幕間・万福亭(脚本)
〇古いアパートの部屋
雨野陽介「じゃ、もうちょい勉強した方がいいスね」
雨野陽介「人を死なせないのが仕事なら まず人のことを知らないと」
〇線路沿いの道
私は、昨日、陽介さんが言っていたことを思い出していた。
長谷川つばさ(・・・確かにそうだ)
長谷川つばさ(陽介さんの言う通り 私は人間さんのことをあまり知らない気がする・・・)
〇渋谷の雑踏
初めての人間界でのお仕事・・・
いっぱい勉強してきたつもりだけど
実際に会う人間さん──
陽介さんは、なんだか、
ずっと大変そうだった
〇線路沿いの道
長谷川つばさ(・・・)
長谷川つばさ(このままじゃ駄目な気がする・・・)
長谷川つばさ(陽介さんには、死んでほしくない)
もちろん、使命もある。
でも、それだけじゃなくて・・・
〇古いアパートの部屋
一緒に過ごしたのは
まだ一週間とちょっとだけど
陽介さん、真面目で優しい人だもの
〇線路沿いの道
そんな人が天命を果たさず死んじゃうなんて
嫌だ、って思う。
私に何ができるだろう?
〇可愛い弁当屋
長谷川つばさ(・・・あっ、しまった)
長谷川つばさ(今日は陽介さん、いないから 買わなくていいのに)
気付くと、私の足はいつものお店──
万福亭(まんぷくてい)に向いていた。
陽介さんのアパートから歩いてすぐのところにある、お弁当屋さんだ。
ここのからあげ弁当は本当においしい。
フクさん「つばさちゃん、いらっしゃい」
フクさん「今日もからあげ弁当かい?」
長谷川つばさ「あ、フクさん・・・ こんにちは」
万福亭のフクさん。
ここの店長さんで、私を見かけるといつもにこにこ笑ってくれる。
長谷川つばさ(そういえば、陽介さんが笑ったところ・・・)
長谷川つばさ(見たことないなあ)
フクさん「おや? なんだか今日は元気がないねえ」
長谷川つばさ「あ、いえ、その・・・ 何と言いますか」
長谷川つばさ「自分の不甲斐なさを感じた、というか・・・」
フクさん「あらあら・・・」
フクさん「まあ、人生は山あり谷あり」
フクさん「おばちゃんも若い頃は色々あったもんだよ」
フクさん「そんな時はねえ、たーんとお食べ!」
フクさん「おいしいものを食べたら 大体の悩みなんて吹っ飛ぶものさ」
フクさん「からあげ、一個多く入れとくよ!」
長谷川つばさ「フクさん・・・」
長谷川つばさ「ありがとうございます!」
フクさん「いいのいいの!」
フクさん「お父さん! からあげたくさん揚げてちょうだい!」
男の声「あいよー」
フクさんはすごい。
何か解決したわけじゃないけど
不思議と悲しい気持ちが吹き飛んじゃった。
・・・私にも
こういう力が必要なのかなあ。
でも、どうやって学んだら・・・
長谷川つばさ「・・・あっ」
私の目に飛び込んできたのは
"バイト募集"と書かれた貼り紙だった。
長谷川つばさ「あの・・・フクさん!」
フクさん「うん? どうしたの、つばさちゃん」
長谷川つばさ「そ、その・・・」
何も知らない私にできるかな。
ううん・・・
知らないからこそ、知らなきゃ!
長谷川つばさ「バイトって、私でもできますか?」