異世界アパート

金村リロ

第2話 新たな職場(脚本)

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金村リロ

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〇謎の植物の生えた庭
テツヤ「ハッ・・・!?」
テツヤ(か、体が動かない!?)
シロ「テツヤ殿! 目覚められましたか!!」
ミア「よかったわね、リリムちゃん♪ 彼、死んでなかったみたいよ」
リリム「まったく人騒がせね。あの程度で気絶するなんて、鍛え方が足りないんじゃない?」
ソルーナ「しかし何故こちらの世界の人間が、我らの住処に?」
アン=マリー「ソルーナ様。この者、どうやら『鍵』を持っているようです」
ミア「どうしてあなたがそれを?」
テツヤ「シロさんが落としたのを拾ったんだよ! それで、届けようと思ってここに入ってきただけだ!」
リリム「ちょっと待ちなさい! 鍵を落としたぁ!? シロ、あんた何考えてんのよ!」
シロ「あうっ! すみません、すみません!! お願いですから耳を引っ張らないでください!!」
テツヤ(よくわからないが、シロさんは相当大事なものを落としてしまったらしい)
テツヤ(俺はそれを届けたんだから、もっと感謝されてもいいはずなのだが)
テツヤ「なんで体が動かねえんだよ・・・!?」
  縄で縛られたみたいに身動きが取れない。
  しかし俺の腕や脚には拘束具らしきものはひとつも着けられていなかった。
リリム「暴れても無駄よ。人間ごときがあたしの拘束魔法を破れるはずないんだから」
テツヤ「魔法・・・?」
  まさしく何を言っているんだこいつは状態だ。
テツヤ「なりきりコスプレもここまで来ると笑えないぞ?」
リリム「コスプレぇ? あんた、自分の置かれてる状況が全然分かってないわね」
アン=マリー「しかし、そのほうが好都合です。今の内に処遇を決めるのがよいかと」
シロ「ま、待ってください! とにかくここは冷静に話し合いを・・・!」
リリム「ドジったあんたが仕切るんじゃないわよ!」
テツヤ(よくわからないが、どうやら俺はヤバい状態にあるらしい)
  冷や汗をかきながら逃げ出す方法を探っていると。
ミア「サンプルとして動きを見ておくのも、悪くないかもしれないわね・・・」
  そう言って彼女は横目で俺を見た。
  他の連中は俺の処遇をどうするか話し合うのに夢中らしく、今の言葉は聞こえていなかったようだ。
ミア「あなた、お名前は?」
テツヤ「国瀬鉄也、ですけど・・・」
ミア「テツヤさんね。私はミア・E。異世界からやって来た、翼人と呼ばれる種族の者です」
テツヤ「は・・・?」
ミア「この建物の地下には、我々の世界とこの世界を繋ぐ扉が存在してるのはご存じかしら?」
テツヤ「な、なんの話をしてるんだ?」
ミア「もちろん知らないわよね? だってその存在を知られないよう、私たち守(もり)がここを守っているんだから」
リリム「ミア!」
  リリムが制するように彼女の名前を呼んだが、ミアは淡々と話を続ける。
ミア「信じられないかしら? でも我々のこの姿が何よりもの証拠よ」
テツヤ「い、いや、それはコスプレだろ?」
テツヤ(お願いだからそういうことにしてくれ。異世界とか言われても俺は困る!!)
ミア「うーん、やっぱり言葉だけじゃ納得できないかしら? それじゃ、こういうのはどう?」
テツヤ「うわっ!?」
  ミアは突然俺の体を抱きかかえる。
  バサッ・・・!
  ミアの背中にある翼が大きく動く。
  彼女は中庭の天井付近まで一気に飛翔してから、俺に向かって微笑みかけた。
ミア「この翼はね、本物なの」
  そう言ってからミアは下に降り、俺の体を優しく床の上に置いてくれた。
  背中の翼を使って空を飛ぶ人間を目の当たりにし、異世界の存在を否定できない。
リリム「やってくれたわね、ミア・・・」
アン=マリー「ここまで知られてしまった以上、この人間は『消去』するしかありません」
テツヤ「しょ、消去・・・?」
テツヤ(そ、それってもしかして――!)
シロ「お、お待ちください! テツヤ殿は私に落とし物を届けようと、善意でここへ来てくださっただけです!」
シロ「責め苦を負うべきは私の方! どうかこの方の命だけはお助けください!!」
テツヤ「し、シロさん・・・」
シロ「今こそ受けたご恩に報いる時! テツヤ殿のことは私が必ず守ってみせます!!」
リリム「はあ、何を勝手に盛り上がってんのよ。 消去って言っても命を取るわけじゃないんだから」
シロ「え? そうなのですか・・・?」
リリム「当たり前でしょ。命じゃなくて、そいつの記憶を『消去』するの」
テツヤ「な、なんだ。それなら最初からそう言えよ!」
リリム「今から説明するところだったのよ」
テツヤ(記憶を消されるのも大分怖いけど、命をとられるよりマシだ)
テツヤ「さっさとやってくれ!」
リリム「オッケー。とりあえず10年分くらい記憶吹っ飛ぶけど、それは問題ないわよね?」
テツヤ「はあ!?」
アン=マリー「10年など春の日のまどろみ・・・瞬きする間に過ぎ去る時間です。 問う必要もないでしょう」
テツヤ「んなわけあるか! 俺の青春全部吹っ飛ぶっつーの!」
ミア「ああ、そういえばこちらの人間の寿命って80歳程度だったかしら? たしかに10年は大きいわねぇ」
ソルーナ「記憶の消去が受け入れられぬと言うなら、命を奪うほかないぞ」
テツヤ「選択肢の振り幅がでかすぎるんだよ!!」
シロ「あ、あの! 今日1日分の記憶を消去する方法はないんですか!?」
テツヤ「よく聞いた、シロさん! 俺が求めてる解決方法はそれ!!」
リリム「基本的には無理。記憶みたいに不定形なものって、実態が掴みづらいからピンポイントで取り除くのが難しいのよ」
ミア「だからこういう場合は10年とか20年とか、大きな塊で消去するのが普通なの」
テツヤ「ダメだダメだ! さすがに10年分の記憶は渡せない!!」
リリム「じゃあ死ぬ?」
シロ「いけません! 何かもっと別の解決策を・・・!」
アン=マリー「失礼ながら、そのようなものはないかと。記憶か命か、ご選択を」
テツヤ(どうやら俺に逃げ道はないらしい)
ミア「まあまあ、みんなそんな怖い顔しちゃって。 もっと平和的な解決方法があるでしょ?」
リリム「何言ってるのよ、ミア。これ以外の方法なんて──」
ミア「忘れちゃったのかしら? 私たちの正体をこの世界の人間に知られてはいけない。 でも、唯一の例外が存在すること」
  ミアのその言葉を聞いた瞬間、全員がはっとした表情を浮かべる。
エリーナ「まさか『管理人』のことか?」
ミア「そう。私たち守(もり)と、この世界を繋ぐことのできる唯一の存在」
テツヤ「管理人・・・?」
シロ「そ、それしかありません! テツヤ殿、お願いです! 私たちと契約し、どうかこのアパートの管理人となってください!!」
テツヤ「はあ!?」
テツヤ(どう考えたってこいつらに関わるのはヤバい)
テツヤ(現に今、記憶を奪われるか命を奪われるかの瀬戸際まで来てる)
ミア「そうだ。管理人になればお給金が出るのよ♪」
テツヤ「ホントか!?」
テツヤ(即座に食いついてしまう自分が悲しい)
テツヤ(いやでも金が出るからって、簡単につられるわけには──)
ミア「テツヤ様さえよければ、管理人室に住み込みも可です♪」
テツヤ「ウソだろ!?」
  選択肢は3つ。記憶を10年分奪われるか、命を奪われるか、お金をもらって住み込みで管理人をするか。
  俺が選んだのはもちろん──
テツヤ「管理人、やる! いや、やらせてください!!」

次のエピソード:第3話 管理人とその契約

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