異世界アパート

金村リロ

第1話 コスプレ美少女は異世界人(脚本)

異世界アパート

金村リロ

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〇謎の植物の生えた庭
  見たこともない植物が生い茂る綺麗な中庭。
  その中心に立つのは、頭や背中に耳や羽をくっつけたコスプレ集団。
テツヤ(なんだ、ここ? まるで異世界──)
???「あ、あなたは・・・!」
???「きゃーーーっ!? に、人間が出たわよ!!」
  ガンッ!
テツヤ「ぐあっ!?」
  角をはやした女の子がオーバースローで放った植木鉢。
  それは俺の頭に見事ヒットした。
  遠のく意識の中で考える。
  どうしてこうなったのか。
テツヤ(思えば今日は、朝から不幸の連続だった)

〇オフィスのフロア
テツヤ「ふあぁ・・・」
  あくびをしながら出勤。
  しかしそんな俺とは正反対に、職場は騒然とした空気に包まれていた。
主任「おいおい、冗談だろ?」
先輩「私たち、これからどうしたらいいんです!?」
テツヤ「あの、何かあったんですか?」
主任「これを見ろ」
  主任から渡された一枚の紙切れ。
  それにはこんなことが書かれていた。
テツヤ「『本日を以てこの会社は解散とする』」
テツヤ「・・・え?」
先輩「社長が夜逃げしたのよ! ウチはもう倒産よ、倒産!!」
テツヤ「なっ!?」
  一瞬頭が真っ白になったが、俺はすぐ諦めのため息を吐いた。
テツヤ(また、か・・・)

〇二階建てアパート
テツヤ(高校の時、初めてバイトした本屋が3ヶ月で潰れた)
テツヤ(その次のコンビニが半年。 その次のピザ屋が2ヶ月だっけ)
テツヤ(そんな感じでバイト先は潰れてばっか)
テツヤ(大学を卒業したあとも新卒で入った会社が1年で倒産。 その次に就職した会社も1年で倒産)
テツヤ(どうにか就職した今の会社も、半年で社長が夜逃げ)
テツヤ「大学の同期たちにはネタで「お前は死神だ」って言われてるけど、そろそろ笑えなくなってきた」
テツヤ「バイトでもいいから、つなぎの仕事見つけないとな。 どうせその職場も潰れるんだろうけど」
管理人「あ、テツヤさん。ちょうどよかった。少しお話があるんだけど、今いいかしら?」
テツヤ「どうかしました?」
管理人「突然のことで本当に申し訳ないんだけど・・・アパートからすぐ退去してもらえないかしら?」
テツヤ「・・・・・・」
テツヤ「は?」

〇川に架かる橋
テツヤ(職も家もなくすとか、ある意味凄いな俺)
  アパートに構造的欠陥が見つかった。
  だから即時取り壊す必要がある。
  そう言われたら退去しないわけにもいかない。
  一刻も早く次の家を探すべく、俺は街へと出た。
テツヤ(こんな時お前がいてくれたらなあ、シロ)
  スマホの画面には、今は亡き愛犬シロの姿が映ってる。
テツヤ(引っ越し先見つからなかったら、一旦実家に帰るかな。シロの墓参りもしたいし──)
  そんなことを考えていると、ふと視界の端で白いものが動く。
テツヤ(今のって尻尾か? シロみたいに真っ白だったな)
  白いモノが曲がり角の向こう側へと消えていく。
  なんとなく気になって、それを追いかける。

〇ゆるやかな坂道
テツヤ(あれ? 犬がいないぞ)
テツヤ「おかしいな、こっちに行ったと思ったんだけど」
???「あっちでもないような、こっちでもないような・・・」
テツヤ(もしかして、俺がさっき見た尻尾ってあの子のか?)
テツヤ(こんな真っ昼間から住宅街でコスプレとは酔狂なことだ)
???「ああ、帰り道がわからない! この世界は匂いが多すぎる!!」
???「この地で手柄を立て、必ずや家を再興すると誓ったのに・・・今や見知らぬ世界の路地で朽ち果てるのを待つのみ!」
???「ああ、なんという悲劇!! この世に慈悲はないというのですか!?」
テツヤ(帰り道が分からないとか言ってたけど、迷ってるってことでいい・・・のか?)
  傍目から見ればちょっと変な人なのだけれど、本気で困っているなら放置するのもかわいそうだ。
  そんなふうに同情してしまったのは、彼女がシロと同じく真っ白な耳と尻尾を着けていたからだろう。
テツヤ「あの、よかったら道案内しましょうか?」
???「・・・! あなたは?」
テツヤ「国瀬鉄也って言います。えーっと、そっちは・・・」
???「私はシロンハウプト家長姉、ヒルダと申します」
テツヤ(「シロ」ンハウプト・・・耳と尻尾だけじゃなくて名前までシロと似てるなんて)
  コスプレしてるキャラの名前を名乗っただけかもしれないけれど、なんとなく親近感を覚えてしまう。
シロ「本日こちらへ居を移したのですが、アパートの周囲を散策していたところ道に迷ってしまいまして」
テツヤ「地図とかありますか?」
シロ「それならばこちらに!」
テツヤ(うーん、丸印ついてるのが家の場所か? 大まかだから分かりづらいな)
テツヤ「たぶんこっちの方向だと思うんですけど・・・とりあえず、ついて来てください」
シロ「おおっ! 恩に着ます、テツヤ殿!!」
テツヤ「殿って・・・」
  こんな状況でもキャラになりきるその根性は素直に凄いと思う。
テツヤ「すごいコスプレが好きなんですね」
シロ「こす、ぷれ? 失礼ですが、それはなんでしょうか?」
  コスプレしてキャラになりきっている以上、それについて語るわけにはいかないということだろう。
テツヤ(一貫してるなあ)
テツヤ「なんでもないです」

〇アパートの前
テツヤ「ここで合ってますかね?」
  地図を解読してたどり着いた先にあったのは、一軒の大きな建物だった。
  アパートというより、下宿か何かのように見える。
シロ「ああ、無事に帰還できるとは!」
シロ「見知らぬ土地で迷った以上、腕の1本や2本は失う覚悟でしたが、すべてテツヤ殿のおかげです!」
シロ「シロンハウプトの名にかけて、いつかこのご恩を返すことを剣に誓いましょう!!」
  いや剣持ってないじゃん、とつっこむのは野暮なのだろう。
テツヤ「それより、もう道に迷わないよう気をつけてください」
シロ「はい! 誠にありがとうございました!!」
  俺に深々と頭を下げてから、シロさんはアパートのほうへと駆けて行った。
  彼女のポケットから何かが落ちるのが見える。
テツヤ「ちょっと――!」
  呼び止めたときにはもう遅く、彼女は家の中に入ってしまっていた。
テツヤ「これ、届けてあげたほうがいいよな?」
  シロさんの落とし物――青くて小さい玉に細いチェーンを通したものを拾い上げる。
テツヤ(ブレスレットにしては小さいな。キーホルダーとか?)
  そんなことを考えながら、ドアノブに手をかける。
  バチッ・・・!
テツヤ「っ・・・!」
テツヤ(なんだ今の。静電気?)
  俺の手の中で青い玉がわずかに光る。
テツヤ(玉がちょっとあったかい・・・)
  それを不思議に思いつつ、もう一度ドアノブに触れる。
  幸いなことに静電気は起きず、俺は無事に扉を開けることができた。

〇古いアパートの廊下
テツヤ「えーっと・・・」
  中に入ると長い廊下が現れる。
  一番近くの扉には「管理人室」とプレートが貼られていた。
テツヤ(部屋の中に人はいなさそうだな)

〇謎の植物の生えた庭
テツヤ(家の中に庭・・・?)
???「こっちにの世界に慣れるまで1人でフラフラしちゃダメって言ったでしょ!?」
???「しかも耳も尻尾も隠さず歩いてたなんて・・・!」
???「そう怒らずともよいだろう。失敗は誰にでもある」
???「ソルーナ様の仰る通りで」
???「とはいえ、こちらの世界の人間に正体がバレては一大事。 慎重な行動を心がけないとね?」
シロ「も、申し訳ありません・・・」
  見たこともない植物が生い茂る綺麗な中庭。
  その中心に立つのは、頭や背中に耳や羽をくっつけたコスプレ集団。
テツヤ(なんだ、ここ? まるで異世界──)
  一歩前に踏み出すと、シロさんと目が合う。
シロ「あ、あなたは・・・!」
???「きゃーーーっ!? に、人間が出たわよ!!」
  ガンッ!
テツヤ「ぐあっ!?」
  角をはやした女の子がオーバースローで放った植木鉢。
  それは俺の頭に見事ヒットした。

次のエピソード:第2話 新たな職場

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