絶対死にたい俺vs絶対死なせたくない彼女

春野トイ

夢のスクラッチ(脚本)

絶対死にたい俺vs絶対死なせたくない彼女

春野トイ

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〇学校脇の道
長谷川つばさ「こっちですよ、雨野さん」
  長谷川はうきうきと俺の前を歩いている。
  この街の中心部に向かっているのだろう。
  駅があり、色々な店が立ち並んでいて、大抵の用事はそこで済む。
  ――ふと、俺は足を止めた。

〇田舎の学校
  学校だ。
  今は休み時間なのか、子どもたちが校庭で遊んでいる。
  そうだった。
  俺はこの道を通るのが大嫌いだった。
  さっきの喫茶店や前の職場のある場所から、駅まで一番近い道だ。
  でも、俺は遠回りをしてでも、違うルートで通っていた。
  学校には近寄りたくなかった。
  思い出してしまう。
雨野陽介(・・・俺は、どうして)
雨野陽介(自殺なんてしたいと思うようになっちまったんだろうな)
  いや、分かってる。

〇教室
???「・・・陽介」
???「お前もなのか・・・?」
  ――全部、あの日の俺が悪いんだ。

〇学校脇の道
長谷川つばさ「雨野さん?」
雨野陽介「あ・・・」
長谷川つばさ「大丈夫ですか? 顔色悪いですけど、休みます?」
雨野陽介「い、いや 早く行きましょう」
  俺は長谷川を追い越して、歩き出した。
  逃げるように。

〇銀行
長谷川つばさ「さ、着きました!」
雨野陽介「・・・」
雨野陽介「ぎ、銀行・・・?」
  案内された先は、銀行だった。
  金と言えば銀行。
  まあ、確かにそうなんだが・・・
雨野陽介「長谷川さんって、金持ちなんですか?」
長谷川つばさ「いえ、私は文無しです!」
雨野陽介「文無し」
長谷川つばさ「口座もありませんよ」
  そんな胸を張って言われても。
  さっきの喫茶店では金払ってなかったか?
  あれはまた別なのか?
  しかし、口座がないのに銀行に来て・・・
  一体どうするつもりだ?
長谷川つばさ「ここは私に任せてください すぐ済みますからね」
  長谷川は銀行に向かってずんずんと歩いていった。
  ・・・俺は、ふと、先日見たネットニュースのを思い出した。
  ◯×市街で発生した銀行強盗未遂、
  現行犯で逮捕!
雨野陽介「・・・は、長谷川さん、長谷川さん! ちょっと待ってください!」
長谷川つばさ「はい?」
  俺は長谷川の肩を掴んで、引き留めた。
雨野陽介「いや・・・さすがにヤバいですよ 犯罪ですって」
長谷川つばさ「犯罪?」
雨野陽介「天使の常識は知らないですけど、人間の常識として」
雨野陽介「銀行強盗はよくないです・・・!!」
  俺は自殺を考えるような、どうしようもない奴だ。
  褒められた人間じゃない。
  けど、目の前で・・・しかも俺のせいで、犯罪が成されようとしているなら、さすがに止めなくてはいけない。
  そのくらいの良心はあるつもりだ。
長谷川つばさ「・・・」
雨野陽介「・・・」
長谷川つばさ「え? 銀行強盗?」
雨野陽介「え、はい 銀行強盗・・・」
長谷川つばさ「そんなことしませんよぉ」
  けろりと長谷川は言った。
  え? 違うのか?
長谷川つばさ「それをすると、ちょっと影響が大きくなりすぎちゃいますし」
長谷川つばさ「・・・まあ、雨野さんがそっちがいいなら、考えますけど」
  ・・・その言葉は、
  銀行強盗は"しない"
  けど、"できる"という意味だった。
雨野陽介(ヤバいだろこの女!!)
  俺は末恐ろしさを感じながら、慌てて首を横に振った。
雨野陽介「か、考えなくていいです 結構です」
長谷川つばさ「よかったあ 私もその方が助かります」
長谷川つばさ「で、こっちです、こっち」
  長谷川が指さしたのは、銀行のすぐ隣。
  併設された、宝くじ売り場だ。
雨野陽介「た・・・宝くじ?」
長谷川つばさ「はい ちょっと待っててくださいね」
  そう言うと、長谷川は宝くじ売り場に向かっていった。
  ・・・数分後。
長谷川つばさ「お待たせしました!」
  長谷川は一枚のくじを手に戻ってきた。
長谷川つばさ「じゃ、削りますねー」
  買ったのは、紙面のところどころに銀色のカバーが施されたくじ――
  いわゆる、スクラッチくじというものだ。
  銀色の部分を硬貨で削れば、当たりはずれの結果がすぐに分かる。
  くじに書かれたマーク、この場合は○、△、☆と同じものが当たれば、どうも1000万円が貰えるらしい。
  ・・・俺は、とてつもなく嫌な予感がしていた。
  宝くじなんて当たるわけがないんだ。
  交通事故に遭う可能性の方が高い、なんて聞いたことすらある。
  なのに・・・
長谷川つばさ「はい、1等です!」
長谷川つばさ「これで1000万円ですよね」
  くじには、○、△、☆が確かにあった。
長谷川つばさ「必要ならもう少し足してきますけど、どうですか?」
  大したことは何もしていない。
  そんな調子で、長谷川は言う。
  何で当たったのか、なんてことは聞いてもきっと無駄だ。
  この女は、"当てられる"。
  それが事実だ。
  頭が痛くなってきた。
雨野陽介「・・・あの、長谷川さん」
長谷川つばさ「はい!」
雨野陽介「さっき、天命とか言ってたじゃあないですか」
長谷川つばさ「ええ」
雨野陽介「その・・・長谷川さんが今、くじを引いたことで、それに影響は出ないんですか」
  苦し紛れに、俺は質問した。
長谷川つばさ「ああ、それは・・・」
長谷川つばさ「天命は定められてますけど、さすがに一言一句ってわけじゃないんですよ」
長谷川つばさ「なので、このくらいなら大丈夫です」
雨野陽介「このくらい・・・?」
  1000万円が?
  このくらい?
  天使の倫理はどうなってんだ?
  神様はこんなに雑でいいのか!?
長谷川つばさ「とりあえず、お金の受け取り手続きしてきますね! 雨野さんはここで・・・」
雨野陽介「は、長谷川さん」
雨野陽介「・・・やめましょう」
長谷川つばさ「えっ? ど、どうしてですか? せっかく当たったのに」
雨野陽介「いや、こう・・・ やっぱ、なんか、駄目な気がするしさ・・・」
雨野陽介「ズルっていうか・・・ うまく言えないですけど・・・」
  俺だけこんなに楽して大金を得るなんて、許される気がしなかった。
  ・・・あと、この金を受け取るのは、ちょっと怖い。
長谷川つばさ「・・・」
長谷川つばさ「・・・雨野さんは、まじめですねえ」
  長谷川は、ぽつりと言った。
長谷川つばさ「そういう人が死んじゃうんですよね」
  俺はそんな人間じゃないのに、悲しそうに言った。
長谷川つばさ「・・・雨野さんを死なせない」
長谷川つばさ「それが私の使命ですけど・・・ 私個人としても、雨野さんには死んでほしくないです」
長谷川つばさ「ええと・・・その、だから お金がダメなら、何か別の方法で」
長谷川つばさ「あなたが生きたくなるようなお手伝い、させてくれませんか?」
雨野陽介「・・・」
雨野陽介「・・・嫌だ、って言っても無駄ですよね」
長谷川つばさ「それはまあ・・・その、はい 仕事ですので・・・」
雨野陽介「・・・必要以上に干渉するのはやめてください ただのお隣さんなんで」
長谷川つばさ「・・・!」
長谷川つばさ「はい、気を付けます!」
  厄介なことになってしまった。
  けど、この女を突っぱねたり、野放しにすると余計に厄介なことになりそうだった。
  だから俺は、とりあえず――
  隣人として様子を見ることにしたんだ。

次のエピソード:幕間・嘘か実か

コメント

  • つばさちゃんの能力がトンデモなことに、、、それに巻き込まれる陽介さん善良市民感も、、、2人が今後何をしでかすことになるのか楽しみです!

  • つばさちゃん、チート過ぎやしませんか...🤣
    1000万で「この程度」とは、次はどんな天命が待ち受けているのでしょうか...ドキドキです✨

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