衝撃変身の閃花

こじまとしかず

衝撃変身の閃花、参上!(脚本)

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〇渋滞した高速道路
  まだ太陽が昇らない早朝。
  オフィスビルの間を通る高架式の高速道路。
  ジャンクションは三層に重なり6本に分岐する。
  ヘッドライトを灯した車列。
  H形鋼を満載したトレーラーが走る。
  大あくびした運転手が、前方の合流部分に
  本線に入ろうとしている車を見付ける。
  面倒臭そうに「邪魔だよ」とアクセルを踏む。

〇高速道路
  加速するトレーラー。
  突然、合流部分の先の路面が波打ち、きしんだ音を立てて横倒しに傾く。
  トレーラーの運転手が慌ててブレーキを踏む。
  が、高架の外へ飛び出す。
  真っ逆さまに落ちるトレーラー。

〇ビジネス街
  ジャンクションの下一面に、H形鋼が降り注ぐ。
  ビルや地上の車、街路樹を突き刺し、押しつぶす。

〇壁
  崩れた高速道路。
  その橋脚の陰から黒ヘルメットの集団が立ち去る。
  その中に黒い角の生えた頭がある。

〇学校の校門
  登校時間の晴山高校、正門前。
  「生活向上委員会」の腕章を付けた生徒達と教師が門の脇に立つ。
  門をくぐる生徒は少ない。
  小柄な花村綺羅星(16)が、少し興奮気味に正門横の棚橋圭介(28)に話しかける。
  綺羅星の腕にも「生活向上委員会」の腕章が巻かれている。
花村綺羅星「おはようございます、先生」
花村綺羅星「今朝の高速道路の崩落事故、大変でしたね」
棚橋圭介「最近、続いてるよな。 周辺が通行止めだから欠席者が増えるぞ」
  綺羅星が声を潜める。
花村綺羅星「あ、欠席と言えば、ずっと来てない岡野さんを見ましたよ!」
棚橋圭介「お! 声は掛けたのか?」
花村綺羅星「できなかったんです」
花村綺羅星「朝のランニング中に岡野さんちの前を通ったんですよ」
花村綺羅星「そしたら作業服を着た岡野さんが玄関先にいて、」
花村綺羅星「でも大きな箱みたいな車・・・・・・」
棚橋圭介「ワゴン車?」
花村綺羅星「それです。 さっと割り込んできて、岡野さんを乗せて行ったんです」
棚橋圭介「働いてるのか?」
棚橋圭介「だが、誰にも事情を言わずに休み続けるのはおかしいな」
花村綺羅星「車に乗るときも変でした」
棚橋圭介「変、て?」
花村綺羅星「何だか深刻な顔で、私と目が合っても『来るな』って、首を振るんです」
棚橋圭介「う~ん、学校での悩みを解決するのが俺達の役目だが、学校の外だとなあ」
花村綺羅星「それから、これ」
  綺羅星が畳んだ紙を差しだす。
花村綺羅星「ちょっと前に、2学期の行事予定表を持って行ったんです」
花村綺羅星「邪険にされてその紙を押し返されたんですけど、」
花村綺羅星「すごく爪を立てて握ってたのが気になって鉛筆でこすったら」
棚橋圭介「タスケテ・・・・・・か」
花村綺羅星「何か事件に巻き込まれてるんですよ!!」
棚橋圭介「お前、ちょっとワクワクしてる?」
花村綺羅星「え? ち、違いますよ!」
花村綺羅星「誰も『できる女をアピールするチャン』だなんて思ってませんよ! それよりも」
花村綺羅星「明日から岡野さん家の前で張り込みませんか?」
棚橋圭介「はあ~。教師をなんだと思ってるんだ」
  綺羅星が期待の眼差しで見詰める。
棚橋圭介「あーもう、しょうがないな。 岡野の仕事先を確認するだけだぞ!」
花村綺羅星「よっしゃ!」

〇住宅街
  翌日の早朝。
  岡野家の前の道。
  50メートルほど離れた路肩に停まっている乗用車。
  車内には綺羅星と棚橋。
棚橋圭介「ふあ~、眠い。 これは何日も続けられないぞ」
花村綺羅星「まだ初日ですよ。 あ、出てきました!」
  棚橋の顔もピリッと引き締まる。
  作業服の岡野静香(16)が、暗い表情で家の前に佇む。
  綺羅星たちの車の横を黒いワゴン車が通り過ぎ、岡野家の前で停車。
  後ろのドアにクワガタのイラストと「妻見建設」のロゴが描かれている。
花村綺羅星「あれ、同じ車です」
棚橋圭介「よし。追うぞ」
  妻見建設の車が突きあたりを曲がったのを見届けて、棚橋の車が走り出す。

〇繁華な通り
  早朝の繁華街。
  酔っぱらった人がフラフラ歩いている。
  その上空に覆いかぶさる高速道路。
  分岐箇所が「人」の字を二つ重ねたように、二層になっている。
花村綺羅星「あそこに車がありますね」
  綺羅星が指さした橋脚の横に「工事中」の看板。
  カラーコーンで囲まれたスペースの中に妻見建設の車が停まっている。
花村綺羅星「ここじゃよく見えないな。 行きましょう」
  綺羅星が、マスクで顔を隠して車を降りる。
棚橋圭介「おい、危ないだろ!」
  追いかける棚橋。

〇ビルの裏
  妻見建設の車の奥、高速道路下。
  橋脚を背にした静香が泣いている。
  「現場監督者」のバッジを付けた中年男が静香に、苛立ちながら迫る。
現場監督「偉大な革命に貢献するんだ。しっかりしろ!」
岡野静香「でも、これが壊れたらたくさんの人が・・・・・・」
現場監督「革命成功に直結する作戦なんだ。 革命戦士にとっては名誉なことだぞ」
岡野静香「私は戦士じゃありません。 ただのバイトです」
現場監督「前の現場で3人も死なせた優秀な戦士じゃないか。 腹をくくれ」
  現場監督が自分のヘルメットをポンと叩く。
  その姿が怪人・ブラストスカルに変る。
ブラストスカル「ほら。 痛い目に遭わないうちにやるんだよ」
  静香が横をすり抜け、逃げだす。

〇ビルの裏
  綺羅星と棚橋が、物陰に隠れながら高速道路下に接近。
  綺羅星が「あっ」と言いかけ、慌てて口を閉じる。
  奥の高速道路下から静香が走ってくる。

〇ビルの裏
  静香は10メートルほど逃げたが、
  虚空からにじみ出るようにブラストスカルが現れる。
ブラストスカル「無駄だぜ」
  ブラストスカルが手にしたコントローラーのスイッチを押すと、静香の作業着の冷却ファンが回り出す。
岡野静香「いや・・・・・・!」
  静香の作業着が膨らみ、全身が黒く変化。
  怪人・スタグラスに変身。

〇ビルの裏
  棚橋が「怪物・・・・・・」声を上げそうになる。
  その口を綺羅星が押さえる。

〇ビルの裏
ブラストスカル「今日も実行犯として働け。 ほら行け」
  ブラストスカルがコントローラーを操作すると、スタグラスは回れ右して橋脚へ組み付く。
スタグラス「嫌よ」
  口では抵抗しているが、両肩の角を橋脚に突き立てる。
  ブラストスカルが紫のスカーフを頭の上に持ち上げると姿が消えていく。

〇ビルの裏
  綺羅星が高速道路下を進み、スタグラスの5メートルほど後ろから、
花村綺羅星「岡野さん!」
スタグラス「誰!?」
  姿を隠したブラストスカルが、綺羅星の背後に近づく。
  綺羅星のすぐ後ろで小さな足音がして、砂利が砕ける。
  棚橋が気付く。
棚橋圭介「花村、後ろ!」
  綺羅星が振り向いた瞬間、透明なブラストスカルが、綺羅星のマスクをした頬に拳を叩き付ける。
  その瞬間、白い閃光がほとばしる。
  
  ブラストスカル、スタグラス、棚橋も目がくらむ。

〇白
  光の中。
  すべてが制止したようにゆっくり動く世界。
  綺羅星のマスクからメタリックの膜が広がって、全身を包む。
  怪人・閃花に変身。
閃花「爆縮」
  つぶやくと、ブラストスカルの拳前面に触れながら、身長が5ミリほどに小さくなる。
  さらに腹と脚を曲げて丸く縮まる。
  この間、わずか0.0000001秒。
  ブラストスカルのゆっくり動く拳に足を着くと、スタグラスに向かって水平に飛ぶ。
  空中で半回転してキックの姿勢になりながらつぶやく。
閃花「拡張」

〇ビルの裏
  スタグラスの眼前に突然、身長2メートルの怪人・閃花がドロップキックの姿勢で現れ、
  スタグラスの肩の角を蹴り飛ばす。
閃花「ごめ~ん!」
スタグラス「きゃー!」
  甲高い音とともにスタグラスの黄金の角が根元から折れる。
  吹っ飛んだスタグラスの前に立つ閃花。
  視力が戻った棚橋が倒れたスタグラスを見付け、叫ぶ。
棚橋圭介「岡野っ!」
閃花「ごめんね、岡野さん。 破壊工作は止めさせてもらったよ。 ガイコツっぽいのに脅されたんだね」
  スタグラスが戸惑いながらうなずく。
  意を決した棚橋がスタグラスに駆け寄る。
棚橋圭介「大丈夫かっ!」
  引っ張り出そうとするが重くて動かない。
棚橋圭介「くっ! 重い・・・・・・」
  スタグラス、手で顔を隠し
スタグラス「やだもう・・・・・・」
閃花「先生、女の子に失礼!」
棚橋圭介「え、おまえ花村か?」
閃花「今、その確認?」
棚橋圭介「あまりにもデカいから、見違えたよ」
閃花「もう! アタシのカッコいいところ見ててよね」
ブラストスカル「邪魔はさせねえぞ」
  つぶやくと、スカーフで透明になる。
棚橋圭介「消えたっ!」
スタグラス「襲ってきます!」
  辺りを見回し、身構える閃花。
  突然、閃花の頭が殴られる。
  瞬間、閃花の姿が消える。
  スカーフを下げて姿を現したブラストスカルが、辺りを見回す。
ブラストスカル「どこへ行った!?」
  「ここだよ」
  はっとブラストスカルが自分の足元を見る。
  そこに5ミリの大きさの閃花。
  右拳を溜めた姿勢。
閃花「元気に~」
閃花「手を挙げて!!!」
  拳を突き上げ、一瞬で2メートルの身体に。
  拳がブラストスカルの顎にめり込み、外装が砕け散る。
ブラストスカル「ぐああああーー!!」
  ブラストスカルの身体が宙を舞い、頭から地面に激突。
棚橋圭介「やった!」
閃花「汚れ仕事はバイトにやらせて、自分は隠れて監視だなんて、クソ上司だね!」
棚橋圭介「すげーな、花村!」
  閃花、得意げに親指を立てる。

〇ビルの裏
  パトカーのサイレンが近づいてくる。
  はっとした閃花が、倒れたままのスタグラスと棚橋に駆け寄り、
閃花「先生。岡野さんが捕まったらまずいよね」
棚橋圭介「いや、逃げるのはもっとまずい」
棚橋圭介「岡野が脅されていたことを俺たちが証言して」
棚橋圭介「守ってやるんだ」
閃花「えっ!?」
閃花「・・・・・・でも、」
閃花「そうか。わかった」
閃花「岡野さん、肩痛いよね」
閃花「この変身、どうやったら解けるの?」
スタグラス「あの人がコントローラーを、」
スタグラス「あ!」
  ふらふらと立ち上がったブラストスカル。
  スカーフを引き上げる。
棚橋圭介「花村! あいつを逃がすな!」
ブラストスカル「お前ら、許さねえぞ・・・・・・」
  声を残して透明になる。
棚橋圭介「くそっ!」
  閃花の姿が
  ふっと消える。
  次の瞬間、
  ブラストスカルがいた方向で
  ドバーンッ!!と爆発音。
  もうもうと土煙が舞い上がる。
  ドサッと何かが倒れた音。
  土煙の中、
  閃花が、ぐにゃりとしたブラストスカルを引きずってくる。
閃花「解除スイッチ確保」
  目を見張る棚橋。
棚橋圭介「今のは何だったんだ?」
閃花「衝撃波で挟んだの」
棚橋圭介「え?」
閃花「あいつのいる辺りをマッハ10で往復するの」
閃花「で、あたしの後ろにできた衝撃波が」
閃花「あの辺りをバーンて挟むわけ」
閃花「スゴイでしょ?」
  呆然と閃花を見詰める棚橋
閃花「照れちゃうなあ」
  閃花が両腕を広げ、手先をクイクイと動かし
閃花「ほめたたえてくれても、いいんですよ?」
棚橋圭介「花村。お前・・・・・・」
閃花「うん、うん」
棚橋圭介「・・・・・・バケモンだな」
閃花「んもう! 先生!」
  思いっきり地団太を踏む、閃花。
  
  (おわり)

コメント

  • スイッチで怪人に変身する衣服というアイデアが新鮮でした。重量物を持ち上げるパワーアシストスーツなんかもあることだし、怪人は無理でも戦闘用スーツなんかはこの先ありえないとは言えないかもですね。

  • 怪人同士のバトルの中に人間の先生を挟むことで、身近なヒューマンドラマが生まれてラストも温かな空気感ですね。殺伐としたラストに向かいそうだったので、心安らぎました。

  • 怪人同志の悲劇的になりそうな闘いが、花村先生のキャラで抑えられたのがよかったです。まさか先生が怪人とは思いもしませんでしたが、生徒を救うたくましい女性戦士のようでかっこよかったです。

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