森木街の殺人 (後編)(脚本)
〇オフィスビル前の道
二日後──
〇校長室
高馬浩司「う~む。どう考えても・・・」
高馬浩司「GBの推理通り、犯人は下着ドロ目的の大型の霊長類・・・というかゴリラだ」
兎川リナ「お兄ちゃん、また来たの?」
高馬浩司「ああ、まだ試用期間だけどね」
高馬浩司(でも本当に存在するのか? 人間の女性の下着に、そこまで執着するゴリラが・・・)
高馬浩司(もちろんGBは容疑者じゃない。彼が理知的な紳士であることは、皆が知るところだからな)
兎川リナ「ねえ、これ知ってる?」
高馬浩司「その壁のポスターかい?」
高馬浩司「もちろん知ってるよ。シャーロック・ホームズっていう実在した名探偵だ」
高馬浩司「助手のワトソンが記した伝記小説は、ぼくも子供の頃夢中で読んだなあ」
兎川リナ「こっちは誰? よいしょっと」
高馬浩司「ん? 額縁を裏返すと別のポスターが・・・」
高馬浩司「なんだ!? グラビアアイドルのセクシーポスター!?」
兎川リナ「もっとあるよ」
高馬浩司「机の上のGBの筆入れか」
兎川リナ「この中にね」
高馬浩司「何の鍵だい?」
兎川リナ「机の一番下の引き出しの鍵だよ」
高馬浩司「セクシー雑誌やエロDVDが大量に詰め込まれている・・・!」
高馬浩司(GBが、ここまで人間の女体好きだったとは・・・!)
高馬浩司(しかもランジェリー特集の雑誌もある・・・!!)
高馬浩司「あの天下に名だたるGBが、下着ドロ未遂のうえに殺人犯!?」
高馬浩司「たしかに、事件に協力した探偵自身が犯人だったという前例もあるけど・・・」
高馬浩司「醜いのは外見だけじゃなかった!?」
高馬浩司「いや、まさか!! GBに限ってあり得ない!!」
兎川リナ「もうすぐゴリラさん来るよ。いつもピッタリこの時間に」
高馬浩司「すぐに片付けよう」
GB「やあ、早いね」
高馬浩司「え、ええ・・・」
GB「リナくん、これから大事な仕事の話があるから外に出ててくれないか」
兎川リナ「うん、いいよ」
GB「例の事件の犯人だがね」
GB「知り合いのマスコミに頼んで、あの殺人事件を依頼されたのが、私であることを報道してもらったんだよ」
高馬浩司「たしかに昨日のスポーツ新聞の一面に、〝『森木街殺人事件』に名探偵GBが挑む!〟と派手に出てましたが──」
高馬浩司「あれは、あなたがやらせたんですか? 何のために?」
GB「そのことを知った犯人が、私の事務所を訪ねて来るからさ」
高馬浩司「え!?」
GB「来たようだな」
GB「入りたまえ」
富永「ど、どうも。富永だ」
富永「その彼は?」
GB「新しい助手候補だよ」
高馬浩司「初めまして、斎藤です」
高馬浩司(なんだろ? この人、明らかに違和感が・・・)
GB「久しぶりだね、富永君。私に何か用があるのかね?」
富永「そ、それは・・・」
GB「あのマンションで、何があったのかね?」
GB「そのことを話しに来たんだろ」
富永「ま、まあ・・・」
高馬浩司「GB、この人って・・・」
GB「オランウータンの富永君だよ。私と同じ自由身分の」
高馬浩司「オランウータン!! 言われてみれば・・・!!」
富永「う、うぐぐ・・・」
GB「話しにくいようなら、私が代わりに説明しよう」
〇中規模マンション
GB「あの夜きみは、ムラムラとして眠れず、近所を散歩でもしてたんだろう」
富永「お・・・!」
GB「そして、女ものの下着が干しっぱなしになっているベランダをたまたま見つけた」
GB「部屋の明かりは消えていたから、もう就寝していると思い込み──」
〇団地のベランダ
GB「すばやく四階のベランダまでよじ登った」
〇団地のベランダ
GB「だが照明が消えていただけで、ガイシャは起きていたんだ」
GB「物音に気づいて照明を点けたら、窓越しに君の姿を目にしてしまい──」
GB「切り裂くような恐怖の悲鳴をあげた」
〇おしゃれなリビングダイニング
GB「ベランダの窓はロックされてなかったから、君は中に入ってなだめようとするが・・・」
富永「あ、怪しいものでは・・・」
富永「な、何もしませんから・・・」
GB「するとガイシャは、急に倒れて動かなくなってしまう」
〇校長室
富永「調べたら心臓が止まってるんだよ」
高馬浩司「嘘だ!! ガイシャは胸をグシャグシャにされて殺されたんだぞ」
富永「そ、それは・・・」
GB「話を続けよう」
〇おしゃれなリビングダイニング
富永「タイヘンだ!!」
GB「きみはガイシャに息がないのを確認すると、すぐに心臓マッサージを施そうとした」
富永「た、たしか、こういうふうに・・・」
GB「だがいくらやっても女性は息を吹き返さない」
「焦るあまり、だんだん力を込めすぎて──」
富永「ウッホウッホ!!」
GB「女性の胸を押し潰してしまった」
〇校長室
GB「おそらく女性の死因は、強いショックによる心臓発作だろう」
富永「そうなんだよ!! さすがGB」
GB「はじめから、乱暴する意図はなかったんだな?」
富永「ないよ。だってオバチャンだし。いや、若くてもしないけど」
富永「だから俺は無実なんだよ!」
GB「けっして無実とは言えないがね。しかしそれなら、なぜ自首しなかった?」
富永「したら俺は終わりだ。殺処分されちまう」
GB「われわれは国から人間と同等の権利を与えられてる。公平な裁判を受けられる」
富永「そんなことが信じられるか!! 先に権利を剥奪されて殺処分だ。しょせんは獣扱いだ」
富永「俺は下着ドロの前歴もあるし・・・」
富永「あんた、この事件に協力してるんだろ? スポーツ新聞で見たよ」
富永「だから、何とかしてもらいたくて来たんだ」
富永「俺を不起訴処分にしてくれ。頼む」
GB「人が一人死んでるんだ。そうもいかんよ」
富永「なんでもするから!! 俺のコレクションを全部譲ってもいい!!」
GB「無理を言うな。大人しく法の裁きを受けろ」
GB「今から警察が──」
富永「ウオオオーーッ!! だったら俺は逃げる!! どこまでも!!」
高馬浩司「うわああっ!! 気が動転して暴れ出した!! すごい怪力だ!!」
GB「落ち着け!!」
GB「落ち着いたかね?」
高馬浩司「これは!! ゴリラボンバ─(GB)だ!!」
GB「グレイトブレーン(GB)だ」
鵜飼刑事「お見事です。GB」
高馬浩司「鵜飼刑事・・・!」
GB「私が連絡しておいたんだよ。 鵜飼君、後は頼んだよ」
鵜飼刑事「わかりました」
〇オフィスビル前の道
富永「トホホ・・・」
〇法廷
斎藤「GBの言った通り、富永は公平な裁判を受けることができた」
斎藤「その結果、ガイシャに心臓疾患があったことが証明され、重刑は免れた」
斎藤「ただし、自由身分は剝奪され、厳重な監視下の飼育施設(モンキーセンター)に戻されることとなった」
〇校長室
高馬浩司「いやあ、見事な推理でしたね」
GB「彼のことは昔から知っていたからね。今回は、推理というほどのものではないよ」
高馬浩司「富永とは、どういうお知り合いなんですか?」
GB「何度かセクシー本を貸してくれ・・・いやいや」
GB「自由身分を得るための国家試験でいっしょだっただけだ」
GB「この事件のポイントは、ガイシャの女性が彼の姿を目にして異常に恐怖したこと」
GB「あまりにも彼の容姿が醜いせいだ」
GB「彼は肌が弱くて体毛が剃れないと言ってるが、剃ったらさらに不細工になるのは、火を見るよりも明らかだ」
GB「まさに、オランウータンゆえに起きてしまった悲劇だな」
GB「不謹慎だが、つくづく自分がゴリラでよかったと思うよ」
高馬浩司(ええーーっ!!)
〇黒
森木街の殺人 完
「モルグ街の殺人」を連想させますね。
探偵側がゴリラっていうのが、一歩進んでる感じがしました!
そもそも推理小説は、そうした奇想天外から始まってるんですね。
ある意味、先祖返りのような。
推理ものの基本に立ち返ったような新鮮さでした!
読了しました。
殺人事件を起こした犯人は探偵のゴリラ……ではなくて知り合いのオランウータンでしたか。
あの姿でベランダに居たらそりゃショックを受けますわ……。素直に自首して下着泥棒をした事を白状すれば良かったものを。
こういう空気感の物語は好きです!
「GB」にも、意味があったんですね……