄「だから、俺もイチゴに心動かされることが多かった」
東雲栄「そして、気づいたんだ」
東雲栄「人と人が交わり好意を抱き合う為には、こうやって正直な心を、通わせ合う必要があるのだとな」
東雲栄「だが、想像以上に休んでしまったな。心配かけてすまなかった」
神崎イチゴ「栄くん・・・アタシ、すごく寂しかったよ。栄くんと会えなくて」
東雲栄「えっ!?」
神崎イチゴ「最初はただのミステリ脳の変態野郎だと思ってた」
神崎イチゴ「けど、一緒にいたら、すごく楽しくて・・・どんどん栄くんのこと、嫌いじゃなくなっていった」
神崎イチゴ「だから・・・はっ!?」
神崎イチゴ「ご、ごめん。なんかこれって・・・」
神崎イチゴ(まるで、告白のセリフみたいじゃないっ・・・! は、恥ずかしい・・・!)
イチゴも栄も頬を赤く染める。ふたりの間に微妙な空気が流れたが、それはどこか甘いものを孕んでいた。
東雲栄「い、いや! その、イチゴのおかげでインスピレーションがバンバン湧いてな!」
東雲栄「だが、寂しい思いをさせてしまったならすまなかった!」
神崎イチゴ「ううん・・・そんなこと・・・栄くんも、執筆お疲れさま」
東雲栄「ああ、ありがとうイチゴ。改めて礼を言う」
東雲栄「というわけで、例のサイン本だ。受け取ってくれ」
神崎イチゴ「あ、そっか・・・うん。ありがとう」
東雲栄「あまり嬉しそうじゃないな?」
神崎イチゴ「ううん、サインも、もちろん嬉しいけど・・・栄くんが恋愛小説を書けたってことの方が、今は嬉しくって」
神崎イチゴ「えへへ。おめでとう、栄くん!」
東雲栄「ありがとう、イチゴ」
〇教室
それから数か月後
栄の恋愛小説は無事に発売された。
現役高校生ミステリ作家の初の恋愛小説とあり、かなり話題になりテレビでも取り上げられたほどだった。
そして、その数週間前・・・
東雲栄「イチゴ、これ・・・よかったら貰ってくれ」
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ミステリーの完成度もさることながら、素直で可愛いヒロインと、頼れるかっこいいヒーローの甘酸っぱさも楽しめちゃう新作シリーズの予感がします!
連載がんばれ栄くん!恋愛がんばれイチゴちゃん!!