第7話 お帰りなさいませ、ご主人様♪(脚本)
〇アパートの前
朝の掃除をしていると、アパートの玄関扉からソルーナがにゅっと半身を出してくる。
ソルーナ「そなたに頼みたいことがある」
テツヤ「なんだ?」
ソルーナ「この弁当箱をリリムに届けてやって欲しいのだ」
ソルーナ「作ったのはいいが、持って行くのを忘れたようでな」
テツヤ「だからって俺をパシるなよ」
ソルーナ「我は太陽に弱いのだ。こんな日差しの強い日に外出することなどできようはずがない」
テツヤ「よく言う。お前は単なる引きこもりだろ」
テツヤ(事実俺はソルーナがアパートから出たところを見たことがない)
テツヤ「弁当は届けるけど、たまには外出ろよ」
ソルーナ「そんな暇はない。我は執筆活動で手一杯だからな」
テツヤ(執筆活動・・・?)
ちょっと引っかかったが、深くつっこむ前にソルーナはアパートの中へと戻って行ってしまった。
テツヤ(散歩がてら、シロさんでも誘って届けに行くか)
〇メイド喫茶
テツヤ(こ、ここがリリムのバイト先・・・?)
シロ「こんにちは! リリム殿はいらっしゃいますか?」
リリム「はいはぁい、ご主人様ぁ。あなたのリリムはこちらに──」
リリム「げっ、なんであんたたちがここにいんのよ!?」
メイド服を着たリリムは恥ずかしそうに顔を真っ赤にし、1歩後ずさった。
テツヤ「弁当届けに来たんだよ」
リリム「くっ、それじゃ怒るに怒れないわね!」
リリム「それじゃあんたたち、このままお昼食べていきなさい。あたしがおごってあげるから」
シロ「いえでも、この程度のことでご馳走になるのは申し訳ないです」
テツヤ「ああ、俺も遠慮しとく──」
リリム「いいから素直におごられなさいよ! シロはともかくとして──」
リリム「管理人、あんたに貸しを作りたくないの!!」
テツヤ「はあ、わかったよ」
リリム「8卓にご主人様、お嬢様入られまーす♪」
アパートにいるときより1オクターブくらい高い声でそう言ってから、リリムは俺たちを席へと案内した。
テツヤ「しっかし、リリムがメイド喫茶で働いているとはなあ」
テツヤ「メイド服は似合ってるけど、性格的に絶対向いてないだろ。奉仕とか」
シロ「おや、そうでしょうか? ここの『メイドさん』たちは、人々を魅了するのがお仕事なのですよね?」
シロ「リリム殿は夢魔ですから、まさに天職と言えるでしょう!」
テツヤ「夢魔・・・?」
テツヤ(ってことは、サキュバス!?)
テツヤ(まさかあいつが、人の夢に潜り込んでアッハーンなことをしたりウッフーンなことをしたりして精を搾り取る悪魔だとは)
リリム「はい、オムライス2人前。うちはいい油使ってるから、シロが胸焼け起こすようなことはないわよ」
シロ「わあ、楽しみです!」
リリム「すぅ──」
リリム「おいしくなあれ、萌え☆萌えキュン!」
シロ「・・・?」
リリム「これ食べたらさっさと帰りなさいよ!!」
テツヤ(プロ根性は評価するけど、態度の差が激しいんだよなあ)
〇繁華な通り
昼食を食べ終わったあと、俺たちはリリムの迷惑にならないようすぐ店を出た。
シロ「ん?」
シロさんは不審そうに眉をひそめ、キョロキョロと辺りを見回し始める。
シロ「テツヤ殿。わずかにですが、言い争うような声が聞こえてきます」
テツヤ「とりあえず様子を見に行ってみるか」
〇ビルの裏通り
リリム「そこから1歩でも動いたら、即警察呼ぶから!」
???「好きにしろよ。別に逮捕されるようなことしてねーし」
???「てか、リリムさんは店戻っててくれません!?」
リリム「そしたらあんたとストーカーが、2人きりになっちゃうでしょ!」
???「いいから! ここにいられても邪魔なの! バイトが同じだけなんだから、いちいち首突っ込んで来ないで!!」
メイド喫茶が入っているビルの裏で、見知らぬ男女とリリムが言い争っていた。
テツヤ(あの男がストーカーなら危なくないか!? こうなったら、俺が――!!)
シロ「テツヤ殿!?」
テツヤ「お、お巡りさーん! こっちで喧嘩してるみたいです! 早く来てくださぁ~い!!」
ストーカー「チッ・・・! また明日も来るから、カノン」
カノン「一生来んな!」
カノン「リリムさん、あたし店戻ります!」
リリム「あ、待ちなさいよカノン!」
ひとまずストーカーを追い払うのには成功したようだが。
シロ「今の、なんだったんでしょう?」
テツヤ「さあ・・・?」
〇古いアパートの居間
――その日の夜。
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