第5話 騎士の矜持(脚本)
〇古いアパートの居間
シロ「扉が発見された当初、守は未知の世界を探索するという使命を持った栄職でした」
シロ「ですが時を経て、今では閑職として扱われるようになったんです」
テツヤ「閑職・・・」
シロ「今の守に任されている仕事は、2つの世界を繋ぐ扉を見張る程度のもの」
シロ「・・・誰からも期待されていないんです、この場所は」
テツヤ「でも腐ってもここは異世界なわけだろ? なんでそんな扱いになったんだ?」
シロ「技術や文化など含め、こちらの世界に関する調査が終了したと判断されたからです」
シロ「とはいえ2つの世界を繋ぐ扉を、見張りなしで放置しているわけにもいきませんから・・・」
テツヤ「それで何人か守を配置して守らせてる、ってことか」
シロ「はい」
テツヤ(シロさんのこの様子を見る限り、守が閑職というのは謙遜でもなんでもなく純然たる事実なのだろう)
シロ「・・・すみません、こんな暗い話を聞かせてしまって」
テツヤ「いや、俺は全然構わないんだけど・・・」
シロ「私、少し頭を冷やしてきますね。 ここはあとできちんと片付けますので」
俺に向かって軽く頭を下げ、彼女は部屋を出て行った。
テツヤ「シロさん・・・」
〇アパートの前
テツヤ「はあ・・・」
ホウキを掃く手を止め、俺は大きく溜息をつく。
ミア「くすくす・・・随分元気がないようね」
テツヤ「まあ、色々あって」
ミア「きっとシロちゃんのアルバイトを探す件よね。その後順調?」
明日で約束の一週間目。それだというのに。
テツヤ「どういう仕事なら向いてるかってのすら、見つけてあげられてないんだよなー・・・」
テツヤ(きっとどこかに、シロさんが楽しく働ける場所があるはずなんだけど)
テツヤ「・・・俺、近所にいいバイト先ないか探して来る」
ミア「それなら、シロちゃんを誘ってあげたらどう?」
ミア「さっき中庭の隅っこで小さくなって落ち込んでたから」
テツヤ「マジか。ちょっと声かけてくるよ。ありがとな、ミア」
ミア「どういたしまして」
テツヤ(そういえば、ミアとは初めてちゃんと喋った気がするな)
テツヤ(ミアはリビングにもあまり顔をださないし、他の住人と喋ってるところもほとんど見かけない)
テツヤ(正直どんな人なのか掴めていないままだった)
テツヤ(けど──少なくとも、悪いやつではなさそうだ)
〇学校脇の道
シロ「おおっ、ここは初めて来る道ですね! 広く、真っ直ぐ、見晴らしのいい道路! 思わず駆け抜けたくなります!!」
テツヤ「シロさん、『道路は車が走るもの』。はい、復唱して」
シロ「道路は車が走るもの。うぅ、この世界は細かいルールが多いです・・・」
今にも車と一緒に道路を走り出しそうなシロさんを宥めながら、昼下がりの道を歩く。
テツヤ「シロさんって、ほんと散歩好きだよな」
シロ「はいっ! 外の空気に触れるのは楽しいですから!」
テツヤ(最初の内は晴れない顔をしていたが、今は外出を無邪気に楽しんでいるらしい)
シロ「ところでテツヤ殿、今日の散歩はどこまで行くのですか?」
テツヤ「んー、駅の方までかな。その道すがら色んな店回って、バイト募集してるところないか探すつもり」
シロ「あ・・・」
バイト、という単語を聞いた途端シロさんはすまなさそうな表情を浮かべた。
シロ「すみません。私アルバイトの件で、テツヤ殿を煩わせてばかりですね」
テツヤ「いや、別にそんなこと──」
シロ「ありますよ。私は昔からこうなんです。剣以外のことはからきしで、いつもいつも人に迷惑をかけてしまう・・・」
テツヤ(剣・・・?)
テツヤ「あ、そっか。シロさんは騎士の家系の出だって言ってたっけ」
シロ「はい。18の時に成人して以来、ずっと国に仕えています」
テツヤ「じゃあ、剣以外はさっぱりでも仕方なくないか? 剣士ってのはそういうもんだろ?」
国を守るため、ストイックに自分の腕を磨き続ける。
俺の中ではそういうイメージなのだが。
シロ「いえ、我々もまた政(まつりごと)に関わりある身」
シロ「社交にも長けていなければ、冷遇の憂き目に遭います」
テツヤ(社交かあ。シロさん、そういうの苦手そうな感じあるよな・・・)
シロ「それが分かっていながらも、私は騎士団の中で上手く立ち回ることができませんでした」
シロ「私のその不甲斐なさ故、シロンハウプト家の威光も弱まり・・・」
シロ「結果守という役職を押しつけられるようにして任命されることに・・・」
テツヤ(いかん! シロさんがまた暗くなってる!)
テツヤ(このままじゃ、先日の二の舞になってしまう)
何か言葉をかけようと、頭をフル回転させて考えていると──
シロ「ですが、ずっと後ろ向きでいるわけにはいきません!」
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