またね

深都 英二

読切(脚本)

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〇川沿いの原っぱ
カイト「もうすぐだね」
ネル「うん」
カイト「あれ、ちゃんと覚えてる?」
ネル「外に出たら、「大きく息を吸って吐く」でしょ」
ネル「何回も練習したから大丈夫だよ」
カイト「あと、出る時は眩しいらしいから、目はつぶっておいた方がいいよ」
ネル「わかってるって」
ネル「もう、カイトは心配性なんだから」
カイト「・・・あのさ」
ネル「ん?何?」
カイト「なんであの人を選んだの?」
ネル「・・・」
ネル「淋しそうだったから」
カイト「淋しそう?」
ネル「あの人に、呼ばれた気がしたの」
ネル「私がそばにいてあげなきゃ」
カイト「・・・そっか」
ネル「もう行かなきゃ」
ネル「っ・・・」
  カイトが、ネルをそっと抱きしめた。
カイト「もう少し・・・一緒にいてよ」
ネル「・・・カイトも知ってるでしょ」
ネル「今日を逃したら、もう二度とあの人のところに行けなくなっちゃう」
カイト「わかってる。でも・・・」
ネル「これ以上、あの人を待たせるわけにいかないよ」
ネル「っ・・・」
カイト「ネル・・・」
ネル「あれ・・・ダメだな」
ネル「最後は笑って別れるって決めてたのに」
ネル「これからたくさん泣くんだから、今泣いてちゃダメだよね」
カイト「・・・俺が、ネルを見つける」
ネル「え?」
カイト「必ず見つけてみせる」
カイト「だから、きっとまた会えるよ」
ネル「無理だよ・・・」
ネル「記憶も全部消えちゃうんだよ」
ネル「見た目だって違うし」
ネル「できっこないよ」
カイト「そんなのやってみないとわからないだろ」
ネル「え?」
ネル「これって・・・」
カイト「これで、俺らの心は半分になった」
カイト「片方は俺が、片方はネルが持ってて」
カイト「二人が心を片方ずつ持っていれば、俺らはまた繋がることができる」
ネル「カイト・・・」
カイト「心の片割れに会った時に、きっと気づけるはずだ」
ネル「ありがとう」
カイト「ごめん。しばらく淋しい思いをさせちゃうけど」
カイト「半分の状態だと、心が風邪を引きやすくなるらしいから」
ネル「大丈夫だよ」
ネル「その代わり、会えた時に温めてね」
カイト「うん。何年かかったとしても、必ずネルを見つけてみせるよ」
ネル「あんまり待たせないでね」
ネル「おばあちゃんになっちゃうから」
カイト「その時は、一緒に「お互い老けたな」って笑おうぜ」
ネル「あはは!そうだね」
ネル「もしカイトが私を見つけられなかったら、私から声をかけてあげる」
カイト「頼もしいな」
ネル「もう行かなきゃ・・・」
カイト「うん・・・」
ネル「ねぇ、さよならじゃないよね?」
カイト「ああ。ちょっとの間、離れるだけだ」
ネル「じゃあ・・・」
ネル「またね」
カイト「っ・・・」
カイト「そうだな」
カイト「またな」

〇水中
  ほら、がんばって
  やっと会えるんだよ
  おかあさん

〇病室のベッド
助産師「おめでとうございます」
助産師「元気な女の子ですよ」
涼崎春樹「ありがとうございます」
涼崎貴子「わあ・・・かわいいね」
涼崎春樹「よく泣いてるな」
涼崎貴子「産声って泣いてるんじゃなくて、呼吸をしてるのよ」
涼崎春樹「呼吸?」
助産師「そうです。初めて肺で呼吸をするから、大きく息を吸って吐いてるんです」
涼崎貴子「すごいよね。生きようとしてるんだよ」
涼崎春樹「すごいな。誰に教えられたわけでもないのに」
助産師「もしかしたら、生まれる前に練習してたのかもしれませんね」
涼崎春樹「あはは!なるほど」
涼崎貴子「念願だった赤ちゃん・・・」
涼崎貴子「やっと会えた」
涼崎貴子「私たちの元に生まれてきてくれて、ありがとう」

〇学校脇の道
  13年後──
嘉城レナ「近所に住んでたなんて、偶然だね!」
涼崎リカ「ね!なんかレナちゃんとは、初めて会った気がしないよ」
嘉城レナ「私もだよ!一緒のクラスになれてよかった」
涼崎リカ「実は、どこかで会ったことあったりしてね」
嘉城レナ「え・・・?」
涼崎リカ「なーんてね」
嘉城レナ「リカちゃん」
嘉城レナ「あのね、私・・・」
涼崎リカ「ん?何?」
嘉城レナ「ううん!やっぱ何でもない」
嘉城レナ「この前、新しくできたカフェ行こっか!」
涼崎リカ「いいね!行こ」

コメント

  • とても切なくなりました。性別は違っても親友でも恋人でもいいから結ばれて欲しいですね

  • 初対面のはずなのに、どこかであったことあるような?そう感じるときは、もしかしたら前世の記憶があるからかも?そんな風に思うので、気興味深く読みました。

  • とても興味深いお話でした。実際、こういう経験はできるものではないかもしれないけれど、異性でも同性でも外国人でも、話していてしっくりくる人を片割れかもしれないと想像するのも楽しいですね。

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