レアスキル無双は姫の嗜み(脚本)
〇薄暗い谷底
白百合アリス「ふん」
ダンジョン・魔人の棲まう谷底。
ヒーラーのタイムアタックでのレコードは長く白百合アリスが保持していたが、マリンたそがいつの間にか更新していた。
ゲーマーの端くれとしてこれは黙っていられる問題ではない。
ボスまでの雑魚敵は集めて範囲神聖魔法で効率的に撃破。
白百合アリス「・・・・・・」
長くヒーラーでのレコードタイムが更新されていない理由。
────ここのボス・魔人ベルベットは魔法攻撃を無効化するのだ。
ヒーラーはすべて魔法攻撃を主力としているがため、普通に育てているヒーラーはクリアすら困難。
特に「聖女」というクラスは、回復能力優れるため、魔法のみを取得し、物理攻撃スキルを取得しないのが育成のテンプレだ。
ここの道中を最速突破できるのは神聖魔法が強い「聖女」。一方で普通の「聖女」はボスを突破することはできない、という感じだ。
そんな「聖女」クラスの白百合アリス及びマリンたそがレコードホルダーとなった理由。
テンプレから逸脱したキャラクターの育て方をしているからだ。
優れた回復能力と神聖魔法を抑え気味にし、
物理攻撃を可能な限り育てた「殴りプリ」
このステータスである程度育成を行うと、レアスキルが取得できる。
白百合アリス「スキル発動・エンチャンテッドホーリー」
自身を含む味方の物理攻撃にあらゆる魔法属性を付与する。
そしてこのボスである魔人ベルベットは魔法は無効化するが、神聖属性が大きな弱点となっている。
よくある種族設定に準じたステータスだが、神聖属性を持つ物理攻撃はドラゴンファンタジアには存在しない。
では、聖女の隠しスキルで物理攻撃に神聖属性を載せた場合どうなるか。
白百合アリス「────剣技・アストラルスラッシュ」
聖女が持つそこまで強くない物理攻撃でも、簡単に落とせるのだ。
────そして聖女の隠しスキル「エンチャント・マギ」は未だ攻略サイトにも記載されていなかった。
白百合アリス「さて、クリア時間ランキング・・・と」
<SYSTEM>
おめでとう!
クリアタイムランキングで2位になったよ!
白百合アリス「4秒差か。やはりブランクがある。 もう一周やれば問題なさそうか」
そんなヒーラー殺しのダンジョンでレコードを叩き出せるマリンたそもまた、「エンチャント・マギ」を持っているのかもしれない。
白百合アリス「やはり姫川は──」
取得条件を明かしたことがあるのはロマネスクのメンバーでも一握り。
マリンたそ、そして姫川が知っていても不思議ではなかった。
〇ファミリーレストランの店内
石島 ルイ「それでさあ・・・姫川〜」
石島の話に耳を傾けながら、おもむろにスマホを触る。
マリンたそ⭐︎彡というアカウントで何を呟くでもなく、ドラファンのつぶやきを漁り──
姫川 湊「はあ!?」
いいねが妙に伸びている話題のつぶやきに俺は思わず声を荒げてしまった。
〇SNSの画面
白百合アリスがマナナンズのロビーにいたんだが・・・
〇ファミリーレストランの店内
石島 ルイ「どうしたんだよ、いきなり・・・」
姫川 湊「すまん、ちょっと急に帰らなくちゃいけなくなった」
石島 ルイ「え? どうしたんだよ、突然」
姫川 湊「白百合アリスがログインしたらしい」
石島 ルイ「え、どうせ嘘だろ・・・」
普段なら「はいはい嘘乙」で流していたかもしれない。
姫川 湊「見てくれよ、これ・・・!」
石島 ルイ「ん、ドラファンのスクショ・・・?」
〇アクアリウム
〇ファミリーレストランの店内
石島 ルイ「マジであの白百合アリスがログインしてる・・・」
姫川 湊「というわけだからコレ、払っておいてくれ。 釣りはいらない、あとで強化アイテム奢ってくれればいいから」
俺は机の上に万札を置き、石島の返事を待たずにファミレスを後にした。
〇センター街
店から出たところでスマホを取り出し、急ぎでとある人物に電話をかける。
姫川 湊「もしもし、レキさん」
その相手は俺が何度も世話になっている人物。
リアルではもちろん。
ドラゴンファンタジアの中でも。
姫川 湊「ひとつ、急ぎでお願いがあるんです」
〇地下室
白百合アリス「ふぅ・・・」
ネットカフェに籠もって1時間弱。
2つのダンジョンにて、ヒーラーでのソロクリアレコードを更新した。
???「なーにしてんだい、アリス」
白百合アリス「あぁ、ログイン通知が行ったんですね」
白百合アリス「それでプレイヤーサーチして、 こんな不人気ダンジョンのロビーまで来たんですか────」
白百合アリス「────レキさん」
不人気ダンジョンのロビー。
頭上に<ロマネスク>と書かれたキャラクターがふたり。
マスターの白百合アリスと、
サブマスターのレキ=ロワイユル。
レキ=ロワイユル「そうアリスさんに呼ばれるのも懐かしいですね」
レキ=ロワイユル「結構な頻度でお会いしているのに、 ドラファンではこうも久しぶりとは」
白百合アリス「ふふふ・・・」
レキ=ロワイユル「それで久しぶりに「エンチャント・マギ」を使用した感想はどうだい?」
白百合アリス「相変わらずチートですね。 誰もこの取得方法を漏らさないあたり、広まったら下方修正が入るのがわかりきってるんでしょう」
レキ=ロワイユル「そうだね 魔法攻撃を持たずとも、魔法攻撃ができてしまう。それは物理攻撃クラスにとっての大きなアドバンテージだ」
レキ=ロワイユル「あの頃のロマネスクに魔法クラスがいなかったのは君の「エンチャント・マギ」の存在が大きい」
白百合アリス「うん、魔法攻撃するよりエンチャント入れた物理攻撃のが強いし。 魔法職の心を無駄に折りたくもないですし」
レキ=ロワイユル「それが【ロマネスク】が最強だった理由」
エンチャント・マギの本領は物理攻撃に魔法属性を乗せることではない。
物理攻撃のダメージ計算を強制的に魔法防御で計算させ、ダメージを与えることだ。
これはギルド戦を含むPVPで非常に効果的だったのだ。
白百合アリス「エンチャント・マギだけ味方にかけて、自陣で踏ん反り返ってれば勝てたもんねぇ、このゲーム。マジちょろい」
レキ=ロワイユル「だから姫とか言われてたんですよ、 エンチャント・マギって謎のスキルすぎて何もしていないようにしか見えないし」
白百合アリス「でも、自分の名誉のためにギルドを負けさせたくはなかったんだよ私」
レキ=ロワイユル「だから、僕たちが誹謗中傷のターゲットになったとき、やめたんですか」
白百合アリス「当たり前でしょ」
白百合アリス「私のせいでみんなが傷つくほうが嫌だもの」
レキ=ロワイユル「────それでも、今ここで白百合アリスを動かしている理由がわからないな」
白百合アリス「タイムレコードを上書きされて黙っていられるほど大人じゃないんだ」
レキ=ロワイユル「・・・・・・あとは?」
白百合アリス「・・・・・・」
白百合アリス「割となんでもお見通しだねぇ、レキさん」
白百合アリス「紅烏に会ったんだ。 困ったことに紅烏の彼女、ちょっとばかり面倒な人らしくてね」
レキ=ロワイユル「紅烏・・・ああ、彼か」
白百合アリス「なんか私、サイオンのほうね。 不在の間にマリンたそとモメたらしいの」
レキ=ロワイユル「ほう」
白百合アリス「完全にマリンたそが喧嘩ふっかけたみたいだし、囲いとしてできる限りの尻拭いはしたほうがいいかなって」
レキ=ロワイユル「ふうん」
白百合アリス「それが騎士の務めってもんよ。 姫が間違ったことをしていたなら正してあげる────」
だから。
あの頃の私には騎士がいなかったから、間違った方向に走ってしまったのかもしれない。
白百合アリス「サイオンは白百合アリスとして、マリンたそを分からせるの」
白百合アリス「騎士のいない姫は姫じゃなくて、ただの道化なんだってね──」
続きってありますか・・・?ぜひ読みたいです!
なんかわかんないけど認定おめでとうございますー!
アリス強い!