異世界アパート

金村リロ

第6話 頼りにされる仕事(脚本)

異世界アパート

金村リロ

今すぐ読む

異世界アパート
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇学校脇の道
  少し先にある小学校のプールから聞こえてきた叫び声。
  慌てて駆け寄り、フェンス越しに中の様子を覗くと──
子供A「早く、先生! 早く助けてあげて!!」
教師「ま、待って! すぐ浮き輪持って来るから──あれ、どこにあるんだっけ!?」
  教師もパニックになっているのか、救命道具を探して右往左往している。
テツヤ「すぐ助けに行くからな!!」
  しかしフェンスは高く、簡単には上れそうにない。
テツヤ「クソッ! 校門から回っていくしかないか!」
  道沿いにある門に向かって走り出そうとした、その時だった。
シロ「テツヤ殿! 肩を借ります!!」
  少し遠くに立っているシロさんが、助走をつけてこちらに走ってくる。
テツヤ「えっ・・・!?」
  驚く俺の前で大きくジャンプ。
  そこから更に俺の肩を踏み、シロさんは空へと向かって高く跳んだ。

〇学校のプール
子供A「うわっ、なんだあの人!?」
  軽々とフェンス飛び越え突然現れたシロさんを見て、その場にいた全員が大きく目を見開いた。
  しかし彼女はそんな視線を気にすることなく──
シロ「すぅ・・・!」
  大きく息を吸い込んでから、プールの中へと飛び込んだ。
溺れている子供「ゴボ・・・ッ!」
シロ「落ち着いて! すぐにここから出してあげますから!」
  溺れてパニックになっている子供を後ろから抱きかかえ、力強い泳ぎでその子をプールの縁へと運んでいく。
シロ「手を貸してください! この子を引き上げて!」
教師「は、はいっ!」
  水中から引き上げられた男の子はしっかり意識があるのか、座ったまま何度か大きく咳き込む。
シロ「幸い水は飲んでいないようです。ですが念のため、医者に診せたほうがいいでしょう」
教師「あ、ありがとうございます!」
子供A「お姉ちゃん、すごい・・・! 水泳のせんしゅ!?」
  周囲の子供たちはヒーローを見るような目でシロさんを見つめ、答えを待つ。
シロ「私はヒルダ・シロンハウプト! 通りすがりの騎士です!!」

〇保健室
シロ「ハクション!」
  大きくくしゃみをしてから、シロさんはぶるぶると体を振った。
テツヤ「わっ!?」
  俺の顔に水滴がかかり、思わず声を上げてしまう。
シロ「す、すみませんテツヤ殿! 大丈夫ですか!?」
テツヤ「平気平気。それよりシロさん、風邪引かないようもっとしっかり拭いとかないと」
  溺れた子供を助けたあと、俺たちはこの学校の保健室へと通された。
  借りたタオルで、まだ濡れている彼女の髪の毛をごしごしと拭いていく。
テツヤ「それにしてもシロさんの泳ぎ、凄かったな。 普通あんな風に溺れてる人助けられないよ」
シロ「救助に関しては多少ですが経験がありますから」
テツヤ「それもやっぱ騎士団で?」
シロ「ええ。船上での戦いの際、海に落ちた団員を荒波の中から何度か助けまして」
シロ「それに比べたら、波のない場所から子供を救出することくらい、造作もないことです!」
  なんて誇らしげに胸を張ったのもつかの間。
  シロさんはしゅんと下を向いて──
シロ「そんなことができて、なんになるという話ですが・・・閑職に追いやられ、その先でアルバイトすら見つけられない」
シロ「結局私は剣以外取り柄のない落伍者なのです・・・」
テツヤ「い、いや! シロさんは十分すごいから!」
テツヤ(状況判断の速さ、そしてあの瞬発力)
テツヤ(警備員とか、監視員とか、あの力を生かせる場所は絶対たくさんあるはずだ)
テツヤ(帰ったらすぐにその辺の求人を調べよう)
  そんなこと考えていると。
教師A「あの、失礼します。先ほどは生徒を助けていただき、ありがとうございました」
シロ「いえ。あの子の容態はどうですか?」
教師B「病院で見てもらっていますが、意識もしっかりあるそうです」
シロ「よかった・・・!」
教師A「それにしても、まさかこんなことが起こるとは・・・」
教師B「やっぱり監視員をつけるべきですよ。また同じようなことが起こったら──」
テツヤ「ちょ、ちょっと待ってください! 今なんて!?」
教師B「え? また同じようなことが起こったら──」
テツヤ「じゃなくて、その前!」
教師A「『監視員をつけるべき』・・・ですか?」
テツヤ(これだ──!)
テツヤ「あの、それならここにいるシロさんはどうですか!?」
シロ「えっ!?」
テツヤ「いち早く助けを求める声を聞きつけ、そこからすぐ救助に向かう状況判断の速さ!」
テツヤ「溺れて暴れる子供を抱えて、軽々と泳げてしまう身体能力の高さ!」
テツヤ「こんな人、そうそういない  と思いますよ!」
シロ「テ、テツヤ殿! いきなり何を・・・!」
  売り込むなら今しかない。俺は早口でまくし立てながら、教師たちに迫った。
テツヤ「シロさんだってこの仕事やりたいよな!? 俺はこれこそシロさんだからできる仕事だと思うんだ!」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:第7話 お帰りなさいませ、ご主人様♪

ページTOPへ