読切(脚本)
〇近未来施設の廊下
アレックス「何時間待たせるんだ!」
アレックスが悪態をつく。
火星中央宇宙港の税関は混み合っていて、私たち到着客の長い列は、二十分前から一メートルも進んでいない。
主人公「エラたちの言ってたとおりね」
主人公「バカンスの半分を税関で過ごす羽目になるって」
出発前に会ったとき、エラとイーサンは昨年の体験談を面白おかしく聞かせてくれた。
観光局のキャンペーンのおかげで、火星のリゾートは人気の旅行先になっている。
アレックス「機内でよく眠れてなかったら、暴動が起きてるところだよ」
主人公「せめて私たちが税関通ってからにしてほしいけどね」
アレックスは、通りがかった職員を呼び止めた。
アレックス「いつまでかかるんです?」
アレックス「これじゃ今日中に宿泊先までたどり着けなくなる」
入国管理局職員「密輸入が見つかりましてね」
アレックス「密輸入?」
入国管理局職員「偽ブランド品です」
入国管理局職員「最近多いんですよ」
出発前にニュースで見た。
地球製品は高額で取り引きされるので、ひと儲けしようと偽ブランド品を持ち込む業者が跡をたたないのだという。
アレックス「とんだとばっちりだな」
行列を見ながら、アレックスが言った。
空港利用客「誤解です! 待って!」
突然、フロアに叫び声が響きわたった。
若い女が制服の職員に付き添われ、どこかに連れていかれようとしている。
すぐに銃を抱えた警備兵が来て、有無を言わさずに連行していった。
入国管理局職員「次の方」
私たちの順番が回ってきたのは、一時間以上待ったころだった。
事務的な口調の係員が、目の前にIDスキャナをかざした。
スーツケースが開けられ、念入りに調べている。
すると、モニターを見る職員らが画面を指しながら、小声で何やら相談しはじめた。
一人が合図をすると、先ほどの警備兵がアレックスに近づいてくる。
空港警備兵「フレスナーさんですね」
空港警備兵「入国管理の者です」
空港警備兵「恐れ入りますが、こちらへ!」
顔面蒼白のアレックスが、私を振り返った。
悪い予感がする。
主人公「待って! 何かの間違いです!」
とっさに彼を引きとめようとしたが、警備兵のほうが早い。
あっという間に連れていかれる。
「もう安心ですよ」
不意に背後で声がして、両脇から腕をつかまれた。
気がつくと、別の警備兵二人が私をまもるように立っている。
空港警備兵「性質たちの悪い密輸売人でしたね」
主人公「何の話ですか?」
主人公「夫を返して!」
警備兵は驚いたように私の顔をじっと見た後、手持ちの通信機に向かってこう言った。
空港警備兵「盗難物件を無事確保しました」
空港警備兵「ただし、偽の記憶を上書きされているようです」
〈終〉
女性に名前がなくて「主人公」であることに違和感がありましたが、オチは想像できなくて一本取られました。偽造品ということは純正品もあるわけで、それはそれでまた怖い世界ですね。
予想していなかったオチの切れ味に衝撃です。税関でのチェック対象がまさかの、、、
火星を舞台にしたことでのSF感が一層作中の雰囲気と合いますね!
まさかのオチにビックリ‼️なるほどなぁ...面白かったです🌟