あなたの街の怪異譚(お試し版)

伊藤無銘

公園(脚本)

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〇黒背景
  私の名前は、無藤芽衣(むとう めい)。
  仮称だ。
  ワケあって怪談を蒐めている。
  と言うか、
  蒐まってくる──。

〇公園の入り口
  第壱話
  『ブランコ』
  ある公園で不思議なことが起こるというので、報告者と現地で待ち合わせることになった。
  報告者は若い女性であった。
  その女性のことは、
  仮にAさんとしておこう。
Aさん「はじめまして」
Aさん「Aです」
めい「無藤です」
めい「今日はよろしくお願いします」
  Aさんは実家がこの近所なのだという。
  子供の頃はよく、この公園で遊んだのだそうだ。
Aさん「最近じゃこの辺もすっかり子供が少なくなっちゃったみたいで、」
Aさん「昼間でもあんまり遊んでる子っていないんです」
めい「確かに、」
めい「誰も遊んでないですね」
  その公園には私たちの他に人影はなく、
  あまり手入れもされていないようだった。
Aさん「ほら」
Aさん「今ってこういうところでボール遊びするのも禁止でしょ?」
Aさん「うるさくしてるとすぐに苦情が来るし、」
Aさん「それじゃ子供が寄り付かなくなってもしかたないですよね」
めい「そうですね」
めい「Aさんは子供の頃、ここでボール遊びとかされてたんですか?」
Aさん「私、こう見えても子供の頃は男の子に混じって遊ぶことが多かったんです」
めい「そうなんですか」
Aさん「サッカー得意だったんですよ」
Aさん「もうなくなっちゃったんですけど」
Aさん「向こうの方にサッカーゴールが置いてあったんです」
  Aさんが指差した先には、
  サッカーゴールの代わりにボール遊びを禁止する看板が設置されていた。
Aさん「学校が終わるとそのままこの公園に集合して遊んでました」
Aさん「でも不思議なんです」
Aさん「よく思い出してみると記憶の中に必ず、」
Aさん「どこの誰だったかわからない子が混じってるんですよね」
めい「知らない子、ですか」
めい「それはどんな子だったんですか?」
Aさん「いろいろです」
Aさん「男の子だったり、」
Aさん「女の子だったり、」
Aさん「年下だったり、」
Aさん「年上だったり──」
めい「子供の頃って知らない子ともすぐ仲良くなったりしますよね」
Aさん「でも一緒に遊んでた友達に聞いても誰も知らないって言うんです」
Aさん「私にしか見えてなかったみたいで」
めい「それは、」
めい「不思議ですね──」
  そのとき、
  私たちの近くで誰かが走る音が聞こえた。
めい「あれ」
めい「今、誰か通りませんでしたか?」
Aさん「さあ・・・」
Aさん「気がつきませんでしたが・・・」
めい「何か足音が聞こえた気がしたんですけど・・・」
めい(あれは・・・)
めい(子供の足音?)
Aさん「・・・」
Aさん「もしかしたら」
Aさん「通ったのかもしれませんね」
めい「どういうことですか?」
Aさん「その足音ってあっちの方に行ったんじゃないですか?」
  Aさんは、
  確かに足音が向かった方を指差していた。
  その先には古ぼけたブランコが設置されている。
Aさん「いつもあのブランコに乗ってた女の子がいたと思うんですけど」
Aさん「その子も」
Aさん「私にしか見えてなかったみたいなんですよね」
  そのブランコは、
  風もないのにキィ・・・キィ・・・と音を立てて揺れていた。

コメント

  • こういうさりげない日常に潜む怪異の話、どこかノスタルジックな雰囲気も相まって好みです。語り手のAさんが大げさではなく淡々と語るのもリアリティがあっていいですね。

  • 公園と言えば、確かに最近ボール遊びをしている子を目にしなくなりました。
    子供たちが遊ばない公園とは一体…、と思ってしまいますが、心霊現象がある公園なら近づき難いです笑

  • その対象が見えないからこそ伝わる恐ろしさってありますよね。ブランコの幽霊(的な存在?)を映像化しないからこその空気感ですね。

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