星舟の回想録

ラムダ

Ep02.邂逅する二人(脚本)

星舟の回想録

ラムダ

今すぐ読む

星舟の回想録
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇街の全景
  3年前
  旧ロシア沿海州
  ユーラシア大陸東方では、東アジア最後の救助活動が終わろうとしていた。
  侵食地域拡大の為である。
「現在海岸線上空を旋回中。 救難信号、及び生存者の発見には至らず」
「了解。 そろそろこの辺りも汚染が厳しくなってきた。 捜索終了。 直ちに帰投せよ」
「了解・・・いや、ちょっと待て・・・ あれは人じゃないか!? 至急至急!! 人間と思しき生命体をサーマルにて確認!!」
「変異の兆候なし!生存者の可能性大! 直ちに収容作業の許可を!」
「回収を許可する!! 周囲への警戒を怠るなよ! 医療チームスタンバイ」

〇塔のある都市外観
「速報です」
「本日アルマトイ政府は緊急の記者会見を開催し、ユーラシア最後の救助活動で生存者1名を保護したと発表しました」
「尚、今回保護された生存者には因子に対する強力な耐性が確認されており、今後は地表浄化手段の模索に期待されるとの事です」

〇大企業のオフィスビル
  1ヶ月後___
「・・・保護観察者ですか?」

〇個別オフィス
高官「ああ。 先日保護した例の少女だが、多感な年齢という事で精神面のケアが必要になった」
高官「そこで保護監察官の募集をかけたのだが、皆気味悪がってしまってな・・・」
高官「何せあの動乱の後だ。 いつ暴走するかも分からない未開の存在に付きっ切りとは、いかないからな・・・」
シラハマ博士「それで、最後に残ったのが私というわけですか」
高官「多忙の中誠に忍びないのだが、どうか頼めないだろうか?」
高官「乗艦時に厳重な検査、滅菌消毒にかけてあるので一応安全だとは思うが・・・」
シラハマ博士「データが何も上がっていないので作るものも作れないですし。そこまで多忙では・・・」
シラハマ博士「要するに、長期のメンタルケアですよね。 私以外に居ないんでしょう? いいですよ。やります」
高官「本当か!そうしてもらえると助かるよ」
シラハマ博士「それで、状態はどうなんですか?」
高官「良いとは言えないな」
高官「重度の記憶障害が出ていて自分の名前すら分からないそうだ」
高官「加えて実験に毎日駆り出され実質的な監禁状態」
シラハマ博士「ストレス環境に懸念が出てきたと・・・つまりはこういうわけですね?」
高官「察しが良くて助かるよ」
高官「今の時間は・・・昼か。 丁度良い」
高官「午前の実験を終えて食堂に居るはずだ。 食事ついでに挨拶してくると良い」
シラハマ博士「了解しました・・・」
高官「くれぐれも、頼んだぞ」

〇学食
  情報局、食堂。
「___と、言うわけで」
シラハマ博士「今日から君の保護観察をすることになった」
シラハマ博士「これからよろしく」
少女「はい・・・」
シラハマ博士「ここでの生活は慣れたかい?」
少女「まぁ、一応・・・」
シラハマ博士「どんな一日を過ごしているんだい?」
少女「実験して検査して、終わったら部屋に戻ります」
シラハマ博士「外に出かけたりはしないのかい?」
少女「勝手に外に出てはいけないと、皆から言われました」
少女「私はとても危険なので、と」
シラハマ博士「ふぅむなるほど・・・」
シラハマ博士(随分な扱いだな。 急ぎ過ぎでまともなケアが行われていないようだ)
シラハマ博士「・・・・・・辛くは、無いかい?」
少女「・・・・・・。 分かりません」
少女「私が大人しくしていれば、皆は助かるんですよね?」
シラハマ博士「決めた」
少女「はい?」
シラハマ博士「ちょっとこれから付き合ってくれ」
少女「え? でもこの後また研究所に行かなきゃ_」
シラハマ博士「いいよそんなもの。 サボってしまえ!」
少女「えっ?あぁっ!ちょっと!」

〇個別オフィス
高官「自宅で引き取る!? 一体どういう・・・」
シラハマ博士「はい。 保護観察担当の私が必要だと判断しました」
シラハマ博士「それから、実験の件。 当面は中断の方向で調整して頂きます」
高官「それはぁ・・・ちょっとなぁ・・・」
高官「引き取りはともかく、実験の日程は・・・ 上層部を通さなきゃならん」
高官「その子はすぐにでも創薬研究に駆り出せと、上が張り切っていてな」
シラハマ博士「彼女はモルモットではありませんし、ましてや宇宙人でもないんです」
シラハマ博士「とにかくもう決めた事ですから。 では、失礼します。 さ、行こうか」
少女「えっ、あっ、はい・・・」
高官「あ、こら!」
高官「困ったなぁ。 上になんと報告すれば良いものか」
「いいじゃないか。 好きにさせてやれば」
高官「あっ、あなたは!」
高官「少佐!? 休暇の筈では・・・」
???「なに、仕事人間は結局やる事無くてな。 盗み聞きで悪いが事情は大体分かった」
???「上へは俺から通しておく。 あの二人には必要な事だろう」
高官「いつもすみません・・・」
???「こういうのは無理に急いだってしょうがねえのよ。 2年前の中欧みたいにな」
???「危うい時、慌てて急いだ奴から死んでいった」
高官「酷い光景でしたね」
高官「二人とも、上手くやれると良いですが」
???「やれるさ。きっとな」

〇ショッピングモールのフードコート
少女「あの・・・」
シラハマ博士「何?」
少女「良いんですか?外に出ても」
シラハマ博士「良いさ。 当然って顔してれば大丈夫だよ」
少女「私、危険な存在なんですよね? 迷惑がかかるかも知れないし・・・」
少女「ましてや、人の家に住むなんて! その・・・」
シラハマ博士「私の?」
少女「はい。 あの、何とお呼びすれば良いですか?」
シラハマ博士「あぁっ!これはすまない! 自己紹介を忘れていたよ」
シラハマ博士「白浜千秋。研究所の隅っこで働いている。 よろしく頼むよ」
シラハマ博士「名字でも名前でも、隙に呼びたまえ」
少女「はい。宜しくお願い致します。 ええと・・・博士」
シラハマ博士「博士か、無難で結構」
少女「それで・・・」
少女「どうして、私を引き取ってくださったんですか?」
シラハマ博士「君の力になりたいと思った。 それだけさ」
少女「私、何の役にも立っていません。 それなのに_」
シラハマ博士「役になんか立たなくて良い。 何も頑張らなくても良い」
シラハマ博士「私の目的は、君をしっかりと守り、すくすくと育てる事」
シラハマ博士「君が君自身の為に生きられるようにね」
シラハマ博士「それが、最後には皆を助ける舟になる」
少女「言っている事が・・・よく分かりません・・・」
シラハマ博士「君はこれから好きなようにして良い。 それは私が保証する」
シラハマ博士「つまりはこういう事さ」
シラハマ博士「まぁゆっくり休むと良い。 それが、今の君にとって必要な事さ」
シラハマ博士「・・・ニィナ!」
少女「ニィナ?」
シラハマ博士「君の名前だ。 私が今考えた」
シラハマ博士「どうかな? 本当の名前を思い出すまでで良いんだ」
少女「ニ・・・イ・・・ナ・・・」
ニィナ「ニィナ・・・私の名前は、ニィナ」
ニィナ「ありがとうございます。 その、嬉しい・・・です。 初めて何かを知ることができました」
シラハマ博士「やっと笑ってくれた。 私もほっとしたよ」
店員「お待たせしました」
ニィナ「これは・・・? 暖かい。それに、色んな匂いがする」
シラハマ博士「今日は殆ど何も口にしていなかっただろう?」
シラハマ博士「ささやかながら、今日は君の歓迎会だ」
シラハマ博士「食事とは本来、こうして会話を楽しみながらゆっくりと味わう暖かなものなんだ。 また一つ賢くなったね」
ニィナ「楽しめていたでしょうか?」
シラハマ博士「少なくとも、私は楽しかったよ?」
  ぎこちない手つきで一生懸命に頬張る姿。
  昼間の陰鬱さはとうに消え、どこにでもいる一人の純朴な少女になっていた。

〇部屋のベッド
ニィナ(白浜博士・・・)
ニィナ(悪い人じゃ無さそう・・・)

〇本棚のある部屋
シラハマ博士(果たして、これで良かったのだろうか?)
シラハマ博士(いや、これで良い。 放っておけば確実に気を病んでいただろう)
シラハマ博士(浄化の為とはいえ、上も後先考えずに無茶をするな。 ・・・何かに追い立てられているのか?)
シラハマ博士(まぁ良い・・・ 今はとにかく、少しでも懐いてもらえた事が何よりの収穫をすべきだな)
  未知の可能性を秘めた少女ニィナ。
  そのファーストコンタクトは穏やかであると、博士は密かに胸を撫で下ろすのだった。
  Ep02.邂逅する二人

ページTOPへ