⑭最終投票・その前に(脚本)
〇おしゃれな教室
山里先生「さて、最終投票では、紹介役の話や各ステージでの議論を踏まえて、一番読みたくなった本に投票してもらいます!」
山里先生「ここで初めて、本を選ぶんだ。 いろんな角度からフレーズを眺めてきたけど、それが載ってる本を読みたいかどうかがポイント!」
山里先生「ほら、フラグ質問でいろいろ想像したおかげで元の本を読みたくなることもあれば、逆に本を見て初めて興味わくってこともあるよね」
山里先生「あるいは、フラグ質問では面白かったけど、実際の出典を見たら興味なくなったー、なんてこともあるかもしれない」
山里先生「そんなこんなを踏まえて、今の時点で一番読んでみたい本を選んでください」
山里先生「もちろん、投票したからには絶対その本を読めー、隅から隅まで読めー、なんてことは言わないから安心していいよ」
山里先生「そもそも、読書っていうと1冊の始めから終わりまで丸ごと読まなきゃいけないって思い込み、あるよね」
山里先生「だけど、フレーズひとつでも面白い、言葉ひとつからでもイメージは広がるってことは、ここまででみんなも体験してくれたはずです」
山里先生「そして、フレーズだけで面白いなら、その本の中にはさらに面白い世界が広がってるかもしれない。そんな風に思って投票してみてね」
山里先生「投票は1人1票、これまでと同じように──」
そこまで言いかけて、先生の言葉が止まった。
どうしたのかと思う暇もなく、教室の入口の戸ががらりと開いた。
山里先生「あ・・・戸橋!」
戸橋「どーも、おはよーございまーす! ・・・早くないけど」
山里先生「お前・・・大丈夫なのか?」
戸橋「うん、怪我はしちゃったけど、元気は元気です!」
山里先生「ああ・・・そりゃよかった。 心配してたんだよ。親父さんから、今日は欠席かもって連絡あったからさ」
戸橋「いや、欠席するほどの怪我ってことじゃなくて・・・病院がすげー混んでたんですよ。コロナの影響とかなんとかいって」
山里先生「ああ・・・それで、怪我ってのは?」
戸橋「今朝、階段でコケちゃったんですよ。足踏み外してダーッて落ちてグギッて捻って。 すげー腫れたんで骨折かって思ったけど・・・」
戸橋「レントゲンとったらヒビも入ってなくて、ただの捻挫だって!」
山里先生「・・・まあ、大したことなくて何よりだ」
岩原「心配してたんだよ、何かあったんじゃないかって。 昨日、戸橋んちの前を通ったら、親子喧嘩みたいな声も聞こえたし──」
戸橋「何言ってんだよ。俺と親父の喧嘩なんていつものことじゃん!」
戸橋「それに、親子喧嘩なら病院行くような怪我なんかしねーって。 ガキの頃から、プロレスごっこで鍛えてるもん」
岩原「・・・心配して損した」
山里先生「・・・まあ、これもフレーズの影響力、ってものかもしれないな」
山里先生「岩原の言った「戸橋んちの親子喧嘩」ってフレーズで、みんなの想像が膨らんだ。 それで心配したけど、言葉にはそんな力もある」
山里先生「何はともあれ、みんなで戸橋のことを心配してたんだぞ。 一言、お礼くらい言っとけよ」
戸橋「え・・・ どーも、ご心配おかけしました!」
戸橋「おかげで怪我も治りました! ・・・ってのはウソだけど、心配してもらえるってのは嬉しいもんだね」
戸橋「この授業で何をやってたのかなーって気になるけど・・・フレーズの力、ってのは、今なんとなく分かった気がします!」